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そこから2時間ほど走っただろうか、かなり王都からも郊外の町からも離れた林の中、少し開けた空間に馬車は停まった。
小一時間ほど休憩を取るらしい。
その頃にはギヴも起きて、近くを散策しよう、とオレを誘ってきた。
「坊っちゃん方、散策ついでにきのこを頼みます」
ルーさんから籠を差し出される。
きのこ狩り?楽しすぎるのだが。学園時代、課外授業という名の遠足や修学旅行等は一度も出なかった。勉学の場にそんなものは不要、と強がっていたが、本当はすごく行きたかったのだ。──そういえば、第3王子スピネルからは何度も参加するように言われ、取り巻きからは影で絶対来るな、と念押しされたな。
「ルー、少しは婚約中の俺達に気を使ってくれないか」
「お言葉ですがね、自然の中ではリーダーに従ってもらいますぜ」
「いや、リーダー俺だろ」
ルーさんがカッコいい。
漫才の掛け合いのようなことをしてる二人。
つんつん、とギヴの服の裾を引っ張る。
「オレ、してみたい」
自分の経験不足を恥ずかしく思いながらお願いしてみた。
「ぐ、」
「──こりゃ、また。坊っちゃんが夢中になるわけですな」
「うるさい。早く籠をよこせ」
照れかくしなのか、ギヴはぞんざいな言い方で籠を受け取りオレと手を繋いだ。
「さあ、行きましょうか。籠いっぱいきのこを採って来ましょう」
「うん!」
それからは、きのこ狩、馬車からの景色、ルーさんの作ってくれた昼食を楽しみ、湖で釣りを、自力でテントを立てることを、夕食を一から自分達で作ることを楽しんだ。家で厨房に立ちスープを作ることもあるから料理は少しはできるのだ。ルーさんにも褒められた。
テントを立てるエリアにはもう二組馬車が停まっていて、一緒に焚き火を囲みスープを飲んだ。温めたワインも一杯ずつ飲み、みんなで歌も歌った。
そんな旅程を次の日も繰り返し、3日目のお昼近く、“ドワーフの村”に到着した。
そこは切り立った山の麓の小さな村だった。村の山側には、どこまでも斜めに牧羊地が続いている。
馬車から降りると吐く息が白い。雪が積もっている場所もあり、温暖な王都とは気候も違うのだと実感した。
馬車が村長さんの屋敷の前に着くとギヴが申し訳無さそうに言った。
「ラド、少しここで待っていてもらえますか?実は急だったから、ラドが一緒だと伝えられていないんです。彼らは警戒心が強いから先に伝えてきたい」
「うん、ここで待っているよ」
「私は先に馬を繋いできますよ」
ギヴに続いてルーさんも馬車と共にいなくなった。
残されたオレは景色を堪能していたのだが、ふと、雪に触ってみたくなった。
屋敷の軒下の日陰になった場所に雪が残っている。
触ると、けっこう固くて、雪というよりは氷のように固まっている。雪玉を作りたかったがこれでは無理そうだ。
なんとなく、もっといっぱい残っている雪はないだろうかと屋敷の裏へ周った。
広々とした場所だが窓に面していないから、ここはいわゆる裏庭なのだろう。
屋敷の裏の端の方に不自然に大きな石が置かれている。縦も横もオレより大きい。近寄ってみると、緑っぽい地に赤と黒でジグザグの模様の入ったツルツルとした石だった。きっと名のある石なのだろうと見上げていると、屋敷の方からこちらに向かってくる足音と話し声がした。
咄嗟に身を潜める。
「ギベオンが奥方を連れてきたんだと」
「奥方ならこのまんまで良かろうに」
「そういうわけにもなあ。面倒だが、人の姿にならねば。みんなにも事情を話しに行こう」
そんなことを言い合いながら、二人はあの大きな石の中に消えていった。
「・・・・・。」
叫び出しそうな口を両手でしっかりと押さえた。
二人とも、俺の背丈の半分ほどの背の高さ。顔中もしゃもしゃの白いヒゲ。そしてトンガリ帽子を被っていた。
「・・・ウソ、ドワーフだ」
ここは通称“ドワーフの村”。
ドワーフの衣装でお客様をお出迎えすることがあってもおかしくない。いや、それでは背丈の説明がつかない。それに、「人の姿にならねば」と言っていた。
人気のなくなった裏庭をもう一度見る。あの大きな石に入っていったように見えた。
そうっと石に近づく。足元に落ちていた枝を拾いつんつんしてみる。石だった。
ばっ、と裏に周る。誰もいない。石も、石だった。
「ラド、こんなところにいたのかい?」
「しぃ~っ」
探しに来くれたギヴに静かにするように手振りした。
(どうしたの?ラド)
(ドワーフがいたんだ。ギヴ、ここは本当にドワーフの村なんだ!!)
