私のバラ色ではない人生

不作法

「王妃陛下の前です！言葉を改めなさい！」

　叱ったのはソアリスではなく、侍女であるメディナ。真っ当な働きである。

「メイドがしゃしゃり出て来ないでよ！私は王妃様と話しているのよぅ」
「黙るのはあなたですよ、この者は侯爵家の人間ですよ？」
「えっ？侯爵？」

　正確にはメイドではなく、侍女なのだが、いつも大慌てしている三人の内の一人である。メディナ・コンクレットは、コンクレット侯爵夫人である。

　ちなみに、あと二人はキャロライン・パッセ侯爵夫人、ポーリア・ラーバ伯爵夫人である。必要な時は三人ともが付くが、基本的には交代で誰か侍女に付いている。

　メディナはソアリスより二つ年下で、キャロラインが五つ年下、ポーリアは三つ年下である。元々は二人体制だったのだが、夫人の役割もあるのに、気兼ねして休めないということで、三人体制になっている。

　パールは元は男爵家の令嬢で、ビリジュ伯爵家のメイドは男爵家であるため、自分より下だと勝手に判断していた。

「でもメイドでしょう？」
「あなたのメイドではありませんわ、そうでしょう？それで、何の騒ぎです？」
「だから、ユリウス様に会いに来てあげたんですぅ」
「そのような約束は聞いておりません」

　王宮は王族と住まう宮と、大臣たちが働く宮が別れているが、門は同じである。出入りを確認する門係はピシャリと言い切った。

「だそうです、帰りなさい」

　ユリウスは戻っているのならば、剣術の稽古をしている時間だろう。

「ユリウス様が忘れているんですよぅ」
「まあ、ユリウスを貶すために、わざわざ騒ぎを起こしたのね？ユリウスは嫌われているのね、お母様は悲しいわ…」
「え？」
「だってそうでしょう？約束がないと言っているのに、わざわざ人目のある場所で、騒ぎを起こしているのでしょう？でなけば、私の勘違いだったと帰るはずだもの。息子が嫌われているなんて…」

　カイルスを妊娠中に編み出した悲劇のヒロインっぷりをまた発揮している。

「今日は眠れないかもしれないわ」

　怒りで眠れないの間違いではないか？静かだなと思ったら寝ていたり、疲れたわねと言った次の瞬間に寝ていたり、眠れないことがソアリスにあるのかという方が疑問である。

「あの、えっと、勘違い？かもしれません…？」
「何か嫌われるようなことがあったのでしょうね。ビリジュ伯爵家にも連絡して、あなたには関わらない様にこちらも対処するわ」
「あの、ちが」
「送って差し上げて頂戴、メディナも」
「「「は！」」」

　参りますわよとメディナが引きずって行き、パールは王宮から出された。

　その後、いつもより多めに走り終えたソアリスは、汗を流すためにお風呂に入り、すっきりとは…しなかった。

「母上！！」

　飛び込んで来たのは、話を聞いたユリウスである。悪い口を開く前に、止めなければと慌ててやって来た。

「本日は、ご迷惑をお掛けしたようで申し訳ございません。ですが、私は関わりのない相手で、約束もしておりません」
「でしょうね、あんなのと想い合っていると言われたら、お母様は明日から悪い口が馬鹿になって、垂れ流すことになっていましたわ、ほほほほほ」

　ユリウスは想像しただけ身震いした。

「クラスも学年も違うのに、纏わり付かれていたのです」
「んまあ」
「お母様が撃退したと聞き、しかも関わらない様にすると、感謝しております」
「あれで良かったかしら？」

　あの中に本気に取った者はいないが、息子を嫌われ者にしてしまっている。

「はい！嫌われて結構です、むしろ嫌って近づかないで欲しいです」
「コンクレット侯爵夫人も抗議を行うと息巻いておりましたから、こちらも騒ぎを起こすほど嫌っているようなので、互いに接触禁止とするようにしましょう」
「よろしくお願いいたします！はあ…これで煩わされずに済む！お母様ももっと怒っているかと思っていました」
「全くすっきりしてませんわよ？」
「やっぱり…」