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王都へ
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商人の荷馬車での旅は、船旅で弱ったオーディスにはさらに困難な旅であった。
ずっと荷台で荷物を枕に寝転がりながら唸っているオーディスを尻目に、その向かいでキラードは港の市場で買ったおやつ用の干した魚をつまんでいた。
「もうすぐ王都らしいぞ」
ぶっきらぼうに声を掛ける。
「う、うう。もう動かない大地を歩きてえ……」
「王都につけば嫌でも歩くことになる。もうしばらく辛抱することだな」
王都に到着したら、まずカルトパン自治領の窓口となっている役所に顔を出して、第一王女と宰相との謁見の日程を取り決める。
何と言っても、一国のトップに会うのだ。
そうすぐには会えないだろう。
会えたとしても、軽いあいさつ程度で、会見時間もわずか数分程度だ。
組み込まれるのは、午後からのわずかな謁見時間内だ。
その儀礼の会見が終われば、あとはオーディスの試験につきあうのとキラードの仕事のために、王都を出て西にある黒曜石を採掘できる国境沿いの山脈に向かう。
そこで二人の用が終われば、また王都で第一王女と宰相に謁見を乞い、帰還のあいさつをする。
そしてその謁見を待つ間に、カルトパンに帰国の文を送る。
これが今後の二人の大まかな予定だ。
「それにしてもお前どうするつもりだ? どうせ王都での謁見時間などわずかな間だぞ」
「それが何だ?」
「そんな短い間に、しかも公的な謁見で私的な話など出来ないぞ。どうやって愛しい女とやらと個人的な話をするつもりだ?」
「何でお前がそんなことを知ってるんだ?」
オーディスはひっくり返りつつも、鋭い視線だけはキラードに向けた。
「イゼル殿にお前のお目付け役を頼まれた時に聞かされた。ついでに、くれぐれもファーネイルの政変に首を突っ込ませるな、と釘も刺されたぞ」
「あいつ……」
途端にオーディスは面白くない顔になる。
「今現在、ファーネイルほど不穏な国は大陸中どこを探してもない。何が楽しくて不穏な国を試験国にするんだ? ファーネイルの隣国ですら試験国にするのをためらう学生が多いらしいのに」
「ふん! 俺は命も大事だが、女と交わした約束を守ることも大事にしているんだ。一度女との約束を違えてしまえば、女たちは二度と俺とは約束をしてはくれない」
「女たち?」
なぜ複数形?
キラードはそう思った。
「そうだ。女たちはそういう噂だけはご丁寧に広めまくる生き物なんだ」
「だから?」
「だから、どうせなら俺が素晴らしく良い男だという噂の方が出回ってくれたほうが良いじゃねえか」
「馬鹿かお前は?」
オーディスは呆れて思わずため息をついた。
「何だと? お前、女を馬鹿にするもんじゃねえぞ。国によっては、個人でハーレムを作ることも夢じゃねえんだからな。つって俺の父ちゃんが言ってた」
そう言いながら、オーディスの苦悶の表情が途端に笑み崩れていく。
キラードは相手にするのも馬鹿らしい顔で、無言でまた干し魚を一つ口に入れた。
ずっと荷台で荷物を枕に寝転がりながら唸っているオーディスを尻目に、その向かいでキラードは港の市場で買ったおやつ用の干した魚をつまんでいた。
「もうすぐ王都らしいぞ」
ぶっきらぼうに声を掛ける。
「う、うう。もう動かない大地を歩きてえ……」
「王都につけば嫌でも歩くことになる。もうしばらく辛抱することだな」
王都に到着したら、まずカルトパン自治領の窓口となっている役所に顔を出して、第一王女と宰相との謁見の日程を取り決める。
何と言っても、一国のトップに会うのだ。
そうすぐには会えないだろう。
会えたとしても、軽いあいさつ程度で、会見時間もわずか数分程度だ。
組み込まれるのは、午後からのわずかな謁見時間内だ。
その儀礼の会見が終われば、あとはオーディスの試験につきあうのとキラードの仕事のために、王都を出て西にある黒曜石を採掘できる国境沿いの山脈に向かう。
そこで二人の用が終われば、また王都で第一王女と宰相に謁見を乞い、帰還のあいさつをする。
そしてその謁見を待つ間に、カルトパンに帰国の文を送る。
これが今後の二人の大まかな予定だ。
「それにしてもお前どうするつもりだ? どうせ王都での謁見時間などわずかな間だぞ」
「それが何だ?」
「そんな短い間に、しかも公的な謁見で私的な話など出来ないぞ。どうやって愛しい女とやらと個人的な話をするつもりだ?」
「何でお前がそんなことを知ってるんだ?」
オーディスはひっくり返りつつも、鋭い視線だけはキラードに向けた。
「イゼル殿にお前のお目付け役を頼まれた時に聞かされた。ついでに、くれぐれもファーネイルの政変に首を突っ込ませるな、と釘も刺されたぞ」
「あいつ……」
途端にオーディスは面白くない顔になる。
「今現在、ファーネイルほど不穏な国は大陸中どこを探してもない。何が楽しくて不穏な国を試験国にするんだ? ファーネイルの隣国ですら試験国にするのをためらう学生が多いらしいのに」
「ふん! 俺は命も大事だが、女と交わした約束を守ることも大事にしているんだ。一度女との約束を違えてしまえば、女たちは二度と俺とは約束をしてはくれない」
「女たち?」
なぜ複数形?
キラードはそう思った。
「そうだ。女たちはそういう噂だけはご丁寧に広めまくる生き物なんだ」
「だから?」
「だから、どうせなら俺が素晴らしく良い男だという噂の方が出回ってくれたほうが良いじゃねえか」
「馬鹿かお前は?」
オーディスは呆れて思わずため息をついた。
「何だと? お前、女を馬鹿にするもんじゃねえぞ。国によっては、個人でハーレムを作ることも夢じゃねえんだからな。つって俺の父ちゃんが言ってた」
そう言いながら、オーディスの苦悶の表情が途端に笑み崩れていく。
キラードは相手にするのも馬鹿らしい顔で、無言でまた干し魚を一つ口に入れた。
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