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[13]誕生日パーティー(午後)
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マリアからのプレゼントは部屋に置き、いよいよパーティーの時間です。
天気は快晴。自慢の薔薇園でのガーデンパーティーです。
もうすでに皆様はパーティー会場で待っているようで、賑やかな雑談の声が聞こえてきます。
わたくしとリリーは本日の主役ですから、招待客が揃ってからの入場です。
「お嬢様。お時間です。」
「ええ、わかりました。」
あら、ちょうど揃ったみたいですね。
「ソフィア様、手を。」
リオナンドがわたくしに手を差し伸べます。わたくしはリオナンドの手の上に自分の手をそっと重ねました。リリーもアルニウスが同じようにエスコートをしています。
本来、婚約者のいない子供のエスコートは身内がやるものですが、あいにくグロスハイツ侯爵家には兄弟はおりませんし、2人同時にパーティーを開くため、お父様1人では不公平です。
そういうわけで、準身内枠であるリオナンドとアルニウスでいいのでは?という話になり、2人がわたくしたちのエスコートをすることになったのです。
リオナンドは普段の動きやすいラフな格好とは違い、しっかりとした貴族のように正装をしています。
白に金を基調にした服装に、リオナンドの濃紺の髪と金の瞳があわさって、確かにとってもかっこいいのです。
これで白馬に乗っていたならば、彼はさながら白馬の王子様と言ったところでしょうか…?
リオナンドに貴族スマイルだろうと微笑まれたら、大抵の子女は顔をほんのりと染めてしまうのでしょうね…。
あ、わたくしにその反応を期待されても困りましてよ?
リオナンドはわたくしの手を取り、ゆっくりと会場へ進みだします。
まだお互いに6歳ですから、身長差はほとんどありません。いえ、むしろわたくしの方が少々大きいくらいでしょうか?
そこは男女の成長期の違いですわね。
会場に入るとパーティーに来てくださった皆様は笑顔と拍手で迎えてくださります。
令嬢たちがリオナンドとアルニウスを見て、ほうっと見惚れたような顔を致しました。もっとも厳しく躾けられた高位貴族の娘ともなればそれも一瞬のことですぐに微笑みへと変わりましたけれど、他の娘ほそうはいきません。
頬をうっすらと赤く染めて悩ましげにため息をついています。
貴族スマイルのリオナンドとアルニウスはとても素敵ですから、令嬢方の気持ちはわからない事はありません。
あら、男性からの視線も感じますね。妬ましいのでしょうか?
わたくしとリリーはパーティーに来てくださったことへの礼を述べると、「それではパーティーを楽しんでくださいませ。」と締めくくり全体への挨拶を終えた。
さて、ここからは一人一人挨拶まわりでございます。
とりあえず公爵家への挨拶を済ませたら侯爵家、伯爵家、と身分順に挨拶しなければなりません。さらに言えば同じ爵位の中にも序列があるので、どの順番で回るかという事は本当に大変なのでございますよ…
わたくしたちは順番に挨拶を終えていきます。
公爵家、侯爵家…侯爵家も後は1家…
「ソフィア様。お誕生日おめでとうございます。」
突如、マリオン伯爵とそのご子息、ロレンツォ=マリオンが挨拶にやってきました。
マリオン伯爵家はわたくしの実母、エマの生家で、マリオン伯爵は叔父様、ロレンツォは従兄弟です。わたくしとは少し歳が離れていて9歳なので、話すときは見上げなければならないのです。
挨拶の順番としては、身内ということで伯爵家の中では1番早いのですが、侯爵家が残っている今、本来ならまだ挨拶に来るべきでは御座いません。
わたくしはリリーをわたくしの後ろに下げます。