小声で話し合う。
この石に何か仕掛けがあるに違いない。パズルは得意分野だ。任せてくれ。
「おわっ!」
「んぎゃっ!」
まずはスイッチのようなものがないか調べようと、ぴったりと石に張り付いていたら、中から出てきた人にぶつかった。
「な、なんだべ!」
「ギヴ、石から人が出て来た!」
「ギ、ギベオンか!」
「・・・あ~・・・」
石から生まれるように現れたのはドワーフではなく“人”だった。だがオレは先程の会話を聞いていたから目の前の人間がドワーフだと確信していた。
小一時間ほど休憩を取るらしい。
その頃にはギヴも起きて、近くを散策しよう、とオレを誘ってきた。
「坊っちゃん方、散策ついでにきのこを頼みます」
ルーさんから籠を差し出される。
きのこ狩り?楽しすぎるのだが。学園時代、課外授業という名の遠足や修学旅行等は一度も出なかった。勉学の場にそんなものは不要、と強がっていたが、本当はすごく行きたかったのだ。──そういえば、第3王子スピネルからは何度も参加するように言われ、取り巻きからは影で絶対来るな、と念押しされたな。
「ルー、少しは婚約中の俺達に気を使ってくれないか」
「お言葉ですがね、自然の中ではリーダーに従ってもらいますぜ」
「いや、リーダー俺だろ」
ルーさんがカッコいい。
漫才の掛け合いのようなことをしてる二人。
つんつん、とギヴの服の裾を引っ張る。
「オレ、してみたい」
自分の経験不足を恥ずかしく思いながらお願いしてみた。
「ぐ、」
「──こりゃ、また。坊っちゃんが夢中になるわけですな」
「うるさい。早く籠をよこせ」
照れかくしなのか、ギヴはぞんざいな言い方で籠を受け取りオレと手を繋いだ。
「さあ、行きましょうか。籠いっぱいきのこを採って来ましょう」
「うん!」
それからは、きのこ狩、馬車からの景色、ルーさんの作ってくれた昼食を楽しみ、湖で釣りを、自力でテントを立てることを、夕食を一から自分達で作ることを楽しんだ。家で厨房に立ちスープを作ることもあるから料理は少しはできるのだ。ルーさんにも褒められた。
テントを立てるエリアにはもう二組馬車が停まっていて、一緒に焚き火を囲みスープを飲んだ。温めたワインも一杯ずつ飲み、みんなで歌も歌った。
そんな旅程を次の日も繰り返し、3日目のお昼近く、“ドワーフの村”に到着した。
そこは切り立った山の麓の小さな村だった。村の山側には、どこまでも斜めに牧羊地が続いている。
馬車から降りると吐く息が白い。雪が積もっている場所もあり、温暖な王都とは気候も違うのだと実感した。
馬車が村長さんの屋敷の前に着くとギヴが申し訳無さそうに言った。
「ラド、少しここで待っていてもらえますか?実は急だったから、ラドが一緒だと伝えられていないんです。彼らは警戒心が強いから先に伝えてきたい」
「うん、ここで待っているよ」
「私は先に馬を繋いできますよ」
ギヴに続いてルーさんも馬車と共にいなくなった。
残されたオレは景色を堪能していたのだが、ふと、雪に触ってみたくなった。
屋敷の軒下の日陰になった場所に雪が残っている。
触ると、けっこう固くて、雪というよりは氷のように固まっている。雪玉を作りたかったがこれでは無理そうだ。
なんとなく、もっといっぱい残っている雪はないだろうかと屋敷の裏へ周った。
広々とした場所だが窓に面していないから、ここはいわゆる裏庭なのだろう。
屋敷の裏の端の方に不自然に大きな石が置かれている。縦も横もオレより大きい。近寄ってみると、緑っぽい地に赤と黒でジグザグの模様の入ったツルツルとした石だった。きっと名のある石なのだろうと見上げていると、屋敷の方からこちらに向かってくる足音と話し声がした。
咄嗟に身を潜める。
「ギベオンが奥方を連れてきたんだと」
「奥方ならこのまんまで良かろうに」
「そういうわけにもなあ。面倒だが、人の姿にならねば。みんなにも事情を話しに行こう」
そんなことを言い合いながら、二人はあの大きな石の中に消えていった。
「・・・・・。」
叫び出しそうな口を両手でしっかりと押さえた。
二人とも、俺の背丈の半分ほどの背の高さ。顔中もしゃもしゃの白いヒゲ。そしてトンガリ帽子を被っていた。
「・・・ウソ、ドワーフだ」
ここは通称“ドワーフの村”。
ドワーフの衣装でお客様をお出迎えすることがあってもおかしくない。いや、それでは背丈の説明がつかない。それに、「人の姿にならねば」と言っていた。
人気のなくなった裏庭をもう一度見る。あの大きな石に入っていったように見えた。
そうっと石に近づく。足元に落ちていた枝を拾いつんつんしてみる。石だった。
ばっ、と裏に周る。誰もいない。石も、石だった。
「ラド、こんなところにいたのかい?」
「しぃ~っ」
探しに来くれたギヴに静かにするように手振りした。
(どうしたの?ラド)
(ドワーフがいたんだ。ギヴ、ここは本当にドワーフの村なんだ!!)
小声で話し合う。
この石に何か仕掛けがあるに違いない。パズルは得意分野だ。任せてくれ。
「おわっ!」
「んぎゃっ!」
まずはスイッチのようなものがないか調べようと、ぴったりと石に張り付いていたら、中から出てきた人にぶつかった。
「な、なんだべ!」
「ギヴ、石から人が出て来た!」
「ギ、ギベオンか!」
「・・・あ~・・・」
石から生まれるように現れたのはドワーフではなく“人”だった。だがオレは先程の会話を聞いていたから目の前の人間がドワーフだと確信していた。
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