守るべきモノ

神崎

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栄華

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 牧緒が慌ててタオルを手にして大和に近づく。だが大和はカウンター越しに、亜美の方へ突っかかっていた。
「てめぇ。何すんだよ。」
「姿だけじゃなくて中身も子供なのね。子供はここに来ることは出来ないのよ。さっさと出て行きなさい。」
「本当のことを言われて逆上してる方がさらに子供だろう?年下のくせに生意気なことを言いやがって。」
「あんた、どうなっても知らないわよ。」
「どうなってもしらねぇのはそっちだ。たかが坂本組の分家の家のくせに。」
 慌てて礼二が立ち上がると、大和を亜美から引き離す。
「ごめん。もう会計して。」
 泉も立ち上がって牧緒からタオルを受け取ると、大和の頭にそれをかぶせた。
「亜美。あまり熱くならないで。」
 泉はそう言うと亜美は鼻で笑って言う。
「あなたがそんなにその男をかばうわけ?礼二よりもそっちの男が大事なの?」
「違うわ。」
「あなたもあまり他の男をたらし込まないで。」
 すると泉も口をとがらせた。
「何もないわ。ただ一緒に働いているだけで、そんなことを疑われることもしていないのに。」
「本当に?」
 牧緒がそう言って泉をみる。嘘をついているのはすぐにわかる。泉の目が泳いでいるからだ。
 そのまま会計を済ませると、みんなは出て行った。それを見て、軽く牧緒はため息をついた。
「……あのさ。亜美。」
「何よ。」
「ずっと側にいた倫子が羨ましいのもわかるし、我慢していたのもわかるよ。でも泉はその気はないんだよ。」
「わかってるわ。」
 小動物のように倫子、倫子とついて行っていた泉が羨ましかった。それに倫子も悪い気はしていなかった。だから羨ましい。

 みんなが家に帰るのを見届けて、泉も礼二とともに家に帰ってきた。ワンルームの部屋は手狭かもしれない。それでも礼二のもう少し広いところに引っ越そうかという申し出に、泉は首を縦に振らなかった。狭ければ側に入れると前向きだったのだ。
「どう考えても、亜美さんに喧嘩を売っていたね。」
「……あまり亜美があんなに熱くなることはないんだけど、何か言われたのかしら。」
「自分の家の事かな。」
「ヤクザの家?」
「うん。」
 すると礼二はベッドに腰掛けると、泉を隣に座らせる。
「……うちの会社もそっちと繋がりがあるのはわかる?」
「だろうなと思ってただけだけど。」
「社長の兄弟が坂本組って言う組の若頭なんだ。」
「若頭……。」
 社長が組長だとしたら、その次くらいだろう。そして亜美はその分家のトップだ。本家にたてつく分家など無いだろう。それを大和は言っていたのだ。
「亜美は……自分の家を相当嫌がっていたの。だって亜美は本当は普通にOLとかしたかったはずなのに、それが出来なかったの。だから夜の店しかなかった。本当だったらホステスとかになるのだろうに……。」
「……そこを言われたかな。」
 大和は会社の中では上の地位にある。当然、ヤクザのことも知っていただろう。
「俺さ……正直ほっとしてるんだ。」
「どうして?」
「俺の経歴を見れば、上の立場になればヤクザとのパイプ役になり得るんだ。そうなればそっちの方から引き抜かれるかもしれない。ヤクザにはなりたくないのに、会社が俺を売ったらそうなることもあり得るんだ。」
「……。」
「だからあの店にずっといれるんなら、そっちの方が良い。高望みしなくても良い。俺は、ずっと泉がいればいいから。子供は出来ないけれど……。」
 すると泉はそのまま礼二の体に体を寄せた。
「私も礼二がいればいい。渡さないで。あんな人に。」
「うん。」
 泉がそのまま礼二の方を見上げる。すると礼二もその体を引き寄せて、その唇にキスをする。

 食事を終えると、倫子は煙草を取り出してそのついでに薬を取り出す。一日一度、飲む薬だった。だがそれを飲むのも少し最近ためらう。
 自分に子供が出来ないようにしている薬だ。だが春樹はずっと子供を望んでいるのだろう。年齢を考えるとそうかもしれない。
「どうしたの?」
 煙草を取り出した春樹が倫子にそう聞くと、倫子は首を横に振る。
「……子供を作るにはまず禁煙しないといけないわね。」
「俺も?」
「一人だけ我慢しないつもり?それなら作らないわ。」
 倫子はそう言うとその薬を取り出して口にいれる。そのとき、外から声が聞こえた。
「小泉ぃ。」
 霧子の声だ。倫子はそこに声をかける。
「どうぞ。」
 すると霧子の頬が少し赤くなっている。そして倫子に声をかけた。
「お客さん。あなた宛に。」
 そう言って霧子は体を避ける。するとそこには忍の姿があった。
「兄さん。」
「飯を食べたのか。」
「えぇ。」
「丁度良かった。差し入れと思ってな。」
 忍はそう言って五合瓶を取り出す。それは地元の酒だった。
「霧子さん。徳利とお猪口をもらえるかな。」
「はい。」
「悪いね。持ち込みをして。」
「いいんですよ。知った顔だし。」
 そう言った霧子の足が浮かれている。本当だったら持ち込みなど出来ないのだろうに、忍だから許可をしたのだろう。
 食事の片づけを終えて、お猪口と徳利を持ってきた霧子は、そのまま下がっていった。そしてその徳利に酒を注ぐと、まずは忍に酒を注ぐ。そして春樹、倫子と酒を注いだ。
「この酒造メーカーの人は兄さんの先輩だったわね。」
「あぁ。真面目にやってて、以前とは違うようだ。」
 やんちゃをしていた同級生が真面目に酒を造っているのを見て、忍も人は変わるんだと思っていた。
「古いやり方だとバカにされていたようだが、それでも数量限定で高級デパートにも卸しているらしい。こんなに気安く買えるものじゃないらしいな。」
 春樹はその酒を口にいれると、その言葉が本当のように思えた。優しい味がして、とげとげしさがない。するすると喉ごしが良く、飲み過ぎてしまいそうだ。
「何かあったの?」
 回りくどいことが嫌いな倫子らしいストレートな物言いだ。忍はそう思いながら、お猪口をテーブルにおいた。
「栄輝が何をしているか知っているか。」
「何って……大学生で。」
「バイトだ。ウリセンにいるだろう。」
 その言葉に倫子の表情が変わった。まさか知っていると思ってなかったのだ。
「だがあいつはゲイじゃないらしい。ねらいはあそこを出入りしているヤクザだ。お前がレイプされたというあのとき、居た男がその店を出入りしているからだそうだ。」
「……危険ね。」
 首を横に振ると、春樹の方をみる。すると春樹は少し何か考えているようだ。
「止めたが、どうしてもそこに居たいと聞かない。お前の口から辞めろとは言えないか。」
 このままだと栄輝はそっち側の世界に行く気がした。だから忍も必死なのだ。
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