婚約者曰く、私は『誰にも必要とされない人間』らしいので、公爵令嬢をやめて好きに生きさせてもらいます

皇 翼

文字の大きさ
15 / 29

14.妖精の鉤爪①

しおりを挟む
その日は一カ月に一回のギルド専用倉庫の掃除の日だった。
このギルドの倉庫には依頼の対価として貰った物や厚意で渡された物……そしてこれはごく少数だが、一般の人間には扱いきれない故にここに置いている物などがあるらしい。後者は如何せん呪術に近いものだ。この倉庫に入る前に、危険だから指示外のものは基本触らないようにと言われた。

しかしそんな危険な場所でも整理は必要である。
倉庫は広大であり、収められている物も毎日のように増え続けているために、それなりに量があるからだ。今回が初めてだという事で当番に組み込まれた私とレオンは、ロイに倉庫内の道具の扱いや注意するべき物について教わっていた。

因みにロイは再会した日以降、就寝時以外は私にほぼついて回って世話を焼き続けるという徹底ぶりだったために、クレティアに呆れられながら今回も教える側として無理矢理ついてきたという経緯がある。教員役として時間を空けてくれていた先輩を差し置いて、だ。
しかし副団長サブマスターという事もあり、詳しいのも事実であったために先程から私達姉弟二人は感心しっぱなしだった。けれど、私には一つ不満点があった。

「~なので、レオンはこの棚に置いてある魔書は表面を軽く拭くだけでここに置いておいてください。それでこっちの腕輪は表に従って毎月場所を移動させているので、今日は……倉庫の北B1の棚に移動ですね」
「あの……ロイ。さっきから私には何も触らせてくれないけど、どうして?」
「危ない物もそれなりにあるからです。お嬢様は触らないでくださいね」

そうなのだ。先程からロイはレオンには道具の手入れや移動をするように指示する癖に、私がレオンと一緒に作業をしようとすると止め、それでも仕事だからと無理矢理に引き受けようとすると私の分まで全てこなしてしまう始末。
再会してからというものロイは昔よりも明らかに過保護になっていると感じていた。

「これじゃあ、仕事にならないでしょう!?」
「いいえ。お嬢様の分まで私がやるので問題ありません!」
「……問題しかないけど?」
「お嬢様はこちらの――もう既に掃除が終わったところに居てください」

そしてまた無理矢理、既に綺麗にされた場所で休まされる。ここまでが最近のパターン。
今までも何度か反抗しようとしてみたが、毎回上手くかわされて仕事から遠ざけられる。それが何度も続けば無駄な努力なのかとすら思うようになってきてしまう……抵抗をやめる気はないが。

ロイには基本的に抜け目がない。武術や魔法、学問と言ったこともそうだが、何よりも洞察力が高いのだ。私がやろうとしたこと、行動の一歩前を進んでいるイメージである。だからきっと今日もこのままいくと私が仕事をしたいと言ってもさせてはくれないだろう。
溜息を吐きながらロイに指定された場所へ移動する。

どうやって彼に自分が仕事をすることを認めさせようかと考えながら、何気なく目の前の棚に目を向ける。すると妙な感覚に囚われた。何かに見つめられているような感覚――。
その方向に視線を向けてみるとキラリと光る物が目に入った。

銀色の鉤爪の様な指輪タイプのアクセサリー……アーマーリング。

先程までこんなものはここにあっただろうか。そう疑問に思い、自身の記憶をひっくり返してみるが、こんな印象的且つ美しい物を見た覚えはない。じっとそれを見つめていると『声』が聞こえて来た。

『こっちに来て――私を、貴女に……貴女の一部に――』

頭に直接響くか細い声。慌てて周りを見回してみるが、少し遠くに行っているロイとレオンの様子は変わらないことから、この声は私にしか聞こえていないことが分かる。
明らかに怪しいと普段であればそう思う状況。しかし私の身体はその声にまるで導かれるようにソレに近づき、そして……装着していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やめてくれないか?ですって?それは私のセリフです。

