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第7章 王都動乱

第26話 バルドーの……

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呪の館に近づくと館の全体像が見えてくる。
既に大半が崩れかけているが、土台や支柱も石で作られていて、大きな柱や梁なども高価な木材が使われていたのか、完全には朽ち果ててはいなかった。

玄関扉もなく、中を覗くと入口ホールの床の大半が抜け落ちていた。抜け落ちた地下部分をよく見ると、人骨と思しきものが大量に見える。

「この地下でどれほどの人間が殺されたのでしょうか……」

バルドーが呟くと他の皆も複雑な表情になる。

「呪いの核《コア》はあの奥に見える通路の先にあるようです」

アンナが地下の奥に見える通路を指して言う。

「横に階段があるようですな。たぶんあそこの裏に隠し階段の入口があるのでしょう」

2階から1階のホールに繋がる階段の下あたりに隠し階段の入口があるようだ。

慎重に残っていた床板の安全を確認しながら移動する。
階段の下にたどり着くと石造りの階段が下に伸びていた。構造から考えると元々は隠し扉でもあったはずだが、今は普通に階段が見えている。

ゆっくりと階段を下りながら、所々のゴミや残骸などは収納して片付けて行く。

見えていた所まで下りてくると、ちょうど1階のホール部分の下もホールのような広い空間となっていて、大量の人骨などがあった。

骨の大半が触れると崩れるほどに風化していたが、埋葬してやりたいと思い、触れずに全て収納していく。

そして奥の通路を進んで行く。
通路はすべて石で作られていて、崩れるような心配はなかった。しかし、通路の途中には幾つもの部屋があり、そこにも沢山の骨や家具の残骸、朽ち果てた書物などあり、全て収納して移動する。

通路の奥には礼拝堂のような空間があり、石造りの祭壇のような場所に、高貴な服を着せられた女性の真っ黒のミイラが横たわっていた。

「あれが呪いの核《コア》のようね。たぶん高貴で相当に能力の高い女性みたいね。たぶんこの女性を依り代にして、呪術で呪を集めたのでしょうね」

ミイラの女性には両手と両足、そして首に魔道具が付けられていた。

「生きた状態で呪いを全身に受けて、この魔道具で呪を体に定着させたようね」

余りに悲惨な状況に誰もが無言になる。

そして、驚いたことにバルドーさんが真っ青な顔をしていた。

バルドーさんの前の仕事なら、悲惨な現場は幾つも見てきたと思ったのだが、やはり呪い関係の現場は見慣れていないのだろう。

「思ったよりこの呪いの核《コア》は厄介そうです。申し訳ありませんがテンマ様も手伝ってもらえますか?」

「何をすれば良いのかな?」

「この女性のミイラを浄化魔法で覆って下さい。それも全力でお願いします!」

アンナの反対側に移動して準備する。

「テンマ様、思いっきり浄化をお願いします。私は完全浄化できるタイミングになりましたら全力で浄化を始めます」

「わかった!」

大きく深呼吸して、気合を入れ直す。そして気持ちを落ち着けてから全力で浄化を始める。

女性のミイラを浄化の魔力で繭のように包み込み、その繭の中に全力で浄化魔法をかける。

女性のミイラが金色と青色の光に包まれるように光を放ち、暫く続けていると手足と首の魔道具が灰のように崩れていく。
魔道具が完全に崩れ去った瞬間にアンナが高位の浄化魔法を掛ける。

部屋が光で満たされ、消え去った時には、女性のミイラは崩れ去り、祭壇の上には高貴な雰囲気の女性が立っていた。

す、透けてる!

女性はホログラムのような感じで、実態ではないとすぐに理解できた。

『あら、ここはどこかしら?』

女性は部屋を一望するように眺めて、念話で話しかけてきた。

「母上!」

何ですとぉーーーーー!