「ソフィア様も随分と美しく、我が妹に似て育って…」
マリオン伯爵が、何か長々と言い出しましたが、要約してみると、わたくしがあまりにもお母様にそっくりなので、お母様のように男を弄び侍らせているのでは無いか。ということを遠回りに遠回りに言っているのでした。
ハァ…会話の内容からもわかるように。我が家とマリオン伯爵家はあまり仲良くありません。
お母様と叔父様は本当に仲が悪かったそうで、顔をあわせるたびに下卑た笑いを顔に浮かべ、何か嫌味を言ってきます。
やっと叔父様たちが去るとわたくしたちは挨拶回りを再開いたします。
侯爵家には、「先ほどマリオン伯爵家が来ていたようですが…」と心配されてしまいました。
やっと挨拶回りが全部終わりました。正直疲れましたわ。でも、あとは友人たちの元へ行ってお話ししながら楽しむだけですもの。頑張った甲斐があるというものです。
「ソフィア。」
「…なんですの?ロレンツォ様。」
「改めて誕生日おめでとう。」
「え、えぇ…ありがとう御座います。」
わたくしはリリーに「友人の元へ、先に行っていなさい。」と言って逃しました。
先ほどの会話を思い出したのかリオナンドがわたくしを庇うように一歩前に出ます。
「ハハッ…そんなに警戒しなくてもいいじゃ無いか。」
「別に警戒してなどいませんわ。」
警戒されたく無いのでしたらその気色の悪いニヤニヤ笑いをやめてくださいませ。など口が裂けても言えないのでしょうね…。
助けを求めてお姉様を探しますが、お姉様はこちらを気にしているようでも公爵夫妻の相手をしていて動けないようです。
リオナンドがわたくしを隠すかのように少しずれようとしましたがそれを手で制します。
「警戒してないって…男の影に隠れていうことかい?
第一その男はどう取り入ったんだ?周りのご令嬢はみんなその男が気になって仕方が無いみたいだ。」
「取り入ってなんていません…」
「可愛い子ぶって男に守ってもらうんだろう?叔母上…貴方の母上の得意技だ!」
いつもなら悲しい顔をしておとなしく引き下がりますが、今日はわたくしの誕生日パーティーですし、こんなところで台無しにされるわけにはいきません。
それに、リオナンドもいますもの。主人としてこんな相手にバカにされて黙っているわけにはいきませんわ。
「…お母様はそんなことしておりません!お父様とお母様は愛し合っていましたもの…!」
「っ黙れ!」
ロレンツォはいつもは大人しいわたくしが言い返したことに驚き、頭に血が上ってしまったのでしょう。
手に持っていたジュースのグラスをわたくしに投げつけました。
「きゃぁっ!…っリオナンド!」
リオナンドはわたくしを庇ってジュースのグラスを受けたのです。
「リオナンド!大丈夫ですか?」
「これくらいなら大したことはありません。それよりも…」
リオナンドはわたくしのドレスを見て眉を寄せます。
リオナンドが庇ってくれたのですが、位置が悪かったのでしょう。
ジュースがドレスにかかり大きな模様を作っていました。
「あぁ…仕方が無い…ですね。」
思わず目がうるっとして来てしまいます。でもここは人前です、醜態を晒すわけには行かないのです。泣くわけにはいきません。
「お嬢様、こちらへ。」
マリアが急いでわたくしにケープを被せて部屋へと案内します。
人手が基本的に少ない少人数精鋭の我が家ではパーティーのときは誰の侍女だろうと全員駆り出されるのですが、マリアはわざわざ来てくれたのでしょうか。
お礼を言わなければならないのはわかりますが、今口を開いたら泣き声が漏れてしまいそうでいうことができません。
マリアはわかっていると言うように小さく頷くとわたくしを部屋へと促します。
リオナンドはわたくしを心配そうに見ていますが触れてくることはありません。
どうして、今日は楽しい誕生日のはずでしたのに…こんな事になるのでしょうか…?