あおくん
恋愛
公爵令嬢のエリザベートはとても優秀な女性だった。 そして彼女の婚約者も真面目な性格の王子だった。だけど王子の初めての恋に2人の関係は崩れ去る。 貴族意識高めの主人公による、詰問ストーリーです。 設定に関しては、ゆるゆる設定でふわっと進みます。

正当な権利ですので。

しゃーりん
恋愛
歳の差43歳。  18歳の伯爵令嬢セレーネは老公爵オズワルドと結婚した。 2年半後、オズワルドは亡くなり、セレーネとセレーネが産んだ子供が爵位も財産も全て手に入れた。 遠い親戚は反発するが、セレーネは妻であっただけではなく公爵家の籍にも入っていたため正当な権利があった。 再婚したセレーネは穏やかな幸せを手に入れていたが、10年後に子供の出生とオズワルドとの本当の関係が噂になるというお話です。

大事な婚約者が傷付けられたので全力で報復する事にした。

オーガスト
恋愛
 イーデルハイト王国王太子・ルカリオは王家の唯一の王位継承者。1,000年の歴史を誇る大陸最古の王家の存亡は彼とその婚約者の肩に掛かっている。そんなルカリオの婚約者の名はルーシェ。王国3大貴族に名を連ねる侯爵家の長女であり、才色兼備で知られていた。  ルカリオはそんな彼女と共に王家の未来を明るい物とするべく奮闘していたのだがある日ルーシェは婚約の解消を願い出て辺境の別荘に引きこもってしまう。  突然の申し出に困惑する彼だが侯爵から原因となった雑誌を見せられ激怒  全力で報復する事にした。  ノーリアリティ&ノークオリティご注意

私を見下していた婚約者が破滅する未来が見えましたので、静かに離縁いたします

ほーみ
恋愛
 その日、私は十六歳の誕生日を迎えた。  そして目を覚ました瞬間――未来の記憶を手に入れていた。  冷たい床に倒れ込んでいる私の姿。  誰にも手を差し伸べられることなく、泥水をすするように生きる未来。  それだけなら、まだ耐えられたかもしれない。  だが、彼の言葉は、決定的だった。 「――君のような役立たずが、僕の婚約者だったことが恥ずかしい」

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

【7話完結】婚約破棄?妹の方が優秀?あぁそうですか・・・。じゃあ、もう教えなくていいですよね?

西東友一
恋愛
昔、昔。氷河期の頃、人々が魔法を使えた時のお話。魔法教師をしていた私はファンゼル王子と婚約していたのだけれど、妹の方が優秀だからそちらと結婚したいということ。妹もそう思っているみたいだし、もう教えなくてもいいよね? 7話完結のショートストーリー。 1日1話。1週間で完結する予定です。

失踪していた姉が財産目当てで戻ってきました。それなら私は家を出ます

天宮有
恋愛
 水を聖水に変える魔法道具を、お父様は人々の為に作ろうとしていた。  それには水魔法に長けた私達姉妹の協力が必要なのに、無理だと考えた姉エイダは失踪してしまう。  私サフィラはお父様の夢が叶って欲しいと力になって、魔法道具は完成した。  それから数年後――お父様は亡くなり、私がウォルク家の領主に決まる。   家の繁栄を知ったエイダが婚約者を連れて戻り、家を乗っ取ろうとしていた。  お父様はこうなることを予想し、生前に手続きを済ませている。  私は全てを持ち出すことができて、家を出ることにしていた。

婚約破棄? あ、ハイ。了解です【短編】

キョウキョウ
恋愛
突然、婚約破棄を突きつけられたマーガレットだったが平然と受け入れる。 それに納得いかなかったのは、王子のフィリップ。 もっと、取り乱したような姿を見れると思っていたのに。 そして彼は逆ギレする。なぜ、そんなに落ち着いていられるのか、と。 普通の可愛らしい女ならば、泣いて許しを請うはずじゃないのかと。 マーガレットが平然と受け入れたのは、他に興味があったから。婚約していたのは、親が決めたから。 彼女の興味は、婚約相手よりも魔法技術に向いていた。

処理中です...