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一緒に旅をしていた、犬だと思っていた彼がまさか人間だったなんてとカノンは、夜になるまで頭を悩ましていた。
ノック音がし、慌てて脱いでいた鎧を着て万全の格好で扉を開けると、そこにはあの彼が立っていた。
居留守をしたかったが、中から鍵をかけられるこの部屋は、鍵がかかっている時点でここにいるよと言っているようなもので、出るしかなかった。
のだが、出なければ良かったと心底思った。合わせる顔などない。
カノンがかたまっていると、彼ーースウェンが口を開く。
「少しいいか」
中に入れなくてはいけない空気に、カノンは頷き中招き入れた。
重たい空気にスウェンは振り返る。
「その鎧、着なくてもいいんじゃないかーー俺の前では。バレてるし」
「……そう、ですね」
頭の鎧を取る。
犬の姿であった彼に全て話してしまった。自分が女であること、間違えて召喚されてしまったこと、別世界から来てしまったこと、全て。ーーそして名前も。
カノンは周りの人間にユーシャと名乗ったが、そんな名前ではない。本名ではないこと、何人かは感じ取っていると思うが。
「皆にバラしますか?」
静かに見つめると、沈黙する。
「バラすわけないだろ。俺に得ある?」
少し視線を外して言ったため、彼の言うことが信じられない。そんなカノンの心情が伝わったのか。
「バラしたところでオドオドするやつとベタベタするやつしかいないだろうし。勇者って男だと思っていたけどよく考えてみれば女でも変わらないというか、性別なんて関係ないんじゃないかって思うようになった」
ーーどうせ戦いは終わらない。
赤裸々に語ったスウェンの心の声は、カノンが何度か不安に思ったことだった。
本当に戦いなんて終わらせることができるのか。自分でない召喚されるべきだった男の人にもそんなことを成し遂げることができたのか。
召喚されるべきではない自分にそんなことが……。
「戦いを終わらせればこの男装もしなくてすむんです。一緒に戦いを終わらせる方法を考えてくれませんか?」
「……無理だろ」
まるで本音が滑ったようだった。スウェンは言ってから自らの口に手を当てている。
カノンを絶望させる言葉だと悟ったからか。
「無理なのは承知で。……このまま嘘をついたまま戦闘中に亡くなったりするのは嫌なんです」
一人飢え死にするのはまだいい、皆を騙して亡くなった後にその嘘があらわにされるのは一番の恐怖だった。
懇願すると、スウェンはわかったと頷いた。
「ありがとうございます。なんだか少し安心しました、ずっと一人のようで不安だったので」
緊張が解けたように笑う。
今まで一人のようだった。自分のことを気遣ってくれる犬はいたがやはり犬は犬で。でもその犬が人であるスウェンで、それが原因でいろいろパニクったりしたが、それでも彼が人間で良かったのかもしれないと思ったカノンだった。
その逆もまた然り。
「スウェンさんが犬で良かった」
「俺は犬じゃない」
「犬だったって意味です……」
ちょっとした失言にカノンは気まずそうにするが「ありがとうございます」ともう一度、小さな声で気が抜けたように言った。
初めて会った時、彼が人の姿であれば、自分が女であることと違う世界から来たことを打ち明けはしなかっただろう。彼が犬であったから言えた。
マクウェル王は女だとバレないよう言われたが、彼がそのことを広めない限り大丈夫だろう。バラさないでくれるとはっきり言ってくれたのだから。
気が抜けたついでにカノンのお腹が鳴る。
「そういえば、夕飯のときにいなかったよな。ここで食べてるもんだと思ってた」
「皆、一緒に食べているんですか?」
「まあ、そうだな」
セナ王にはあまり外に出ないようにと言われている。
「お前は、鎧着たまんま食べるってわけにもいかないし、ここで食べるしかないだろ」
確かにそうだ。
「持ってくるか」
「い、いえ、大丈夫です」
「ご飯あるとこ知らないだろ」
言葉に詰まったカノンを見てスウェンは扉に向かおうとした。そこでカノンは口を開く。
「一緒について行ってもいいですか? 次からはちゃんと自分で持ってこられるように」
「ああ、その鎧をかぶってからな」
