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第一章 転生先は……どこ?

第一話 ある病室で

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ある病室で目を覚ました子供「あゆみ」十歳が目を覚ます。
「あれ? また管が増えた気がするな」と歩は自分の腕に繋がれているチューブに目をやる。
「あ、そうか。昨夜ちょっとキツくて看護師さんを呼んだんだっけ」
歩は昨夜のことを思い出しふぅ~とため息を吐こうとして、顔が酸素マスクに覆われていることに気付く。
「呼吸が楽になったのはこれのお陰か。あれ? もしかしてお母さんがいる? なんでだろ? まだ会社の時間だよね」
ベッドの上でボーッとしながらもそんなことを思っていると病室の扉が開かれ、歩の父親が入ってくる。
「あれ、お父さんまで。どうしたんだろ?」
すると歩の母親が父親に近寄り確認する。
「先生はなんて?」
「おそらく今夜が峠だと言われた」
「嘘! なんで……」
「俺もそう言ったさ。でも……」
「でも?」
「もう、歩が楽になると考えてはどうかと言われたよ」
「何、ソレ! なんでそんなことを言われて黙ってるの! あなたは歩の父親なのよ! なんでよ!」
「落ちつけ! 確かにお前の言う通りだ。言われた時は俺も怒ったさ! それが医者の言うことかってね。でも、六歳の……小学校入学前からもう四年だ。歩が楽になるのならと思ってな。ごめん……でも、医者に治す方法はもうないって言われて、どうしようかと思っていたけど、これで歩が楽になれるならそれもアリかなって思った。最低だよな、俺。もう、父親って言えないよな」
「……」
二人が言い合っているのをなんとなく聞いていた歩は自分の命が尽きかけているのをなんとなく実感してしまう。
「そうか、僕はもう死ぬんだ……でも、これでキツイ思いしなくてもいいんだ。これで僕はやっと楽になれるんだ……」
歩はそう思うと、今話せる内にお父さんとお母さんにちゃんとお礼を言いたいと思い、顔に着けられている酸素マスクを外すと両親に話しかける。
「お父さん……お母さん……」
「「歩!」」
「どこか痛いの? どうしたの? お母さんが治してあげるから……大丈夫だから……歩」
「大丈夫だから、お母さん。あのね……僕ね……お父さんとお母さんにお礼を言いたいと思ったの。聞いてくれる?」
「歩、お礼なんて。退院したらいくらでも聞いてあげるから、ほら。マスクもちゃんとつけないと」
歩は酸素マスクを着けようとする父親の手を払うと、強めに言う。
「いいから、聞いて。多分、今じゃないと言えないから」
「歩……」
「あなた。歩のやりたいようにさせて」
「お前……分かった。歩、聞かせてくれ」
「ありがとう。お父さん、それにお母さん。入院ばかりでごめんね。でも、僕は優しいお父さんとお母さんの子供でよかったと思っている。本当だよ」
「歩……何を言うの! ダメよ! 諦めないでよ! 頑張ってよ!」
「歩、お父さんとキャッチボールするんだろ? お父さん、もうグローブも買って家においているんだぞ。だから……だから、そんなこと言うなよ」
「お父さん、お母さん。ごめんね。でも、もう疲れたんだ。コホッコホッ……」
「「歩!」」
軽く咳をした歩が心配で抱きしめようとしたが、歩に手で制される。
「大丈夫だから、心配しないでって言うのは無理だと思うけど、今じゃないと言えないから、このままで……」
「「……」」
「お父さん。キャッチボール約束していたのにごめんね」
「そんなこと言うなよ歩。退院したらいくらでも出来るだろ」
「ううん。僕は退院出来ないよ。多分、これがお父さんとちゃんと話せる最後だと思う。でも、悲しまないで欲しいんだ。僕は今、こんな状態だけど、誰も恨むことなく穏やかな気持ちなんだ。変な言い方でごめんね」
「……」
「お母さん。お母さんはよく『丈夫に産んであげられなくてごめん』って言ってるけど、気にしないで。僕はお父さんとお母さんの子供でいられたことに感謝しているんだ。だから、そんなに自分を責めないでよ。僕こそ、丈夫な体を作れなくてごめんね」
「歩! なんで歩がそんなことを言うのよ! どうせなら、私を責めてよ。『どうして僕を普通の体で産んでくれなかったの?』って言ってよ!」
「やだ! 絶対に言わない! だって、僕を産んでくれたお母さんに文句なんか言えないよ。だから、産んでくれてありがとう、お母さん」
「歩……」
両親に感謝の気持ちを伝えた歩は少し、呼吸が辛くなったのか酸素マスクを自分で着けると、両親に向かって話しかける。
「お父さん、お母さん。少し喋りすぎたみたい。なんだか眠くなっちゃった。ごめんね少しだけ、眠るね」
「そうなの? お母さんも歩と久しぶりに長くお話出来て嬉しかったわ」
「うん。僕も嬉しかった。ねえ、今度目を覚ましたら、走っても平気かな?」
「そうね。お母さんと一緒に鬼ごっこでもしようか」
「うん、そうだね」
そして、歩はゆっくり瞼を閉じると荒かった呼吸が段々と穏やかになり、やがて何も聞こえなくなる。
「歩? ねえ、歩……あなた、先生! 早く先生を呼んで来て!」
「わ、分かった」
父親は母親の尋常ではない様子に驚きながらもナースステーションへと走る。
母親は穏やかに眠るように息を引き取った息子の頬を撫でながら、呟く。
「頑張ったのね。最後まで私達を気遣うなんて……本当、馬鹿な子。罵ってくれた方が私は楽になれたのに……でも、ありがとう」
齢十年、歩というは病室でひっそりとその生を終えた。
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