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act.3 Main Story

本編1

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アシュレイ殿下の誕生を祝う夜会の会場にエスコートされ、到着する。この豪華な会場の光景は数年前に未来視で見たものと寸分違わない。それが恐怖心を増長させ、周りの貴族の視線や声など考えている余裕もなかった。

(ああ、ついにこの時が来てしまった)

幾ら覚悟していたと言ってもそう、気落ちしてしまう。そうして重い気持ちのままアシュレイ殿下とのファーストダンスを踊った。
これが最後の彼とのダンス。そう思うだけで足が震えそうになるのをなんとか堪え、ダンスだけに集中する。こんな至近距離での手の温もりも、彼の優しい匂いももう永遠に味わうことはない。一つ一つに別れを告げるように最後のダンスを踊った。
でもこの時間が幸せだった……だって今だけは彼の目が私だけを見つめている。私はきっと一生この時間を忘れることはできないだろう。彼の目が唯一私だけを写してくれていた最後の時間トキを。

一度ダンスを踊り終わると、アシュレイ殿下が軽く休むためにも話しかけてくれる。”最近の体調はどうなのか”だったり、”自分の近況”についてだったり。私が会話に入りやすいように軽く冗談も交えて質問してくるところも気遣いが上手い彼らしい。そう、最近は少しは彼とも昔のように瞳をまっすぐ見て話せるようにはなってきているのだ。上手く微笑めているか――――取り繕えているかだけが心配だ……彼は見抜くのが上手いから。

こんな私と会話をしてくれるのも元々ダンスが苦手だった私を気遣ってくれているのだろう。私は彼のこんな優しく気遣いしてくれるところも好きだった……いや違う、今も好きだ。好きで好きで仕方がない。
でも私は、だからこそ気が気でなかった。いつあの女性は来てしまうのだろう……。私の恋の終焉の時は刻一刻と近付いている。そんなことを考えながら話していると、割り込む声が聞こえた。

「あの……!!」
「え?」
「アシュレイ殿下、ですわよね?」

話しかけてきたのは、やはり未来視と寸分違わぬ女性。アルレイシャ皇国の姫であるというキャスティリオーネ=アルレイシャ様だった。未来を視てから調べてみてわかった事だが、アルレイシャは海に面した国で、このウィステリア王国とは小国を二つ挟んでの隣に位置しているウィステリアと同じ位の大国である。
でも唯一違うのは、こちらのウィステリアは国土の中でも平地が多く農業や酪農、織物などによって経済が発展してきていたのに対し、彼の国は元々土地の殆どが山を占めていて平地が殆どなく、それ故に自然と傭兵などを輩出することによってついた軍事力による経済発展が主だ。そうしていくつかの小さな国を力で取り込み今では国土は周辺諸国の中でもウィステリアの次くらいの大きさになっている。
そして断言できるのが、彼の国の軍事力はウィステリアを遥かに凌いでいる。きっと敵に回したら、まずいどころではないだろう……未来の私はそれをやってしまったわけだが。
彼女はそんな大国の姫なのである。

視た未来とは少し声のかけられ方が違う気がしたが、未来にはそう大差はないだろう。私から彼を奪っていく女性には変わりない。
私もまだ生きてる年数的にも精神的にも不完全な人間だ。彼女を見て苛立ちがないわけではないが、その気持ちを全力で抑えて進言する。

「殿下、彼女と踊るのでしょう?私など気にせずにどうぞ踊ってきてください」
「え!!?」

何故だか殿下が驚いたような声を出すが、分かっている。彼女と踊りたいのでしょう?邪魔者は退散してあげる。もうあの未来の醜い私はいない。私は潔く身を引こう。貴方のためにも……リーシャや家族のためにも。元々分かりきっていた。自分の感情と家族や彼、自分以外の大多数の人たちの幸せ……どちらが大切かなんて。
気持ちは時間がきっと解決してくれるけれど、人間の命に対してはそうは言えない。一度崩れてしまったら全てが終わってしまうのだから。リーシャの命も、このキャスティリオーネ姫の命も。

社交もほどほどにして私は二人のダンスを見る前にそのまま王と王妃に挨拶をし、体調が思わしくないということで公爵邸に直帰する。いくら覚悟していると言えど、わざわざダンスを独りで見た後、温室庭園に行って生で彼と彼女のキスシーンなど見たくもなかった。婚約者としての一応の最低限の仕事はこなしたのだ……それに、もう婚約者でもなくなる。”逃げている”。自分でも自覚はあるが、最後にこれくらいの我が儘は許してほしい。
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