スウェンの言う通りにカノンは頭の鎧をかぶった。
ノック音がし、慌てて脱いでいた鎧を着て万全の格好で扉を開けると、そこにはあの彼が立っていた。
居留守をしたかったが、中から鍵をかけられるこの部屋は、鍵がかかっている時点でここにいるよと言っているようなもので、出るしかなかった。
のだが、出なければ良かったと心底思った。合わせる顔などない。
カノンがかたまっていると、彼ーースウェンが口を開く。
「少しいいか」
中に入れなくてはいけない空気に、カノンは頷き中招き入れた。
重たい空気にスウェンは振り返る。
「その鎧、着なくてもいいんじゃないかーー俺の前では。バレてるし」
「……そう、ですね」
頭の鎧を取る。
犬の姿であった彼に全て話してしまった。自分が女であること、間違えて召喚されてしまったこと、別世界から来てしまったこと、全て。ーーそして名前も。
カノンは周りの人間にユーシャと名乗ったが、そんな名前ではない。本名ではないこと、何人かは感じ取っていると思うが。
「皆にバラしますか?」
静かに見つめると、沈黙する。
「バラすわけないだろ。俺に得ある?」
少し視線を外して言ったため、彼の言うことが信じられない。そんなカノンの心情が伝わったのか。
「バラしたところでオドオドするやつとベタベタするやつしかいないだろうし。勇者って男だと思っていたけどよく考えてみれば女でも変わらないというか、性別なんて関係ないんじゃないかって思うようになった」
ーーどうせ戦いは終わらない。
赤裸々に語ったスウェンの心の声は、カノンが何度か不安に思ったことだった。
本当に戦いなんて終わらせることができるのか。自分でない召喚されるべきだった男の人にもそんなことを成し遂げることができたのか。
召喚されるべきではない自分にそんなことが……。
「戦いを終わらせればこの男装もしなくてすむんです。一緒に戦いを終わらせる方法を考えてくれませんか?」
「……無理だろ」
まるで本音が滑ったようだった。スウェンは言ってから自らの口に手を当てている。
カノンを絶望させる言葉だと悟ったからか。
「無理なのは承知で。……このまま嘘をついたまま戦闘中に亡くなったりするのは嫌なんです」
一人飢え死にするのはまだいい、皆を騙して亡くなった後にその嘘があらわにされるのは一番の恐怖だった。
懇願すると、スウェンはわかったと頷いた。
「ありがとうございます。なんだか少し安心しました、ずっと一人のようで不安だったので」
緊張が解けたように笑う。
今まで一人のようだった。自分のことを気遣ってくれる犬はいたがやはり犬は犬で。でもその犬が人であるスウェンで、それが原因でいろいろパニクったりしたが、それでも彼が人間で良かったのかもしれないと思ったカノンだった。
その逆もまた然り。
「スウェンさんが犬で良かった」
「俺は犬じゃない」
「犬だったって意味です……」
ちょっとした失言にカノンは気まずそうにするが「ありがとうございます」ともう一度、小さな声で気が抜けたように言った。
初めて会った時、彼が人の姿であれば、自分が女であることと違う世界から来たことを打ち明けはしなかっただろう。彼が犬であったから言えた。
マクウェル王は女だとバレないよう言われたが、彼がそのことを広めない限り大丈夫だろう。バラさないでくれるとはっきり言ってくれたのだから。
気が抜けたついでにカノンのお腹が鳴る。
「そういえば、夕飯のときにいなかったよな。ここで食べてるもんだと思ってた」
「皆、一緒に食べているんですか?」
「まあ、そうだな」
セナ王にはあまり外に出ないようにと言われている。
「お前は、鎧着たまんま食べるってわけにもいかないし、ここで食べるしかないだろ」
確かにそうだ。
「持ってくるか」
「い、いえ、大丈夫です」
「ご飯あるとこ知らないだろ」
言葉に詰まったカノンを見てスウェンは扉に向かおうとした。そこでカノンは口を開く。
「一緒について行ってもいいですか? 次からはちゃんと自分で持ってこられるように」
「ああ、その鎧をかぶってからな」
スウェンの言う通りにカノンは頭の鎧をかぶった。
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