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王太子妃殿下には屈強な護衛がいる?
しおりを挟む近頃、刺客が尽く返り討ちに合う様子が暗殺ギルドからギルド、情報屋、街のごろつきそして町人へと伝わりとある噂が流行している。
王太子妃には屈強な護衛がいるらしい。
なのでどんな刺客が来ようと王太子妃宮は難攻不落の城だと。
とうとう令嬢達の茶会にまでその噂は届いたようでティリアは扇子の下で溜息を吐いた。
(屈強な護衛ですって?フレイヤだわ、それ)
「と、正直に言う訳には行かないしね……」
「ねぇ、ティリア様はお会いした事ありませんか?」
「へ?……いえ、それが全く。ただの噂では?」
「いいえ!何て言っても王宮の警備は厳重でそれを抜けて来た凶悪な刺客達が何故か王太子妃宮で捕縛されるらしいのです!」
「ねぇ、それに噂ではとっても美男子だという話ですよ~っ」
食事会や夜会、あちこちで想像される美麗で屈強なフレイヤの護衛騎士像。
実際にはたとえ他の王族を狙っても厳重な警備に困り果て、やっとの事で見つけた不用心に窓の開かれた王太子妃の部屋に刺客達が入るという実に単純なフレイヤの誘導に皆まんまと嵌っているだけの話なのだが、
まさか国一番の美女である王太子妃が寝巻きという薄着で短剣を夜中に振り回して発散してい……身を守っているとは考えもしないだろう。
(いや怖いわ、なにやってんのあの子)
けれど昔から照れ屋な所為で不器用な優しさを見せるフレイヤが好きだ。
ティリアこそ、そんなフレイヤに一番助けられて来たと自分自身は思っている。
そんなフレイヤの奇行にも見える行動が今まで一人の目撃者も出さず噂にもならなかったのは彼女の父が後始末していたからだ。
温和で美麗、年齢を感じさせないユーモアな性格のいかにもフレイヤの父ですという外見の彼女の父はあれで意外と恐ろしい人なのだ。
(後が怖い、やっぱり知らないふりしていましょう)
「ふふ……私は全く知らないんです」
「そうですか……親友のティリア様なら何か知っていると思ったのですが」
「ごめんなさいね」
(これが茶会に呼んだ理由ね、私は喋らないわよ!)
まさか実の娘同様に可愛がっているティリアをフレイヤの父がそんな事で消してしまう訳は無いし、別にフレイヤ自身も隠している訳ではないだろう。
けれどもティリアは思わず隠した。
一方王宮では、噂を聞きつけたルディウスがとある本を抱いてフレイヤの部屋を訪ねていた。
「フレイヤ……分かってるんだけどっコレは」
「……護衛騎士と王太子妃の悲恋小説?」
「こんなのが流行るなんてあんまりだよ!」
「罰すればいいのでは?」
「こんな事くらいで罰さないよ!」
フレイヤはふわりと微笑んで「そうですね」と笑った。
「フレイヤまさか君誘導したの?」
「ルディ様の言う通り、こんな事です実際は違います」
「そうだね……」
(存在しない相手だとしても、嫉妬で狂いそうだ)
けれどグッと堪えるようなルディウスの表情にフレイヤも少し胸が痛んだのだろうか、しばらく考えてから照れたように呟く。
「少し恥ずかしいけれど……私が鍛えていることも、返り討ちにしている事も公表して下さっても大丈夫です」
「でもずっと隠してたんじゃ……」
「お母様が結婚しろ、淑やかにしろと泣くので仕方なく」
「なるほど」
「屈強な護衛騎士も居ませんし、別に他の結婚相手を探す必要ももうありませんので、それに貴方が大切ですから」
そっぽを向いてしまったフレイヤの表情はよく見えなかったが耳が赤く……
(無いな。どんな表情をしているんだろう)
回り込んでみるとフレイヤは流行の悲恋小説を読みながらマカロンを食べていた。
「それ読むんだ」
「へっほうおもひろいでふよ?」
「ごめん分かんないわ。飲みこんでくれる?」
「でも……まぁ良い気分ではないですね」
結局ルディウスはフレイヤ自身が屈強なのだが、それはルディウスの秘密にすると決める。
「何故ですか?」
「俺だけが知ってるフレイヤだもん」
「ティリアも知ってますけど」
「ほんと空気読んで」
数日後ぱたりと悲恋小説が消えたことの真相はフレイヤと彼女の父しか知らない。
「おじ様は一体どうやったのかしら……」
「ティリー大丈夫よ!誰も消えてないわ!」
「それも怖いわ」
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