マリアは「後始末があります。」と言って部屋の前で別れました。
部屋にリオナンドと2人で入った後、涙が一筋溢れてしまいました。
リオナンドは泣いてもいいんだ、と言いたげに、しかし戸惑いがちにわたくしの背中に軽く手を添えます。
その温もりにわたくしは思わず泣いてしまいました。もう6歳ですのに、貴族としてしっかりしなければならない歳なのに、リオナンドにしがみつきながら大きな声で泣いてしまいました。
天気は快晴。自慢の薔薇園でのガーデンパーティーです。
もうすでに皆様はパーティー会場で待っているようで、賑やかな雑談の声が聞こえてきます。
わたくしとリリーは本日の主役ですから、招待客が揃ってからの入場です。
「お嬢様。お時間です。」
「ええ、わかりました。」
あら、ちょうど揃ったみたいですね。
「ソフィア様、手を。」
リオナンドがわたくしに手を差し伸べます。わたくしはリオナンドの手の上に自分の手をそっと重ねました。リリーもアルニウスが同じようにエスコートをしています。
本来、婚約者のいない子供のエスコートは身内がやるものですが、あいにくグロスハイツ侯爵家には兄弟はおりませんし、2人同時にパーティーを開くため、お父様1人では不公平です。
そういうわけで、準身内枠であるリオナンドとアルニウスでいいのでは?という話になり、2人がわたくしたちのエスコートをすることになったのです。
リオナンドは普段の動きやすいラフな格好とは違い、しっかりとした貴族のように正装をしています。
白に金を基調にした服装に、リオナンドの濃紺の髪と金の瞳があわさって、確かにとってもかっこいいのです。
これで白馬に乗っていたならば、彼はさながら白馬の王子様と言ったところでしょうか…?
リオナンドに貴族スマイルだろうと微笑まれたら、大抵の子女は顔をほんのりと染めてしまうのでしょうね…。
あ、わたくしにその反応を期待されても困りましてよ?
リオナンドはわたくしの手を取り、ゆっくりと会場へ進みだします。
まだお互いに6歳ですから、身長差はほとんどありません。いえ、むしろわたくしの方が少々大きいくらいでしょうか?
そこは男女の成長期の違いですわね。
会場に入るとパーティーに来てくださった皆様は笑顔と拍手で迎えてくださります。
令嬢たちがリオナンドとアルニウスを見て、ほうっと見惚れたような顔を致しました。もっとも厳しく躾けられた高位貴族の娘ともなればそれも一瞬のことですぐに微笑みへと変わりましたけれど、他の娘ほそうはいきません。
頬をうっすらと赤く染めて悩ましげにため息をついています。
貴族スマイルのリオナンドとアルニウスはとても素敵ですから、令嬢方の気持ちはわからない事はありません。
あら、男性からの視線も感じますね。妬ましいのでしょうか?
わたくしとリリーはパーティーに来てくださったことへの礼を述べると、「それではパーティーを楽しんでくださいませ。」と締めくくり全体への挨拶を終えた。
さて、ここからは一人一人挨拶まわりでございます。
とりあえず公爵家への挨拶を済ませたら侯爵家、伯爵家、と身分順に挨拶しなければなりません。さらに言えば同じ爵位の中にも序列があるので、どの順番で回るかという事は本当に大変なのでございますよ…
わたくしたちは順番に挨拶を終えていきます。
公爵家、侯爵家…侯爵家も後は1家…
「ソフィア様。お誕生日おめでとうございます。」
突如、マリオン伯爵とそのご子息、ロレンツォ=マリオンが挨拶にやってきました。
マリオン伯爵家はわたくしの実母、エマの生家で、マリオン伯爵は叔父様、ロレンツォは従兄弟です。わたくしとは少し歳が離れていて9歳なので、話すときは見上げなければならないのです。
挨拶の順番としては、身内ということで伯爵家の中では1番早いのですが、侯爵家が残っている今、本来ならまだ挨拶に来るべきでは御座いません。
わたくしはリリーをわたくしの後ろに下げます。
「ソフィア様も随分と美しく、我が妹に似て育って…」
マリオン伯爵が、何か長々と言い出しましたが、要約してみると、わたくしがあまりにもお母様にそっくりなので、お母様のように男を弄び侍らせているのでは無いか。ということを遠回りに遠回りに言っているのでした。
