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自分自身の醜さに絶望した夜を越え、次の日は早速カインによってデートに誘われていた。
彼に純粋な好意を向けられれば向けられるほどに、自分の汚さに嫌気がさしてくる。きっと私は仏頂面だったのだろう、でもそれを体調が悪いのだと心配したカインは早めに城に帰してくれた。

このままで良いのか、もういっそリスクを選んででも彼の前からいなくなるべきなのではないのか、と考え始めていた時のことだ。

母様の従兄であるジャクリム様から日時と場所が指定された手紙、許可証が届いた。
待ち合わせ場所は、懐かしいとすら感じる、バアルベリト魔法学院のカフェテリア。本来であれば学生でにぎわっているそこは、休みのせいで人がまばらになっていた。大体の学生は休日には近くの学生街に出かけている。

「よっ!久しぶりだな、ナーシャ」

記憶とあまり変わらない、焦げ茶色の元気そうな髪の毛に少し焼けた肌から活発さがうかがえる容姿。そして瞳は私や兄様、母様と同じ青。そんな目立つ容姿の端正な顔の男。それがジャクリム=グレイスヴァルクだった。血が繋がっているせいか、兄様に顔は似ている気がする。

「お久しぶりです。ジャクリム様。お忙しいところわざわざありがとうございます」
「……その喋り方」
「え?」
「きめえ」

こ、このジジイ……相変わらず口が悪い。
一応『お兄さん』という呼び方は私の年齢的にも、彼の年齢的にもどうかと思ったから、『様付け』で呼んだというのに、初っ端からその気遣いを完全に無駄にしてきた。しかしこんなところで彼との会話に心が折れてしまっていたら駄目だ。彼にとっての通常運転はこれなのだから。

「……それではどんな喋り方をすれば良いのですか?」
「まず敬語をやめろ。あと様付けも。ジャクリムでいい」
「じゃあ、叔父さんで」

母の従兄なので、性格には従叔父だが、この叔父さんには憎らしいジジイという意味でのオジサンという意味も籠っていたりする。昔から散々イジメられてきたのだ。こんな呼び方になるのも仕方がないだろう。昔から母様にも私にも駄々をこねて、時には厭味を言ってくる、自分の望みだけを全て叶えてもらえると思っている我が儘な伯従父への一種の意趣返しだ。

「なんかお前のその呼び方には嫌な意味を感じるんだよな。まあ、様付けよりはマシか。それでいい」
「え、いいんですか?」
「べっつにー。俺ももう、お兄さんって年じゃないし、何よりお前には様を付けられるような関係性じゃないしな。受け入れてやるから感謝しろよ!」

この呼び方を受け入れられたことは少し意外ではあったが、理由を聞いてこの人らしいと思った。昔から少しでも面倒だと思うと、意外な事でもそのまま受け入れるところがあるのだ。久しぶりの対面の挨拶を終えたところで、目的を話す。

「早速ですが、叔父さんにお願いしたいことがあるんです。昔私に語ってくれたあの『何度も繰り返す少年の話』をもう一度私に話聞かせてくれませんか?」
「……それは何故だ?」
「今、各地の物語を集めた本を出版しようと思っているんです。私、趣味が読書なので、シャルルメイルの子供向けに作ってみようかなって。その時に一番最初に叔父さんに昔聞いた話が頭に浮かんできたので、もう一度聴きたいなって思いまして」

こう聞かれるであろうことはなんとなく予測していた故に用意してきていた言い訳をそのまま口にした。元々本を読むのは好きだ。出版に関しては、それなりに説得力が欲しくて付け加えた言葉だが、この辺もなんとかなるだろうと踏んでいる。もし出版していないと詰め寄られそうになった時には、初めてやることだから、まだ時間がかかっているとでも言えば誤魔化すことはきっと簡単だ。書くのと読むのは違ったといえば、罷り通る気がする。

「ふーん。まあ、そういうことなら話してやるけど」

怪しまれずに、話を聞き出す切っ掛けを作り出すことに成功したことに安堵する。叔父さんは、一息吐いてから、あの物語を語って聞かせてくれた。
やはり記憶と変わらない物語。唯一思ったのが、変えた運命の大きさによって、代償が変化している部分くらいだろうか。

「その物語で運命を変えるたびに魔物が襲ってきたというのは、やっぱり運命を変えた代償なのでしょうか。回避不可能な、代償?」
「……そうだな、何かを成すには対価が必要だ。彼に与えられた過去に戻る力は戻る部分のみであって、本来あった出来事を変えるものではない。だから本来あるべきものだったから変化させた……いや、違うな。正確には分岐点を作ったその対価が本人やその周辺に降りかかったのだろう」

最終的に彼は好きな人と結ばれる未来を失った。
それが一番大きな分岐点を作った際の対価になったのだろう、そう彼は話した。その人自身が対価を差し出した場合、魔物に襲われず、差し出した対価に見合わなかった場合または何も差し出さなかった場合に魔物がその分の対価を徴収しにくると言うわけか。
だったらやはり私は強くならなければいけない。そう思った。
いくつか気になった部分の考察を質問として放った後、彼の意見を聞いてからもやはり私の答えは変わらなかった。他にも、どこでこの物語はどこの地方の物語なのかや物語がいつ描かれたかなどの年代などを軽く聞いて、話は終わった。
そして叔父さんとももう前回と同じく会うことはないのだろうなと思い、軽くお礼を言ってその場を後にしようとした時、叔父さんに肩を掴まれたと感じたと同時に耳元で囁かれた。

「お前、だ?」

その言葉に思わず息を呑む。こんなことを聞かれるだなんて思っていなかったのだ。
その態度でわかってしまったのだろう、叔父さんは頬を掻きながら、「あー、やっぱりか」と呟いた。
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