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6.遭遇
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レオンと一緒でも屋敷からは案外すんなりと出られた。メイドや執事、門番すらも何か言いたげに見つめてくるだけで引き留めるような事はしてこなかった。彼らは公爵家で働いているだけはあって、私やレオンの状況も、公爵家の内情もある程度把握していたからかもしれない。
コソコソと門から出ると、とある事を思い出した。
ここまで来る時に使った馬車……それに乗るために女性からもらった許可証、それの存在を――。
ドレスのポケットを探ると、目的のものは直ぐ見つけることが出来た。改めてソレを見つめてみると、裏に何かが書きつけられている事に気が付く。
『困ったらいつでも頼っておいで』
流れるように書かれているが読みやすく、綺麗な文字。
あの女性が書いていたものだとすぐに理解できた。彼女の親切心に鼻の奥がツンとするような感覚に襲われる。行くところも特に決まっていない。頼る頼らないは置いておいて、まずは女性に許可証を返すためにも会いに行った方が良い。これで一応の目的地は決まった。
「取り敢えず、城下街にでも行きましょうか」
「うん。分かった」
レオンに声を掛ける。彼は笑顔を向けながら私の手をとった。
これからの事はまだ分からない。不安でもあるが二人の足取りは軽く、表情も明るい。まるで幼い頃に戻ったように仲良く手を繋いで、歩みを進めた――。
***
貴族街から城下街まではほぼ一本道……とは言っても基本的に歩き慣れていないのに加え私は公爵家で履かされたヒールのまま。森に面した少しガタガタしている道を小一時間ほど歩いただけで疲労感を覚え始めていた。
ジクジクと痛むつま先を誤魔化しながら、前に進むが既に限界が見え始めている。そんな時だった。目の前にソレが現れたのは――――。
最初は小さな違和感だった。木々がざわつくような、空気が振動するかのような……なんとなく嫌な感覚。けれど瞬きの間にそれは肌を焦がすような威圧感に変化する。
魔物だ――そう認識した時には遅かった。目の前には四つ足で固そうな鱗に覆われた私達の5倍の大きさはあるトカゲのような化け物が大口を開けて佇んでいた。
「っ――!!」
最悪な状況だった。王都周辺は騎士団がいるお陰で基本的に魔物は殆どいない。だからこんな化け物に遭遇などするはずがないと油断していた。
私やレオンの拳一つ分くらいはありそうな大きな瞳が此方を睨みつける。魔物が咆哮をあげて、片腕を上に振りかぶるのがスローモーションで見えたような気がした。
殺される――――!
本能的が警鐘を鳴らす。でも今更逃げたところで追い付かれて殺されるのが目に見えている。せめてレオンだけでも守ろうと彼を庇うように前に出たその瞬間、信じられない事が起こった。
魔物の攻撃が目の前で弾かれたのだ。
一撃で仕留めるつもりだったのだろう、魔物も何が起こったのか分からないような一瞬呆けた雰囲気があった。しかしそんなものは一瞬だ。
魔物は私とレオンを仕留めようと、次々と攻撃を仕掛けてくる。その度に何かが攻撃を弾くが、弾く度に私は何故か体力がごっそりと削り取られるような感覚がある。その謎の喪失感のせいで、まだ何度か攻撃が弾かれただけだというのに既に息切れを起こし始め、立っているのもギリギリの状態になっていた。
「姉上!!」
心配するようなレオンの悲痛な声が背後で響く。先程までよりは好転したと言っても、私達には逃げることも魔物を倒すことも出来ない――。
そんな中、魔物の雰囲気、力の流れの様なものが変化する。大きく息を吸ったかと思うと、人間など簡単に包み込んでしまうであろう火球を放ってきた。体力も限界、そして魔物は先程とは比べ物にならない程に強力な攻撃を仕掛けてきている。
今度こそ死んでしまう……!
