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二年目
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あれ?いつの間にか眠ってた?確か柊さんの音がやんで、歓声が上がって、それから?ん?わからない。
頭を上げて、そこから下を見る。まだ宴が終わってないようで、違う人がレコードを回しているようだった。横を見ると、菊音さんが気がついたように私に声をかける。
「気がついたか。」
「はい。」
頭が重い。何だろう。痛いとかじゃなくて重い。
「なんか体調悪かったのかな。急にうなだれてね。」
「すいません。実は昼、ちょっと熱中症っぽくなって。」
「あぁ。そんなときにつれてきたんだね。Syuの奴。もう帰らせようね。これが終わったら呼ぶよ。」
下をのぞき見ると、柊さんはほかのDJの人と何か話しているようだった。こういう繋がりも大事にしないといけないんだろうな。
やがて音がやみ、菊音さんは席を立つ。そして次に来たときは柊さんを連れてきていた。
「怒られた。」
「無理をさせるからだ。さて、桜さん。今度は高校を卒業してくるんだね。」
「ありがとうございます。」
「ま、こっそりここに来てもかまわないよ。お母さんの許可があればね。」
たぶん菊音さんは私の母さんのことを知っているのだろう。
柊さんは私の手を引いて、いすを片づけてくれた。そして私の手を引いて階段を下りる。数人の男女から声をかけられていたけれど、軽く交わしてクラブを出ていく。私の頭に乗せられたハットを手にすると、まだ寝ていた酔っぱらいの頭にかぶせて階段を下りていく。外にでると、蒸し暑い風邪が吹き抜けた。だけどクラブの空気よりは幾分ましだ。
思わず足を止める。そのクラブの入っている建物の隣には、「虹」が入っている建物がある。ここへ来ると、武彦のことを思いだした。彼はもう女装をしないのだという。体が成長し、もう女性には見えないからだと言っていた。
好きなら続ければいいのに、そこまで好きじゃなかったって事だろうか。
「帰るぞ。」
「はい。」
再び彼は私の手を握り、バイクに乗り込んだ。
帰ってきたのは、柊さんのアパートの前だった。そこにバイクを止めると、私はバイクを降りた。そしてヘルメットをとる。
「ありがとうございました。」
「桜。」
「どうしました?」
「明日も学校か?」
「明日は……いいえ。明日は行かなくていいんですけど。」
「そうか。」
「柊さんは仕事ですか。」
「あぁ。そうだけど……。」
バイクに鍵をして、彼は手を宙に浮かせる。引き寄せたい。そう感じた。
「柊さん。連れて帰ってくれないんですか。」
私の口からそんなことを言うと思ってなかったのかもしれない。少し驚いた表情になり、宙を泳いでいた手が私の手を握る。大きく熱い手が、包み込んだ。
「体は大丈夫か?」
「眠気が急にきて……何でしょうね。わからないけれど……万全とは言い難いのかもしれませんね。」
「でもな……。」
ほどいている髪をぱりぱりとかいた。
「気にしないでください。それよりも自分のことを考えてもらってもいいんです。我が儘で私を振り回してください。」
「いいのか。」
「はい。それの方が私も安心できるし。」
ステージのことを思い出す。観客席とステージ。その間には深い溝があるように感じた。それはきっと私が「窓」で働いているときも、彼が同じ気持ちでいたと思う。
だけど今はこんなに近く、すぐに腕を伸ばせば抱きしめてもらえる。
「メッセージだけ送る。」
「誰に?」
「お母さんに。体調が悪くて迎えに行ったのに、帰ってこなかったと知ったらあの人は怒るだろう。」
携帯電話を取り出して、彼はメッセージを送る。そして私の手を引いた。
「部屋へ来い。」
「はい。」
そうして欲しかった。私は彼の手を握り返し、彼の背中を追う。
部屋にはいると、むわっとした空気がまとわりついてきた。クラブとは違うけれど、まるでサウナのようだ。
彼はエアコンをつけると、荷物を置いた。この中にレコードが入っているのだ。電気をつけると、彼の携帯がなる。
「……お母さんからだ。」
「なんて?」
「無理をさせない程度にしろと。」
止めても無駄だとわかってるのだ。意地になり、家を出て行った母さんは、私によく似ているという。
「まず風呂に入ろう。沸かしてやる。」
「ありがとうございます。」
「いい。あいつに味見されたんだろう。その跡を消したい。」
そうだった。もう少しで葵さんとセックスをすることになってしまっていたのだ。ぞっとする。そんなことになっていたらどうなっていたことだろう。
決して広い湯船ではなく、体が大きな柊さんと入るといっぱいいっぱいになってしまいそうだった。だけどそれを見るのはまだ恥ずかしく、電気を消して欲しいという願いだけ叶えてくれた。
「ここに住んでることを知っている人っているんですか。」
「葵は知っているか。あと椿だったときの、親しかった奴。でもまぁ、俺はあまり人と交わらなかったけれど。」
「興味がなかったから?」
「そうだな。蓬のこともあって……さらに希薄になったか。あいつの手からはさらさらと人がいなくなっていく。そんな気がする。」
一時は蓬さんに陶酔していたという。だから今の状態はショックだったのかもしれない。
「あの組は、今ごたごたしているらしい。お前の同級生の奴が椿に入ったようだが、大丈夫か。」
「連絡はありますけど、元気そうです。」
「だったらいいけど。」
のぼせそうだ。そろそろ上がろう。
「先に上がります。」
「桜。」
立ち上がろうとした私を引き寄せて、唇を合わせてきた。
「んっ……。」