ハァ…会話の内容からもわかるように。我が家とマリオン伯爵家はあまり仲良くありません。
お母様と叔父様は本当に仲が悪かったそうで、顔をあわせるたびに下卑た笑いを顔に浮かべ、何か嫌味を言ってきます。
やっと叔父様たちが去るとわたくしたちは挨拶回りを再開いたします。
侯爵家には、「先ほどマリオン伯爵家が来ていたようですが…」と心配されてしまいました。
やっと挨拶回りが全部終わりました。正直疲れましたわ。でも、あとは友人たちの元へ行ってお話ししながら楽しむだけですもの。頑張った甲斐があるというものです。
「ソフィア。」
「…なんですの?ロレンツォ様。」
「改めて誕生日おめでとう。」
「え、えぇ…ありがとう御座います。」
わたくしはリリーに「友人の元へ、先に行っていなさい。」と言って逃しました。
先ほどの会話を思い出したのかリオナンドがわたくしを庇うように一歩前に出ます。
「ハハッ…そんなに警戒しなくてもいいじゃ無いか。」
「別に警戒してなどいませんわ。」
警戒されたく無いのでしたらその気色の悪いニヤニヤ笑いをやめてくださいませ。など口が裂けても言えないのでしょうね…。
助けを求めてお姉様を探しますが、お姉様はこちらを気にしているようでも公爵夫妻の相手をしていて動けないようです。
リオナンドがわたくしを隠すかのように少しずれようとしましたがそれを手で制します。
「警戒してないって…男の影に隠れていうことかい?
第一その男はどう取り入ったんだ?周りのご令嬢はみんなその男が気になって仕方が無いみたいだ。」
「取り入ってなんていません…」
「可愛い子ぶって男に守ってもらうんだろう?叔母上…貴方の母上の得意技だ!」
いつもなら悲しい顔をしておとなしく引き下がりますが、今日はわたくしの誕生日パーティーですし、こんなところで台無しにされるわけにはいきません。
それに、リオナンドもいますもの。主人としてこんな相手にバカにされて黙っているわけにはいきませんわ。
「…お母様はそんなことしておりません!お父様とお母様は愛し合っていましたもの…!」
「っ黙れ!」
ロレンツォはいつもは大人しいわたくしが言い返したことに驚き、頭に血が上ってしまったのでしょう。
手に持っていたジュースのグラスをわたくしに投げつけました。
「きゃぁっ!…っリオナンド!」
リオナンドはわたくしを庇ってジュースのグラスを受けたのです。
「リオナンド!大丈夫ですか?」
「これくらいなら大したことはありません。それよりも…」
リオナンドはわたくしのドレスを見て眉を寄せます。
リオナンドが庇ってくれたのですが、位置が悪かったのでしょう。
ジュースがドレスにかかり大きな模様を作っていました。
「あぁ…仕方が無い…ですね。」
思わず目がうるっとして来てしまいます。でもここは人前です、醜態を晒すわけには行かないのです。泣くわけにはいきません。
「お嬢様、こちらへ。」
マリアが急いでわたくしにケープを被せて部屋へと案内します。
人手が基本的に少ない少人数精鋭の我が家ではパーティーのときは誰の侍女だろうと全員駆り出されるのですが、マリアはわざわざ来てくれたのでしょうか。
お礼を言わなければならないのはわかりますが、今口を開いたら泣き声が漏れてしまいそうでいうことができません。
マリアはわかっていると言うように小さく頷くとわたくしを部屋へと促します。
リオナンドはわたくしを心配そうに見ていますが触れてくることはありません。
どうして、今日は楽しい誕生日のはずでしたのに…こんな事になるのでしょうか…?
マリアは「後始末があります。」と言って部屋の前で別れました。
部屋にリオナンドと2人で入った後、涙が一筋溢れてしまいました。
リオナンドは泣いてもいいんだ、と言いたげに、しかし戸惑いがちにわたくしの背中に軽く手を添えます。
その温もりにわたくしは思わず泣いてしまいました。もう6歳ですのに、貴族としてしっかりしなければならない歳なのに、リオナンドにしがみつきながら大きな声で泣いてしまいました。
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