そう覚悟するが、それは目の前飛んできた更に大きな氷の弾によって目の前を通り過ぎて行った。
「全く。再会したかと思えば、トラブルに巻き込まれているなんて……アンタも運がないねえ」
助けが来てくれた――。
そう認識した時には私の意識は闇の中に沈んでいた。
コソコソと門から出ると、とある事を思い出した。
ここまで来る時に使った馬車……それに乗るために女性からもらった許可証、それの存在を――。
ドレスのポケットを探ると、目的のものは直ぐ見つけることが出来た。改めてソレを見つめてみると、裏に何かが書きつけられている事に気が付く。
『困ったらいつでも頼っておいで』
流れるように書かれているが読みやすく、綺麗な文字。
あの女性が書いていたものだとすぐに理解できた。彼女の親切心に鼻の奥がツンとするような感覚に襲われる。行くところも特に決まっていない。頼る頼らないは置いておいて、まずは女性に許可証を返すためにも会いに行った方が良い。これで一応の目的地は決まった。
「取り敢えず、城下街にでも行きましょうか」
「うん。分かった」
レオンに声を掛ける。彼は笑顔を向けながら私の手をとった。
これからの事はまだ分からない。不安でもあるが二人の足取りは軽く、表情も明るい。まるで幼い頃に戻ったように仲良く手を繋いで、歩みを進めた――。
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貴族街から城下街まではほぼ一本道……とは言っても基本的に歩き慣れていないのに加え私は公爵家で履かされたヒールのまま。森に面した少しガタガタしている道を小一時間ほど歩いただけで疲労感を覚え始めていた。
ジクジクと痛むつま先を誤魔化しながら、前に進むが既に限界が見え始めている。そんな時だった。目の前にソレが現れたのは――――。
最初は小さな違和感だった。木々がざわつくような、空気が振動するかのような……なんとなく嫌な感覚。けれど瞬きの間にそれは肌を焦がすような威圧感に変化する。
魔物だ――そう認識した時には遅かった。目の前には四つ足で固そうな鱗に覆われた私達の5倍の大きさはあるトカゲのような化け物が大口を開けて佇んでいた。
「っ――!!」
最悪な状況だった。王都周辺は騎士団がいるお陰で基本的に魔物は殆どいない。だからこんな化け物に遭遇などするはずがないと油断していた。
私やレオンの拳一つ分くらいはありそうな大きな瞳が此方を睨みつける。魔物が咆哮をあげて、片腕を上に振りかぶるのがスローモーションで見えたような気がした。
殺される――――!
本能的が警鐘を鳴らす。でも今更逃げたところで追い付かれて殺されるのが目に見えている。せめてレオンだけでも守ろうと彼を庇うように前に出たその瞬間、信じられない事が起こった。
魔物の攻撃が目の前で弾かれたのだ。
一撃で仕留めるつもりだったのだろう、魔物も何が起こったのか分からないような一瞬呆けた雰囲気があった。しかしそんなものは一瞬だ。
魔物は私とレオンを仕留めようと、次々と攻撃を仕掛けてくる。その度に何かが攻撃を弾くが、弾く度に私は何故か体力がごっそりと削り取られるような感覚がある。その謎の喪失感のせいで、まだ何度か攻撃が弾かれただけだというのに既に息切れを起こし始め、立っているのもギリギリの状態になっていた。
「姉上!!」
心配するようなレオンの悲痛な声が背後で響く。先程までよりは好転したと言っても、私達には逃げることも魔物を倒すことも出来ない――。
そんな中、魔物の雰囲気、力の流れの様なものが変化する。大きく息を吸ったかと思うと、人間など簡単に包み込んでしまうであろう火球を放ってきた。体力も限界、そして魔物は先程とは比べ物にならない程に強力な攻撃を仕掛けてきている。
今度こそ死んでしまう……!
そう覚悟するが、それは目の前飛んできた更に大きな氷の弾によって目の前を通り過ぎて行った。
「全く。再会したかと思えば、トラブルに巻き込まれているなんて……アンタも運がないねえ」
助けが来てくれた――。
そう認識した時には私の意識は闇の中に沈んでいた。
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