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第一章 さようなら日本、こんにちは異世界

第12話 これが防御魔法なの

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「どの辺がいいかなぁ」

 街道から外れ、今晩の寝床を確保しようと少年は草を掻き分けながら奧へ奧へと進んで行く。

「出来れば、水を確保したいな。こっちに来てからちゃんと水を飲んでないし。食糧も鞄の中にあったパンだけだもんな。出来れば、カロリーメイトがよかったけど」

 そんなことを零しながら、取り敢えずは水を確保すべく道なき道を進んでいく少年だが、ふと気付く。

「あれ? そう言えば、これだけ草を払いながら進んでいるのに細かい傷が全然ついてないや。防御魔法ってもしかして結構優秀なのかな? 魔力もさっき発動した時に吸われたっきりだし……まさか一度発動したら、そのままなのかな? まあ、その辺も含めてどこかで落ち着いて解析しないとね。それにしてもどこまで行けばいいのかな」

 サバイバル経験どころか、草むらの中を歩いた経験などなかった少年は自分の背丈よりも高い草を払いながら、まだ日が高い内にと歩き続ける。

『ギャ』
「ん?」

 歩いている少年の耳に何やら聞き慣れない鳴き声らしき声が届く。

「え、なに?」
『グギャ』
『グゲゲ』
『ギャギャグ』

 少年の回りは草に囲まれ何も見えないが、何かが確かに近付いて来ているのは分かる。しかもどう考えても好意的なものとは思えない鳴き声だ。

「どうする? このまま進むべきか、止まるべきか……でも、止まっても攻撃手段も解体用のナイフだけだし……ん~とりあえず、防御魔法を信じて進もう!」

 少年は鳴き声も気になるが、今は有効な攻撃手段もないことから、闇雲に防御魔法を信じるしかないというところに行き着き、どうせ一度死んだ命だと開き直ってそのまま草むらを歩き続けることにした。

『ギャギャガ!』
『グゲゲ!』
『グララ!』
「なんか慣れると五月蠅いな。どうでもいいけど、姿くらい見せればいいのに……って、見せる時は僕を殺そうと攻撃してくる時だよな。ん~悩むけど、もうここまで来たら今更だ。頼むよ、防御魔法!」

 段々と鳴き声が大きく聞こえてくるので正体が分からない何かが近付いて来ているのは、なんとなく分かるが、まだ姿は見えない。

「水が見つかるのが先か、アイツらが出て来るのが先か……あ!」
『ギャ?』
『グギャギャ!』
『ギャー!』

 草を払いながら歩いている少年の前に現れたのは三体の緑色の魔物だった。背は少年より低いが、腰蓑の様な物を身に着け、手にはそれぞれ剣や槍のような武器を持っていた。

「え、聞いてないよ! うわぁ! へ?」
『ギャ?』

 少年は聞こえていた鳴き声の正体が目の前に現れたことで思わず身構えるが、その次に出て来たのは「へ?」と言う呆れた声だった。

 それは襲ってきた相手も同じで少年と同じ様に『ギャ?』と不思議がっていた。

 それもそうだろう。なんせ少年は剣で襲われ「終わった」と覚悟したが、その剣が少年に届くことはなく『ガキン』と弾かれたのだから。

 ここで少年はやっと防御魔法を信じることが出来たのだが、同時に困ってしまう。

「防御魔法が使えるのは分かったけど、これどうすればいいんだろう?」
『ギャガガ!』
『グゲゲ!』
『ゴガガ!』

 少年に対し一つも攻撃が通らないし、少年は歩みを止めないしで攻撃している三体も少しずつ疲れが見えてくる。

 だが、有効な手がないのは少年も一緒で防御されているのはいいのだが、直接攻撃する手段が何もない。鞄の中には解体用のナイフがあるが、防御魔法で守られている内側からどうやって攻撃すればいいのかも分からない。そもそも防御魔法の内側からナイフの刃は通るのかといろいろと問題はあるのだが、唯一の問題は自分を襲ってきているとはいえ、生き物の命を奪うことが出来るのかということだ。

「いじめられっ子だった僕が……出来るのか? いや、殺らなければ殺られるだけだ! って、覚悟を決めても手段がないんだって……もう、どうすればいいのさ」
『ギャゲゲ……』
『グゴゴ?』
『ガガギ?』

 少年がどうしようもなくなり歩みを止めると、襲っていた三体も合わせて止まる。

「ん? 待てよ。そういや、女神通信に書いてあったな。防御魔法はその空間内なら有りと有らゆることが可能だと……でも、この場合は僕を守っているこの空間内の話だけど、もし……もし、この三体に防御魔法を掛けることが出来れば……もしかして」

 少年はモノは試しとまだ少年を攻撃し続ける三体に対し、「守れ」と防御魔法を掛ける。

『ギャ?』
「掛かったかな? 分かり易く色でも着けば……おぉ!」

 少年がそう思うと三体を包んでいた防御魔法に薄らと赤く色が着く。

「へぇ~僕以外でも使えることが出来るんだ。じゃあ、試してみるか。先ずは、君からだ。とりあえず、ゴメンね」
『ギャ?』

 少年は一体の魔物に対し「圧縮」と呟くと、その魔物を包んでいた防御魔法の膜が段々と小さくなっていくのが分かる。そして、それに包まれていた緑色の魔物も『グギャ!』と声が出ていたが、それも防御魔法の膜が小さくなるにつれ聞こえなくなり、やがてその膜自体も点になりフッと消える。

『ギャ?』
『ガググ!』

 三体の内の一体が何かに包まれたと思ったら、その膜ごと小さくなり消えていったのを見た他の二体が騒ぎ出す。

「へ~思った通りと考えていいのかな。じゃあ、次は……」
『ギャググ……』
『ブゲゲ……』

 残された二体の魔物は振り返り様に見た少年の笑顔に凍り付くのだった。
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