婚約者曰く、私は『誰にも必要とされない人間』らしいので、公爵令嬢をやめて好きに生きさせてもらいます

皇 翼

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24.接触禁止

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涙でぐちゃぐちゃになった顔を隠すように、私はカインツ兄様に抱き寄せられる。きっとケイオス兄様の方と比べると、紳士的な傾向にあるカインツ兄様の気遣いだろう。
目頭が痛いくらいに赤くなっていた顔を隠すついでにと、あまり品は良くないが兄の着ている高そうな白いシャツで涙と鼻水を拭った。カインツ兄様の完璧な美貌が一瞬歪んだが、今まで妹を放置していた分の軽い報復だと少ししてやったりな気持ちになる。

「で。感動の再会はそろそろ終わりで良いか?」
「ルーク……少しは空気を読んで欲しいのですが」
「お前って空気ぶち壊す才能あるよな」
「は?なんで俺ケイオスに空気ぶち壊すとか言われてんの??こいつにだけは言われたくないんだけど」

3人共が世界に入り込んで、この男・ルークハルトの存在を完全に忘れていた。
この反応から、ルークハルトは無視されることが一番嫌いなタイプなのだろうと、初対面である私でも簡単に察することが出来た。それでも兄妹水入らずに少しの間だけでもさせてくれたのだ。感謝こそすれ、兄様達のように責めることではないだろう。

「いいや!お前の方が目立ちたがり屋だから、雰囲気をぶち壊してる回数だけだったら多いね!俺は一応、空気読むし……たまには」
「そうですよ。ケイオスは僕が止めればたまには聞いてくれますし。ルークとは違って」
「ルークハルト、さん?多分、まだ話すことがあったからここに残っていたのですよね?この二人については無視していいので、話してください」
「まだ妹の方が話が通じるってどういうことだよ、年長者」

言い方からして、やはりまだ私に伝えたいことが残っていたようだ。
考えてみれば、それもそうだ。今は軟化したと言えど、先程までは一触即発、喧嘩直前のような雰囲気の部屋にずっと居座りたいだなんて思わない筈だ。それに空気のピリ付きがなくなった後には、抱き合う兄妹。傍から見ていると、きっと気まずいことこの上なかっただろう。

「アリア、お前暫くこのギルドのこの部屋から出るな」
「……私、もしかしてここにいる面々以外からは死んだと思われているとかですか?」
「そう。正解」

目覚める前の最後の光景から予想したことを言うと、当たっていたようだ。ルークハルトは嬉しそうに二ィッと口元を緩めた。
私の意識が落ちる直前、必死に叫ぶクレティアとロイの声がまだ耳に染み付いていた。あの二人は優しい。きっと今、深く落ち込んで、悲しんでいる事だろうことが簡単に予測できた。それにレオンの事も気掛かりだ。ロイやクレティアが止めてくれるとは思うが、急に唯一の肉親である私がいなくなったとなれば、自暴自棄になりかねない。

「……私が生きているという事実を、クレティア……いえ、せめてレオンにだけは伝えたいのですが――」
「ダメだ。俺がわざわざ魔法を使ってお前の死を偽装した意味がなくなる」
「おいおい、それって俺らの弟から秘密が漏れるって言いたいのか!?レオンはそんなやつじゃねえ……はずだ。最近は会ってないから分かんねえけど」
「レオンに伝えた時に、他のところから秘密が漏れるのを危惧しているんだろう。例えば、レオンに伝えた時に他の人間が聞いているかもしれない。それに急にレオンがアリアを必死で探さなくなったら不自然だろう。演技させるにしても100パーセントバレないとは断言できない。そう言いたかったんだろう、ルーク」
「ああ。だからダメだ。アリア、お前にも向こうのギルドのメンバーにも、このまま我慢してもらう」

そう言われると、私もケイオス兄様も、押し黙るしかなかった。
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