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私でよけれ、よろしくお願いします
しおりを挟む「いやぁ、君の娘は相手が誰だろうと自分の意見をしっかり言えて素晴らしいな」
「ありがとうございます。しかし、ご子息も我が娘を守って下さる姿はりっぱでしたよ」
シーンと静まり返った場で、国王陛下と父上が楽しそうに話し出す。
空気の落差が激しい。
だけど、お父様の言葉に、少し引っ掛かりを覚える。
お父様の言葉は、まるでシャル様が国王陛下の息子だと言っているように聞こえるのだけど…。
「いやいや、うちの息子なんてまだまだだ。やっとこさ意中の相手を婚約者に出来た臆病ものなんだからな。な、フリードリッヒ」
「父上…今はその名では…」
国王陛下からフリードリッヒと呼ばれたシャル様は、気まずそうに私の方を見てくる。
「なんだ?もしかして、まだ身分を明かしていなかったのか?フリードリッヒ=シャル=トルーア」
「そんな…まさか…」
「ああ、もうめちゃくちゃだ…。アリア嬢、すいません…もう少しアリア嬢と仲良くなってからお伝えするつもりだったのですが…色々と順番が逆になってしまいました」
「グダグダと言い訳は良いから、男ならハッキリと言わんか」
なんとか説明しようとするシャル様に、陛下が背中を叩いて喝を入れる。
シャル様は少し痛がりながらも、一呼吸ついてから、私の前で礼を取る。
「改めて自己紹介させて下さい。私のこの国の王太子、フリードリッヒ=シャル=トルーアと申します」
自己紹介をしながら、フリードリッヒ殿下は付けていた眼鏡を外す。
どうやら眼鏡は魔道具だったようで、外した瞬間に、どこにでもいる茶色い髪から、王族特有の水色へと変わり、瞳の色も濃紺色へと変わった。
「騙すような形を取ってしまい申し訳ありません。ただ、貴女と初めてお会いした姿がこれでしたので、こうするしか無かった、という言い訳をさせてください」
「そんな、言い訳なんて…。ですが、そもそもどうして変装をされてたのですか?」
シャル様が王太子だったと言うことに驚きはしたものの、特に騙されたともショックを受けたりはしていない。
だけど、どうして我が国へ来た時に変装していたのかは気になる。
「今まで関わりのなかった国と貿易や同盟を結ぶ時は、王太子のお付として行く方が色々な物が見えてくるんです。なので、ブリックルでも、変装していたのです」
「そうなんですね」
そういわれれば納得してしまう。
確かに、王太子として訪れれば、全員取り繕った姿しか見せないが、その他の人の前では気が緩んでしまったりもするはずだ。それに、そうすれば王太子では目立ち過ぎて行けない場所に行って情報収集も出来る。
「ですが、昨夜再会した際に伝えるべきでした。申し訳ありません」
「いえ、変装していたことは理解出来ますので、どうか謝らないで下さい。それに、王太子様直々に国を案内して頂けるなんて光栄でした」
「そう言って頂いてありがとうございます」
安心したようにフリードリッヒ殿下が笑う。
そして、何かを決心したように真剣な表情をして、私の目を真っ直ぐ見てくる。
「あともう一つ、アリア嬢へ伝え忘れた…と言うより、僕に勇気がなくて、伝えられなかった言葉があるのですが、聞いていただけますか」
「はい、なんでしょうか?」
私の返事を返すと共に、フリードリッヒ殿下は私の前で膝を着き、何かをこちらへと差し出してくる。
その何かは、入れ物に入った指輪だった。
「アリア嬢…いえ、アリアさん。一目見た時から、貴女のことが好きでした。僕はまだまだ王太子としても、男としても未熟ですが、僕と一緒にこの国を支えていってもらえないでしょうか」
「あの、これは…」
「断って頂いても構いません。ただ、僕は本気で貴女のことを愛しています。ですので、僕が貴方の婚約者となるとこを許していただけませんか。そして、成人を迎えた後、僕と結婚して下さい」
沢山の人の前で、こんなにも熱烈な告白をされたことがなかったので戸惑ってしまう。
だけど、断ろうという選択肢はいくら考えても出なかった。
「私でよければ、よろしくお願いします」
「本当ですか!」
「はい。今、先程まで悩んでいたことが解決しました。どうやら、私もフリードリッヒ殿下のことが出会った時から好きだったようです」
「これは、夢でしょうか…」
「夢かどうか私が確かめてやろう」
「いっ!痛いです父上!」
惚けた顔をするフリードリッヒ殿下の顔を国王陛下が手加減なく抓りあげる。
それに悲鳴を上げたフリードリッヒ殿下を陛下笑い飛ばし、周りにいる人達に声を上げる。
「我が国民たちよ!やっと我が愚息に婚約者が出来たぞ!今夜は祝杯をあげるぞ!」
国王陛下のその言葉、周りから歓声が上がる。
「フリードリッヒ殿下!おめでとうございます!」
「フリードリッヒ殿下とアリア嬢にカンパーイ!」
「初恋が実って良かったですねフリードリッヒ殿下!」
「デートの際は是非うちに立ち寄ってくださいね!」
周りから次々にかけられる声に、フリードリッヒ殿下と私は、嬉しいやら恥ずかしいやら、どう反応していいか分からず、2人でただただ笑顔を浮かべるしかなかった。
その後、国王陛下が上手く取りまとめて下さるまでその時間は続き、ホテルに帰った時にはクタクタで、ベッドに倒れて気絶するように眠った。
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