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あまりにも壁が高い
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夕陽に染まる街並みはロマンチックだ。
そろそろ見えてくるだろう色素の薄い金髪を探して、やっと見つけるとワクワクする。
あの華奢な肩も、強気な碧眼も組み敷くとどう揺れるのだろう?
そんな事を考えているといつもの赤髪の護衛を連れたエルシーとすれ違いざまに目が合って慌てて手を取って引き止めた。
「エルシー夫人」
「……なんですか?離して」
エルシーの声が先か、護衛の手が先か、瞬時に私の腕を掴んだその力はひどく強い。
「いっ……離せ、私が誰だか分かっているのか?」
「主人に不躾に触れる者は許さない決まりでな」
「お前……っ、なんて無礼な……」
空いている方の手を勢いよく挙げたものの、言葉の続きは透き通るエルシーの声にかき消された。
「貴方こそ、相手が誰だか分かってるの?」
(フィリーに勝てる筈が無いじゃない)
冷ややかな視線、ローズドラジェの矜持か?
相手が誰だか分かっているのかと尋ねるその声もまた良い。
「フィリー、ありがとう」
「ああ。……あ」
「ん?」
エルシーの前で思わず顔が緩んでしまうのを引き締める。
よく引き締まった腰から順番に、薄い腹、柔らかそうな胸、白い鎖骨……と顔を上げていくと、人間離れした美しい顔が三つ。
「はぁ?」
いつの間に下がったのかあの赤髪の護衛は居ないし、空気が一気に重たくなったような気さえする。
(に、しても王太子まで来るのはやり過ぎだろ……)
「俺の大切なエルシーに何か用が?」
「エルシー、何かされてないか?」
槿花色の髪があざとく揺れて、若紫色の瞳は男だと知っていても落ちてしまいそうなほど色っぽい。
冷ややかな視線に身が震えて、淡々としながらも温かみのある王太子の声にさえ自分に向けられていないのに安心する。
「リジュ、ディオ殿下……!大丈夫です」
大袈裟にエルシーの肩を抱き込み、耳に口付けるリジュ閣下と、そんなリジュ閣下がエルシーの髪を下敷きにしないように肩から髪をよけてやり優しく頭を撫でながら言ったエルディオ殿下。
まるで神話か絵画、その三人の姿と明らかに敵わないだろう二人に挟まれている小さなエルシーの姿にまた身体の芯が熱くなる。
(あー他の男に触れられてる姿すら欲情するなぁ……)
「ひいっ……!」
まるで頭の中が読めているかのようなタイミングでこちらを射抜くように見た二人。
頭の高さを考えると、エルシーからは見えないが想像してたよりももっとゾッとするような禍々しいリジュ閣下の瞳と、重々しく威圧するようなエルディオ殿下の瞳。
途端に身が震えて膝が落ちる。
今日はもうこれ以上エルシーに近づけないだろうと慌てて挨拶をしてやっとのことで馬車に乗った。
けれどやはり、今日も生きている。
エルシー夫人に触れれば死だといっても過言ではなかったはずが、リジュ・ローズドラジェは死の淵から戻ったことで丸くなったのだ。
「わ、私は今日も生きてるぞ!」
それとも、エルシーはなんだかんだ言っても私に気があるのだろうか?それで私は生かされているのか?
とは言えやはり触れることもままならぬ女相手だと不完全燃焼。
「シークレットクラブにでも行くか……」
身分のしっかりとしたもの同士が素性を隠して通う秘密の場所、一度きりだったり、また会えたり、気兼ねなく擬似恋愛楽しめる店だがそれだけじゃない。
同意があれば部屋を借りてそれ以上の事をする事が出来る。
「さぁ、今日はどんな女に会えるかなぁ~」
今日は少し疲れたから、尽くしてくれる楽な女がいいなぁと考えながら馬丁に行き先を伝えて目を閉じた。
そう言えば私の事が好きでたまらないと隠せていないあの令嬢はどうしているだろうか?
エルシーのせいで行き場のないこの気持ちと身体を都合よく解消させるには従順で都合がいいんだが……
「今度、呼び出してみるか」
一先ず今夜は楽しもうといつもより少し綺麗になったような気がするシークレットクラブのエントランスを抜けた。
(に、してもどうしてエルシーにあんなに触れてエルディオ殿下は生きてるんだ?)
「ま、それは私も一緒か……ハハッ!」
そろそろ見えてくるだろう色素の薄い金髪を探して、やっと見つけるとワクワクする。
あの華奢な肩も、強気な碧眼も組み敷くとどう揺れるのだろう?
そんな事を考えているといつもの赤髪の護衛を連れたエルシーとすれ違いざまに目が合って慌てて手を取って引き止めた。
「エルシー夫人」
「……なんですか?離して」
エルシーの声が先か、護衛の手が先か、瞬時に私の腕を掴んだその力はひどく強い。
「いっ……離せ、私が誰だか分かっているのか?」
「主人に不躾に触れる者は許さない決まりでな」
「お前……っ、なんて無礼な……」
空いている方の手を勢いよく挙げたものの、言葉の続きは透き通るエルシーの声にかき消された。
「貴方こそ、相手が誰だか分かってるの?」
(フィリーに勝てる筈が無いじゃない)
冷ややかな視線、ローズドラジェの矜持か?
相手が誰だか分かっているのかと尋ねるその声もまた良い。
「フィリー、ありがとう」
「ああ。……あ」
「ん?」
エルシーの前で思わず顔が緩んでしまうのを引き締める。
よく引き締まった腰から順番に、薄い腹、柔らかそうな胸、白い鎖骨……と顔を上げていくと、人間離れした美しい顔が三つ。
「はぁ?」
いつの間に下がったのかあの赤髪の護衛は居ないし、空気が一気に重たくなったような気さえする。
(に、しても王太子まで来るのはやり過ぎだろ……)
「俺の大切なエルシーに何か用が?」
「エルシー、何かされてないか?」
槿花色の髪があざとく揺れて、若紫色の瞳は男だと知っていても落ちてしまいそうなほど色っぽい。
冷ややかな視線に身が震えて、淡々としながらも温かみのある王太子の声にさえ自分に向けられていないのに安心する。
「リジュ、ディオ殿下……!大丈夫です」
大袈裟にエルシーの肩を抱き込み、耳に口付けるリジュ閣下と、そんなリジュ閣下がエルシーの髪を下敷きにしないように肩から髪をよけてやり優しく頭を撫でながら言ったエルディオ殿下。
まるで神話か絵画、その三人の姿と明らかに敵わないだろう二人に挟まれている小さなエルシーの姿にまた身体の芯が熱くなる。
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途端に身が震えて膝が落ちる。
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それとも、エルシーはなんだかんだ言っても私に気があるのだろうか?それで私は生かされているのか?
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