6 / 68
1章-1
第6話
しおりを挟む「――ん――……」
まばゆい陽の光に起こされるようにゆっくりと瞼が開く。
視界はまだボヤけたままだ。
頭が重くてだるさを感じる。
全身の力がまるで入らなかった。
(……あれ。そういえば俺、どうしてこんなところに……)
なんとか力を振り絞って体を起き上がらせる。
森の景色を目にしてようやくハッとした。
そうだ。
【オートスキップ】を使って隠しダンジョンを周回してたんだった。
「1億回の周回が終わったのか?」
というよりどれくらい経った?
(ふやけて老人になってるわけじゃなさそうだけど)
鈍い思考でこれまでの経緯を振り返るとあることを思い出す。
(そういえばほしにくの種は……)
実は【オートスキップ】を実行する前、地面にほしにくの種を埋めていたのだ。
俺は村で農業にも携わっていたからほしにくの種の発芽期間を知っていた。
発芽っぷりを見てどれだけの期間眠ってたか計ろうとしたってわけだ。
「どれどれ」
埋めた場所に目を向けるとそこには芽が小さく顔を出していた。
「お、発芽してるぞ」
そこまで芽は大きく育ってない。
この感じだとだいたい一週間そこら眠ってたってところだろう。
(いやなに勝ち誇った気分になってんだよ)
一週間も眠り続けてたとか常識的に考えればヤバすぎだろ。
ぐうううぅぅぅ~~~!!
それが分かったとたん盛大に腹の虫が鳴った。
(……っ、ぐおぉぉぉ……)
ダメだ。
ほ、ほしにくの実を……!
立っていられないほどの強烈なめまいを感じてその場で跪きながら魔法袋の中に手をつっこむ。
「んっ?」
そのとき。
これまでになかった違和感を抱く。
あ、これヤバいやつ。
そう直感したまま手を引き抜くと。
どばばばばばばばば~~~!!
「なっ、な……なんだこれぇぇぇ!?」
その瞬間、大量のほしにくの実が勢いよく飛び出してくる。
「おうおうっ!? どんだけ出てくるんだよ!?」
あたりは一面ほしにくの実で埋め尽くされることになった。
いったいなにが起きたんだ?
さすがに確認しないわけにもいかず、すぐさま「ステータスオープン」と唱えてリザルト画面を立ち上げる。
そこに表示されたものを見て俺は思わず息を呑んだ。
===========================
〈ダンジョン攻略結果〉
戦闘回数 数値化できません
討伐数 0回
獲得EXP 0
獲得ルビー 数値化できません
探索アイテム 数値化できません
===========================
最初は画面がバグったのかと思ったけどすぐに思い直す。
違う。
この数値化できないっていうのはそういう意味じゃない。
飛び出し続けるほしにくの実を横目に見ながら俺は自分のステータスに目を向ける。
(やっぱりだ)
真っ先に努力ボーナスの項目を確認すると、そこにも〝数値化できません〟の文字が。
これはひょっとするととんでもないことになるかもしれないぞ。
どこか得体の知れない焦燥感を抱きつつ、さらに下へスクロールしていくとそれはついに明らかになった。
===========================
現在、努力ボーナスが∞ポイントあります。
すべてEXPに変換しますがよろしいですか?(Y/N)
===========================
ありのまま今起こったことを話すぜ。
隠しダンジョンを1億回周回したんだ。
そしたらいつの間にか努力ボーナスが∞ポイント手に入ったんだ。
なにを言ってるか分からねーと思うが俺もなにが起こったのかさっぱりだ。
∞ってなんだよ。
いくらチートがすぎるっていってもこんなの許されるのか?
正気か、これ……。
「もうこうなりゃヤケだ」
勢いで俺は〝YES〟をプッシュする。
ぱんぱかぱーん!
お馴染みのファンファーレが鳴ったあとですぐに画面が切り替わった。
===========================
努力ボーナス∞ポイントをEXPに変換しました。
結果、∞の経験値を獲得。
〈ティム・ベルリ〉のレベルが12から∞に上がりました。
===========================
レベル∞!
∞レベル!!
いや、この際呼び方なんてどーでもいい!
改めて自分のステータスを確認すると光のウィンドウはとんでもない画面を映し出していた。
===========================
〈ティム・ベルリ〉
年齢:15歳 種族:人族
職業:村人 AP 1
レベル ∞
HP ∞
MP ∞
攻撃力 ∞
守備力 ∞
魔法力 ∞
ちから ∞
みのまもり ∞
きようさ ∞
すばやさ ∞
[スキルポイント] ∞
[所持ルビー] ∞ルビー
[所持アイテム] ほしにくの実×∞、ほしにくの種×∞
[固有スキル]
【命中率0%】
[EXスキル]
【オートスキップ】
===========================
「なんじゃこりゃああああああぁぁぁ~~~!?!?」
俺はその場で尻もちをつくとパニックになってのたうち回る。
全パラメーター∞ってなんだよっ!?
ちゃっかり持ち金のルビーまで∞になってるし!
こんなことって実際あり得るのか?
さすがにこいつはバグを疑うぞ。
が。
目の前で今も山となって積もり続けるほしにくの実を見て現実なんだってことを理解する。
いやバグじゃない。
俺のステータスは本当に∞になったんだ!
「ははは……すげーよこれ!」
こいつが現実だってことが理解できるとようやく喜びが湧き起こってきた。
「そりゃそうだよな! 1億回なんて想像も絶する回数ダンジョンを周回すれば、努力ボーナスも∞になるってもんだ!」
APっていう項目だけはあいかわらず1のままだったけど、これはもとからなにを表すものか分かってない数値だ。
ステータスに影響を与えるものじゃないから気にしなくていい。
とにかくだ。
これで最弱から最強になったのは間違いない!
「うっしゃ! これでモンスターなんかもう怖くないぞ」
ガッツポーズを決めて拳をグッと天に振りかざす。
すぐにでも結界の外に出よう。
そう安心したせいか。
ぐうううぅぅぅ~~~!!
改めて腹の虫が盛大に鳴った。
「っと、その前にほしにくの実ぃ~~っ!」
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
1,123
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる