離婚届は寝室に置いておきました。暴かれる夫の執着愛

abang

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実家に帰ろうとしていると、ふと気まずそうな執事の声



「奥様……今日はヘルビオ公爵家主催の夜会があります……」



ヘルビオ公爵家とは付かず離れず良い距離感を保っている。

けれど決して侮れる相手ではなく優秀とはいえまだ若いリジュに比べてヘルビオ公爵は経験値という武器があり、同じ王宮派とはいえヘルビオ公爵家には背後黒い噂も沢山あるので目を配るよう陛下からも命じられている。



勿論私ではなく陛下と交友があるリジュがだが、今はまだローズドラジェ公爵夫人という肩書き上、そんな夫の仕事の邪魔をする訳にもいかずパーティーへの参加を執事に伝えた。


(まぁ、私自身の評判にも関わるものね)


この際、無視をして実家に帰っても良いがそれでは追ってくるだろうリジュがパーティーを欠席して、次には夫婦の別居が町中で噂になるたろう。

何故か昔からその手の話には皆敏感で、私達が"いつまで持つのか"まるで賭けでもしているかのように観察している。



いつも特に言い争う必要も無かったし、別に相手にはしなかったがリジュを追う女性はなにも私だけじゃくて他にも沢山いる。


パーティーや夜会のたびに嫌味のオンパレードなのだから。



妙な噂になれば「ほら、やっぱり捨てられたのね」とそんな彼女達に言われるのが想像できてそれは癪だった。



(けれどリジュが手を出すだけあって根っから悪い人ってそうそう居ないのよね)



「お願いだから聞かせてくれるな」と願いを込めて瞼を伏せる私が泣いているのだと勘違いをした令嬢が慌ててハンカチを握って覗き込んでくれた事もあったし、


中には本当に嫌味な人だって居たけど、案外リジュの浮気相手の中には根がいい子が多いらしく「言い過ぎよ」って庇ってくれたりもするから憎めなくてもはやうちの人がごめんなさいの気持ちでいっぱいだった。

 
ドレスはリジュが用意してくれた物を着るのがなんとも癪なので、リジュが嫌がるから気に入って買ったものの着れていないドレスを選んだ。



(まぁ色味は合っているし、体裁は保てるわね)


彼が黒を主にした装いにする事は、送られてきたドレスでも分かるのでまぁ色味さえ合えば別の物でも公に文句は言えないだろうとお気に入りのドレスに初めて袖を通した。



リジュが贈ってくれたドレスも清楚で美しい黒のドレスだったが、背中の開いた膝までがタイトで膝下からが美しいシルエットでフレアになっている漆黒のドレスはエルシーの小柄だが引き締まった、素晴らしいスタイルを際立たせている。



パーティーのたびに思うのはありきたりな自分の髪色はどの色のドレスを彼が選んでも無難に合うなぁと安心することだった。


(うん、今日も不可なし)


リジュの連れている女の子達と比べれば華やかさも容姿も劣るかもしれないが、まぁ自分自身としては今日は高得点かなと巻かれていく髪を見つめながら思った。

綺麗にアップスタイルにされた髪は所々落ちるウェーブした毛束が色っぽくて、本当にウチのメイド達は有能だなぁと口元が綻ぶ。


いつもはリジュに合わせて背伸びして付けていた大人っぽい口紅も、化粧もやめて自分に一番似合うであろうものに変えた。



「どうかな?少し、華やかすぎるかしら」


「いいえ!淡い色味なのでとても純情かつ色香すら感じさせる絶妙な美しさですよ!素材が良いのでやりがいがあります!!」


「このキラキラ光るものは?」

「ラメと言って最近異国の者が作った新しい化粧品です」


瞼と、下瞼の側にチョンと乗せられたラメという何かが反射するたびにさりげなく輝いて涙に濡れたかのような色香を漂わせる。


青みのピンク色のリップは潤いがあってエルシーの小さくて形の良いぷっくりとした唇を彩っていた。



(奥様、本当に可愛くってお美しいわ!)


何故、自分が旦那様を取り巻く女性より劣ると思い込んでいるのか?と不思議で仕方がなかったが少々鈍感な所がまた愛らしいのだと脳内でエルシーの全てを肯定しながら送り出すメイド。


「ありがとう、レビィ。とても素敵で感動しちゃった」


扉を出る際に振り返ってそう言ってから照れくさそうに「ふふ」と笑って小さく手を振り護衛と馬車へ向かったエルシーに少しの間胸を押さえたまま、頬を上気させ硬直したのち「奥様……好きです」と思わず溢した。



「レビィ、浮気?」


通りすがりに悪戯に笑うこの邸の執事であるマルコにハッとして扉を閉めて廊下に出て笑った。


「そんな訳ないでしょ、でも素敵よね奥様」

「旦那様に殺されるぞ~」

「……そうね」


仕事に関してや、敵に対して残酷なほど容赦がないリジュがエルシーの事になるともっと狂気的なのを思い出して二人で震えた。


ふわりとした笑顔はとても善良にしか見えない。

けれど一度その狂気に触れて終えば忘れられないのだ。



(どうしてあんなに善良な奥様がリジュ様に落ちたんだろう)

マルコはこの心の中の疑問は死んでも口にする事はないだろうなと思った。


「あれ……、さっきのドレスって旦那様が贈ったものとは……」

「ふふ、奥様ったらお可愛らしい反撃でしょ?」


「あー……今日は荒れるぞ」

「……え?それだけで?」

「ばか!命が欲しけりゃ近寄らない事だよ!絶対!」

「わ、分かったわ」







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