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解けぬまま、すれ違う
しおりを挟むリジュが女性に会いに行ったってもう別に驚かなかった。
けれどその相手が王太子殿下の婚約者候補の令嬢だという事にはとても驚いたし、個人的な交流は殆ど無いにも関わらずお茶会にまで招待してくるあたり彼女はリジュにある程度の執着心があるのだと予想できた。
「清算する」その言葉の通りに行動したのかもしれないし、もしかしたら別の理由があるのかもしれない。
お願いだから前者であって欲しいと思ってしまう私はやっぱりリジュへの想いを断ち切ることはできないのだろう。
「ありがとう……これを知っているのは?」
「まだ把握できていませんが、メリーゼ嬢の忘れられない想い人が公爵閣下だとい噂がかなりの速さで広まっているようです」
「そう……分かったわ、ありがとう」
「あの、奥様……旦那様が来られています」
まさか、わざわざ弁明でもしに来た?
リジュがそんな事をした事は一度だって無いのに。
まさか「彼女を愛してしまったんだ」なんて言われたら私はどうするのだろう。離婚を申し込んでいながら自分勝手な思考だと自分で嫌になる。
大抵の場合、彼が理由なく黙って引き返すことは訪ねてきた限りは無いので仕方なく別邸の自室に招き入れることにして、使用人の皆には念の為に席を外しておいて貰った。
予想していたよりもしおらしい態度のリジュはどこか焦っているようにも見えて、これから彼の口から出るだろう言葉が怖かった。
「どうしたの?」
「エルシー……、誤解なんだ」
「……え」
どう受け取れば良いのか分からない。
まるで浮気がバレた時の言い訳の基礎的な台詞にも受け取れるし、普段からまるで浮気なんてしてないような堂々たる態度のリジュが態々伝えにくると言う事は心から訴えかけているとも受け取れる。
どちらにせよ、今彼がこの関係を維持しようとしていることにほっとした自分が居る。
そうなれば自ずと出てくる信じたいという気持ち。
けれど素直にそう伝えられないのは今までの事があるから?
ひとつ許して仕舞えば全て許してしまった事になりそうだから?
とにかく、私自身もリジュとの関係を終わらせる覚悟がまだ出来ていなかったことには気付いたが、それを持て余している。
「なんの誤解?」
「もう耳に届いているだろ、噂のこと」
「そうね、珍しいことじゃないでしょう?何度もあった事よ」
「メリーゼ嬢には確かに会いに行った」
「ーっ、帰って」
「聞いてエルシー、本当に彼女と何も無い。ただ警告しただけだよ」
「……警、告?」
「招待状の事を知って、またホワイト夫人の時のようにならないか不安だったんだ。それに、ディオの件もあった」
王太子殿下がなんの関係があるのだろう?婚約者候補とはいえあくまで立場上のもので公式的な決定ではない。
「殿下と、私の招待状になんの関係が?」
「まず、君を誘ったのは彼女の好意がディオではなく俺にあるから」
そんなことには気付いていると言いたいが、リジュの言葉の続きを待つ。
「エルシーにも危害を加えられたくないし、彼女はディオに相応しくないから……だから少しお願いしたんだ」
「お願いって?」
「婚約者候補を自ら辞退しろと言っただけだよ。それにエルシー、君に手を出すなとも」
「私はそれをどうやって信じるべき?」
「信じなくてもいいよ、そう思える時まで俺が償うから」
自分でも酷い態度だと分かっている、なのにリジュにどうしても冷たく当たってしまう。
言いたいことはもっと違うことなのにどうしても素直になれない。
「自業自得だからね、ちゃんと綺麗にしてエルシーにまた好きだって言ってもらえるように頑張るよ」
「だから、そんな顔しないで。君は何も悪くないのに」
そう言って頭に手を乗せてから寂しそうに微笑んだリジュは背を向けて扉の方に数歩歩いたあと、少し悩んでから「それと」と言葉を溢した。
「赤い髪のアイツは何してるの?」
「へ……」
「使うならアイツを使いな。大抵の事はそうした方がいい」
「….…っ、知ってたのね」
「うん、でもずっと見ててよ。それで知ってよ俺を」
返事は求められてないと思った。
だからただリジュから目を離さなかった。
(ねぇ、私はどうしたら良いの?)
「奥様、大丈夫ですか?」
「ええ……リジュは何か申し付けて行った?」
「メリーゼ嬢の茶会には出さないようにと……」
「いいえ、行くわ。だからフィリー卿を呼んで頂戴」
「……!分かりましたっ!」
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