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王太子妃殿下は不本意である
しおりを挟む王太子妃とは暇なものではなく、時々繁忙期になるとティリアに会えない日が続くこともある。
会えないひと月を経て、今日はティリアが登城する日。
これまで刺客でそれを発散していたが、やはりティリアに会えるというのはフレイヤにとって欠かせない大切なことらしい。
久々の水入らず邪魔をしてはいけないとルディウスが王太子妃宮を出るところで丁度ティリアに遭遇した。
「ご機嫌よう、お会いできて光栄ですルディウス殿下」
「ティリア嬢、友人なのに堅苦しい挨拶は要らない」
(顰めっ面、本当にそう思っているのね)
「ふふ、ありがとうございます」
「ああ、じゃあフレイヤが待ってるよ」
「失礼しますわ」
結局待ちきれず迎えに来たフレイヤと廊下で鉢合わせして抱擁を交わすことになって今は半ば離れてくれない彼女を引き摺ってい……
(いや、これ引き摺られてる?)
「ティリー、今日は泊まってってね?」
「いいけどそんなに簡単に宿泊できるの?」
「ティリーなら大丈夫、にさせるの。今日から!」
「暴君!」
まぁでもきっと無理をしている訳じゃないのだろうと分かるので頷いておいて、ここに護衛は要らないので護衛騎士へ家に使いをお願いしておく。
「やったわ!久々のパジャマパーティーね」
「そうね、顔色が良くて安心したわ」
「勿論よ!今日は警備を増やして貰わなきゃいけないわ」
「……窓も開けないでね」
「当たり前よ!」
「けれど何故こんなにも狙われるのかしら……」
確かに普段から危険が多い王宮だと言ってもこんなに刺客が尽きないことは滅多に無い。王宮内の何者かが手引きしている可能性がある。
けれど、今日は私がここに居る。
すなわちこの王太子妃宮にはフレイヤの影達が全員揃ったと言う事。
ふざけている様に見えるフレイヤだが彼女は抜かりない。
きっとこの機会に調査する筈、
「あのね、外務大臣ったら私が気に入らないのよ」
「本当に抜かりないわね」
「ん?」
「犯人知ってたんかい」
「うん」
きょとんとした表情のフレイヤに溜息をついて「どうするつもり」と言葉を投げかけると「とりあえず皆には秘密ね?」と話し始めるその悪戯な表情を見て思う。
(やっぱり顔だけは絶世の美女……)
「何かね、端折って言うと大臣的には忖度できるオススメのご令嬢が居たみたいなんだけどルディ様が酷く拒絶して私を連れてきたから恨まれちゃったみたいなの」
「よくそれ端折って言えたわね」
「ん、でね排除できなきゃ殺してしまえって魂胆なんだって」
「怖いわ、よく寝れるわね」
「大丈夫!全部返り討ちだから!」
笑顔で準備されたティーセットを眺めるフレイヤの膝元でゴロゴロと喉を鳴らすディアゴ。
「ディアゴも怖がるわよ?」
「大丈夫よ、護衛が付いてるの。五人」
「ディアゴに?」
「私にも五人付いてるわよ?」
「……私がおかしいのかな?これ」
まぁその辺はルディウスが上手くやっているのだろうが、あまりにも楽観的なフレイヤが少し心配なる。
「影の方達、フレイヤの方が必要じゃない?」
「いいえ。ティリーが私の宝物だとバレると弱味になるわ!」
「説得力がありすぎるわね」
確かに彼女の母もまた身体能力的には普通の婦人だが、彼女の父は愛妻家で溺愛を超えて愛が重い。そんなおじ様は噂によるとおば様に騎士団ひとつほどの護衛を付けているらしい。
(しかも全員影でね)
なのでフレイヤからすれば私はかなり無防備に見えるだろう。
そして私は忘れていた。彼女のもう一つの才能を、
「それにね、才能のある侍女とメイドを鍛えたの」
「???」
「だから、侍女とメイドを鍛えたの」
「何言ってんの?」
やれやれと言った仕草のフレイヤにそれはこっちこそなんだけどと内心で悪態付いたもののすっかり忘れていた彼女の育成の能力を思い出す。
「見ててね」
「「「「妃殿下、お呼びですか」」」」
「……いや、今どっから出てきた?」
「普通に近くで仕事してた筈よ」
まるで影の者達のような身のこなし、身の潜め方。
騎士団の練習に顔を出していることも加えると、国家転覆どころか彼女はこの王宮内を強化しにかかっている。
「あのね、王太子妃宮の強さをカンストしようと思って」
「どこでその言葉覚えた?」
「市井よ!今は才能ある料理人を鍛えてるわ!」
「やめなさい」
あとで全部知った時のルディウスの絶叫とひどく取り乱した顔が想像出来て少しだけ笑ってしまった。
「ルディウス殿下はカンストしないの?」
「あのね、ルディ様は本気出せばめっちゃ強い」
「だからその言葉遣いどこで覚えてくんの」
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