婚約者曰く、私は『誰にも必要とされない人間』らしいので、公爵令嬢をやめて好きに生きさせてもらいます

皇 翼

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5.同行者

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応接間から出た直後。腰を強く掴まれたことで、前に倒れそうになる。しかしそれを察してか更にもう一本肩に添えられた手によって転倒は阻止され、声を上げる間もなく持ち運ぶように近くの空き室に連れ込まれた。

「姉様」
「レオン。ちょうど良かった。貴方に話したいことがあったの」

私をこの部屋まで連れ込んだのは、私の実の弟であるレオンだった――。
何故かまるで逃がさんとするように力強く抱きしめられていることに違和感を覚えるが、今はそれどころではない。私は出て行く前に彼を探そうと考えていたのだ。まだここにいると分かれば、烈火の如く怒るであろうあの両親に、私が見つかってつまみ出される前にレオンを発見できたのだから、すぐに用件を済ませなければならない。だから、早速話をしようとした……のだが。

「嫌です!!聞きたくありません」

レオンの口から出たのは拒絶の言葉だった。
思いもよらぬ突然の拒絶に、戸惑いアタフタしてしまう。
実は私は、レオンにも選択してもらおうとしていた。ここに残るのか、それとも共に行くかを。
きっとあの両親のことだ、私が出て行った後はレオンに対する監視の目や教育が更に厳しくなることは分かりきっている。9年前、かつて兄達が出て行った後もそうだったのだ。私の当時の様子を見た両親は周囲のまるで家族のように慕っていた使用人を片っ端から首にした。そして徹底的に『教育』を施したのだ。

私はあの後、心が壊れそうになる度に、自分やレオンを何も言わずこんな場所に置いて行った兄達を恨んだ。昔は大好きだと、心から信頼していたからこそその恨みは強く、深くなっていた。
だからこそ、私は唯一無二の弟に……この地獄を共に耐えて来た弟に選択する自由を与えてあげたかったのだ。この子に恨まれたくない。そして何よりも辛い思いをさせたくなかった。兄達と同じになりたくないという心もあった。

どう言葉を斬り出せばいいのか分からず、レオンが落ち着くのを待つ。15歳という年齢になり、背丈がグンと伸びたレオンは力が強い。強く抱き付かれると少し苦しくもあったが、落ち着かせようと背中を撫でた。するとレオンがポツリポツリと話し始める。

「……姉様がいなくなるなんて、嫌です。僕を……兄様たちのようにここに置いて行かないで」
「勘違いしているわね。私は貴方の意思確認をするために探していたの」

レオンが先程の両親との話を何かしらの手段で聞いていたことは察していたからこそ、もしかしたらレオンはこの家に残りたいのかもしれないと思い、私は焦っていたのだが、そんなことはなかったようだ。純粋なすれ違いに、胸をなでおろした。

「え……?」
「私はこの公爵家で生活にはもう、耐えられないの。だからこのまま出て行く。この家を出たら、正直、安定した生活を送れるとは約束できない。それでもよかったら、私と一緒に――」
「行きます!!僕も姉様と同じ気持ちです。もう僕は、あの人達両親の操り人形になるのは嫌なんです」

今日初めて視線が合った彼の蒼い瞳には、強い炎のような意志が宿っていた――。
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