今日何度も口内を愛撫された葵さんのあとを上書きするように、彼は激しくキスをする。私も答えるように舌を絡ませた。
頭を上げて、そこから下を見る。まだ宴が終わってないようで、違う人がレコードを回しているようだった。横を見ると、菊音さんが気がついたように私に声をかける。
「気がついたか。」
「はい。」
頭が重い。何だろう。痛いとかじゃなくて重い。
「なんか体調悪かったのかな。急にうなだれてね。」
「すいません。実は昼、ちょっと熱中症っぽくなって。」
「あぁ。そんなときにつれてきたんだね。Syuの奴。もう帰らせようね。これが終わったら呼ぶよ。」
下をのぞき見ると、柊さんはほかのDJの人と何か話しているようだった。こういう繋がりも大事にしないといけないんだろうな。
やがて音がやみ、菊音さんは席を立つ。そして次に来たときは柊さんを連れてきていた。
「怒られた。」
「無理をさせるからだ。さて、桜さん。今度は高校を卒業してくるんだね。」
「ありがとうございます。」
「ま、こっそりここに来てもかまわないよ。お母さんの許可があればね。」
たぶん菊音さんは私の母さんのことを知っているのだろう。
柊さんは私の手を引いて、いすを片づけてくれた。そして私の手を引いて階段を下りる。数人の男女から声をかけられていたけれど、軽く交わしてクラブを出ていく。私の頭に乗せられたハットを手にすると、まだ寝ていた酔っぱらいの頭にかぶせて階段を下りていく。外にでると、蒸し暑い風邪が吹き抜けた。だけどクラブの空気よりは幾分ましだ。
思わず足を止める。そのクラブの入っている建物の隣には、「虹」が入っている建物がある。ここへ来ると、武彦のことを思いだした。彼はもう女装をしないのだという。体が成長し、もう女性には見えないからだと言っていた。
好きなら続ければいいのに、そこまで好きじゃなかったって事だろうか。
「帰るぞ。」
「はい。」
再び彼は私の手を握り、バイクに乗り込んだ。
帰ってきたのは、柊さんのアパートの前だった。そこにバイクを止めると、私はバイクを降りた。そしてヘルメットをとる。
「ありがとうございました。」
「桜。」
「どうしました?」
「明日も学校か?」
「明日は……いいえ。明日は行かなくていいんですけど。」
「そうか。」
「柊さんは仕事ですか。」
「あぁ。そうだけど……。」
バイクに鍵をして、彼は手を宙に浮かせる。引き寄せたい。そう感じた。
「柊さん。連れて帰ってくれないんですか。」
私の口からそんなことを言うと思ってなかったのかもしれない。少し驚いた表情になり、宙を泳いでいた手が私の手を握る。大きく熱い手が、包み込んだ。
「体は大丈夫か?」
「眠気が急にきて……何でしょうね。わからないけれど……万全とは言い難いのかもしれませんね。」
「でもな……。」
ほどいている髪をぱりぱりとかいた。
「気にしないでください。それよりも自分のことを考えてもらってもいいんです。我が儘で私を振り回してください。」
「いいのか。」
「はい。それの方が私も安心できるし。」
ステージのことを思い出す。観客席とステージ。その間には深い溝があるように感じた。それはきっと私が「窓」で働いているときも、彼が同じ気持ちでいたと思う。
だけど今はこんなに近く、すぐに腕を伸ばせば抱きしめてもらえる。
「メッセージだけ送る。」
「誰に?」
「お母さんに。体調が悪くて迎えに行ったのに、帰ってこなかったと知ったらあの人は怒るだろう。」
携帯電話を取り出して、彼はメッセージを送る。そして私の手を引いた。
「部屋へ来い。」
「はい。」
そうして欲しかった。私は彼の手を握り返し、彼の背中を追う。
部屋にはいると、むわっとした空気がまとわりついてきた。クラブとは違うけれど、まるでサウナのようだ。
彼はエアコンをつけると、荷物を置いた。この中にレコードが入っているのだ。電気をつけると、彼の携帯がなる。
「……お母さんからだ。」
「なんて?」
「無理をさせない程度にしろと。」
止めても無駄だとわかってるのだ。意地になり、家を出て行った母さんは、私によく似ているという。
「まず風呂に入ろう。沸かしてやる。」
「ありがとうございます。」
「いい。あいつに味見されたんだろう。その跡を消したい。」
そうだった。もう少しで葵さんとセックスをすることになってしまっていたのだ。ぞっとする。そんなことになっていたらどうなっていたことだろう。
決して広い湯船ではなく、体が大きな柊さんと入るといっぱいいっぱいになってしまいそうだった。だけどそれを見るのはまだ恥ずかしく、電気を消して欲しいという願いだけ叶えてくれた。
「ここに住んでることを知っている人っているんですか。」
「葵は知っているか。あと椿だったときの、親しかった奴。でもまぁ、俺はあまり人と交わらなかったけれど。」
「興味がなかったから?」
「そうだな。蓬のこともあって……さらに希薄になったか。あいつの手からはさらさらと人がいなくなっていく。そんな気がする。」
一時は蓬さんに陶酔していたという。だから今の状態はショックだったのかもしれない。
「あの組は、今ごたごたしているらしい。お前の同級生の奴が椿に入ったようだが、大丈夫か。」
「連絡はありますけど、元気そうです。」
「だったらいいけど。」
のぼせそうだ。そろそろ上がろう。
「先に上がります。」
「桜。」
立ち上がろうとした私を引き寄せて、唇を合わせてきた。
「んっ……。」
今日何度も口内を愛撫された葵さんのあとを上書きするように、彼は激しくキスをする。私も答えるように舌を絡ませた。
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