そう発言したのはバルドーさんだった。

『あら、どちら様かしら。ふふふっ、さすがに年上のあなたに母上と呼ばれるのは驚きね』

その女性は魅力的な表情で笑顔を見せて答えた。

確かに女性は30代前半ぐらいにしか見えない。しかし、現実の存在でなく幽霊のような存在ならあり得るのかもしれない。

「これは失礼しました。私はご子息のバルディアック様の知り合いで御座います」

バルドーさんは丁寧な貴族式のお辞儀をする。

『あら、あなたはバルディの知り合いなのね。あの子は……? あら、あの子に最後に会ったのは何時だったかしら?』

女性は記憶が曖昧のようで必死に思い出そうとしている。

『でも、あなたにはバルディの面影が何となくあるわ。もしかして親戚なのかしら。ごめんなさい、なぜか色々と思い出せないみたい……』

女性は悲しそうな表情をする。

「いえ、お会いするのは初めてになりますので、気になされる必要はありません」

『そうなのね。それよりバルディは元気かしら?』

「はい、元気にしております」

バルドーさんは顔を上げずに話をする。俺はバルドーさんの瞳に涙が浮かんでいることに気が付いていた。

『そうなのね。良かったわ。アメディアンがあの子を狙っているから心配を……』

女性がそこまで話すと何かを思い出したのか黙り込んでしまう。

「アメディアン……」

ドロテアさんが後ろで呟くのが聞こえる。

『ねえ、あなた! 本当にあの子は無事なの!? アメディアン、確か今はデンセット公爵になった筈よ、彼が息子を狙っているのよ!』

女性は記憶を取り戻したのか、またその影響なのか50代ぐらいまで容姿が老け込んだ。

バルドーさんは自然に涙を拭って顔を上げると女性に話をする。

「フリージア様がお付けになった護衛の者達が、無事にバルディアック様を逃がして保護しておりますのでご安心ください」

『そ、そうなのね。良かったわ……、いえ、良くないわ! 彼は国を奪う為に隣国と共謀して、そして……、闇ギルドと協力して私を……、私を生贄に……』

フリージアさんは更に老けていく……。そして何かに気付いたように呟く。

『私は死んだのね……』

バルドーさんはすでに涙を拭うことなく目には涙が溢れていた。

フリージアさんはもう一度バルドーさんに目を向ける。

『ふふふっ、あなたがバルディなのね。そんなに老けてしまって……、でも、それほど老けてもまだ生きていてくれたのですね?』

「はい、母上!」

『ああ、私は何かをされて、暗い闇の世界に引き込まれたのね。憎しみや悲しみ、人の悪意の塊が全身を包んで、抜け出したくてもさらに深い所まで沈んで行ったのを覚えているわ』

フリージアさんは辛く悲しい表情で呟く。

『でも、暖かい光が私に差し込んで、闇の底から私を救い上げてくれた……、ああ、そうよ、あなたとあなたから同じような光を感じるわ』

フリージアさんは俺とアンナを手で示しながらそう言った。

「フリージア様、私はご子息の仲間で友人でもあるテンマと申します」

「同じく私はアンナと申します」

俺とアンナは頭を下げ挨拶する。

『あなた達が息子と一緒に私を助けてくれたのね。そうなの2人がバルディと一緒に……。特別なお方のようね。ふふふっ、これなら安心して大丈夫ね。バルディ、この2人を大切にしなさい!』

「テンマ様は私の主です。そしてアンナはそのテンマ様の従者です。大切にするのは当然なことですよ、母上」

『ふふふっ、でも、今以上に大切にしないとダメよ』

「はい、母上」

『なんて幸せなんでしょう。創造神テラス様はなんと慈悲深い奇跡を……』

フリージアさんの姿が少しずつ輝きを放ちながら薄くなっていく。

「母上!」

『バルディ、あなたは暫く頑張って生きて、すぐに私に会いに来てはダメよ!』

「母上!」

『テンマ様、どうか息子の事をお願いします』

「はい、一緒に楽しく生きて行きます。ご安心ください」

『バルディ、私の可愛いバルディ、精一杯生きなさい!』

「ははうえぇーーーーー!」

フリージアさんは最後に優しい光を放ち姿が完全に消えてしまった。

誰もが言葉を発することなく、目の前で起きた奇跡に心を満たされていた。


   ◇   ◇   ◇   ◇


暫くして浄化が完全に終わったことを確認すると、祭壇の奥にも部屋があり、そこには莫大な財宝が保管されていた。たぶん当時の闇ギルドが貯め込んだお宝だろう。もちろん我々が頂くことにする。

全員で呪の館を出てくると、すでにバルドーさんはいつもの様子に戻っていた。

「今日は色々あり過ぎて疲れたぁ~。ゆっくりと休むことにしよう!」

「「「はい!」」」

俺の宣言にバルドーさん以外が返事してくれた。

「私もテンマ様にはゆっくりと休んで頂きたいのですが、予定通りこの地の周辺に壁を造ってこの地を封鎖して頂きたいと思います」

いやいや、なんで俺だけぇーーー!

「暫くは呪の館が浄化されたことは、秘密にする必要があると申したはずです。最初の計画通り、テンマ様には夜の間に敷地に外壁を造ってもらいます」

いやいや、フリージアさんが俺を大切にしろと……。

もう夜中だよ!

「食事だけさせてくれよ」

「もちろんです。しかし、急いでお願いします。私の友人たちが封鎖の為に頑張っていますから」

ちくしょうーーーー!

「わ、わかったよ!」

少し不貞腐れて返事する。

「それではよろしくお願いします。あっ、テンマ様、母上を助けて頂き本当にありがとうございます!」

バルドーさんは丁寧にお礼を言ってくれた。

お礼を言うなら、休みをくれぇーーーーー!

そして、たった1人で朝まで壁を造り続けるのであった。
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