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第二章 遺跡

第2話 レイの葛藤、エリスの独りよがり、ソルトの的外れ

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ギルマスの部屋を出ると、ニックのいる解体小屋へと向かう。
「おう、兄ちゃんか。今日はなんだ?」
「今日はイビルバイパーです。すみませんが、今日は選り分けをお願いしていいですか?」
「それはいいが、数は?」
「え~と、成体の雌雄が一体ずつ、あと幼体で二十五匹ですね」
「それくらいならいいか。で、選り分けってのは?」
「まず、幼体の傷が多いのをレイ、その他をエリスで、成体はゴルドさんって感じで伝票を分けてもらえますか?」
「なんだ、いつもの通りじゃないんだな」
「ええ、今回はちょっと訳ありで」
「まあいい。じゃ、そこに並べてくれ。あ、成体は後でな」
ニックさんの指示する場所にイビルバイパーの幼体を並べる。

「じゃあ、兄ちゃん。傷が多いのと少ないので分けてくれ」
「いいですよ。ほら、皆も手伝って」
「え~」
「え~言わない。元はレイが原因なんだから、手を動かす!」
レイがグチグチ言うが構わずに選り分ける。

「ほう、なるほどな。こりゃ酷いな。買取拒否一歩手前って感じだぞ」
「え~なんでさ」
「これは、お前の仕業か」
「そうだけど、そんなに違いはないでしょ。ほら、よく見てよ」
「お前が倒した、このイビルバイパーな。これから、まともな革を採るのは無理だ。肉にしかならんが、その肉も微妙じゃな」
「え~そんな~」
「そうじゃな、理想はこれだな。眉間に一発で仕留められている。これなら、革も肉も問題なしじゃ。このまま剥製にしても問題ないくらいに綺麗じゃな」
「あ、それ俺の!」
「なんじゃ兄ちゃんが仕留めた奴か。なら、納得じゃな。じゃ、査定結果は……まず、兄ちゃんがこれ。エリスが十四体で、レイが十体だな。ほれ、持っていけ」
ニックがそれぞれの買取金額を書いた紙をソルト達に渡す。

「ニックさん、俺の五万セルになっているけど?」
「ああ、お前のは綺麗なんだが、今回は肉が多すぎる。だからほとんどが革の代金だ。それで少し安くなった。すまんな」
「ああ、多すぎたんですね」
「そういうことだ」
「私は二十四万セルか。まあ、しょうがないよね」
「そうだな、エリスのはレイのに比べれば傷が少ないってくらいだ。だからほとんどが肉の値段だな」
「それで、私のは五万セルって、どういうことなの?」
「お前のは金になるだけでもありがたいと思え。革はズタボロでゴミにしかならん。それに肉もほとんど取れず、挽肉に加工するしかない。分かったか? 文句があるなら、綺麗に仕留めることじゃな」
「はい……」
「兄ちゃん、魔石はいつも通りに後で取りに来てくれ」
「はい。あ、それと……」
ソルトが言い淀むとニックがその様子に気付き理由を聞いて来たので、オークキングにオーククイーン、オークメイジにオークウォリアーも討伐して、無限倉庫に収納していることを話す。

「そうか~正直、欲しい気持ちはあるが、今回はイビルバイパーもあるしな。他の奴らにやらせるのも癪だし……」
「じゃあ、ニックさんが都合のいい時でお願いします。イビルバイパーの後になりますけど」
「おお、いいぞ。ゴルドの分が終わったら引き受けよう!」
「はい、ありがとうございます」

解体小屋を出ると、ギルドへ戻り、それぞれの買取伝票を受付に渡す。
「あら、今日はバラバラなんですね」
「うん、ちょっと訳ありでね。当分はこのスタイルで行くからお願いしますね」
「分かりました。では、それぞれの口座に振り込みますね」
「はい、お願いします。後、それぞれの五分の一を俺達のパーティの口座にお願いしますね」
「分かりました。お任せください」
「ねえ、ちょっと。なんで私のまでパーティの口座に入れるの?」
「なにが問題なんだ? パーティで活動した収益の五分の一はパーティ資金に回すのは約束だろ」
「そうだけど、不公平じゃん!」
「なにがだ? 俺もエリスも同じようにしているぞ」
「そうだけど、そうじゃないでしょ?」
「意味が分からない。レイはどうしたいんだ?」
「だから、私のをパーティ資金に入れるのはやめて欲しいって言ってるの!」
ソルト達はカウンターの前でレイの言い分を聞いているが、レイの話す内容が今一つ分からない。

「え~と、ソルトさん。どうします?」
「あ、気にしないでいいです。進めて下さい。レイもこれ以上、我儘を言うのなら、パーティからぬけることも考えるんだな。じゃ、今日はこれで解散だな。エリス、ちょっといいか」
「いいわよ。どこに行く?」
「あ、ソルト……」
「レイ、さっきの言い分はワガママと言われてもしょうがないぞ。買取金額に不満があるなら、今日言われたことをよく考えるんだな」
「説教なんていらないわよ!」
「そうか、なら勝手にすればいいさ。俺も昼にするかな」

レイがその場にしゃがみ込み落ち込む。
「あ~もう、あんなこと言うつもりはなかったんだけどな~」

「あの~」
「なに?」
受付のお姉さんがカウンターから乗り出して、しゃがみこんでいるレイにそこにいられると邪魔なのでと声を掛ける。
「あ、ごめんなさい」

レイは立ち上がると、そのまま食堂へと向かう。
食堂でソルトの姿を探すが、見つけられず代わりにゴルドを見つけたので、テーブルに近付くと空いている椅子に座る。
「ソルト達は?」
「知らん。俺が来た時にはいなかったぞ」
「そう。ねえ、私はどうすればいいの?」
「なにをだ? お前は自分の好きにすればいいだろ」
いつもと違うレイの様子にゴルドは少しだけ、身を引き締める。

「そうね。でも、それじゃダメなんでしょ」
「ああ、そうだな。このままじゃお前一人になっちまうな」
「やっぱり、そうだよね」
「なんだ、一応は気にしているのか?」
「そりゃあね。ソルト達にはついつい言い過ぎる面があるのは事実だしね。ねえ、どうすればいいの?」
「簡単なことじゃないか。ソルトの言う通りにすればいいだけだろ」
「それって、討伐の仕方を変えろってこと?」

「ああ、少なくとも剣術スキルはあるんだから、それをちゃんと使えば、あそこまではひどくならないはずなんだが、お前がなにも考えずに適当に振り回すから、あの有様だ」
「ぐっ……でも、討伐部位とか弱点とか知らないし」
「それはお前が学ばないからだろ? ソルトは資料室によく篭って色々調べているぞ」
「え? あいつ、そんなこと一言も言わなかったけど?」
「ふぅ、あのな、なんでお前に一々報告しなきゃいけないんだ? あいつとお前は別に親子でも兄弟でもないだろ? ソルトはお前の保護者じゃないって、いつになったら学ぶんだ?」
確かにことあるごとにソルトに頼りきりだったことをレイは思い出す。今までは同じ日本から来たんだからと甘えてはいたが、少し前にアイツらの救出には関係ないとまで言われたことを思い出す。
ソルトには甘えやすいから、いつも軽い調子で頼んだり、逃げていたけど、このままじゃいつまでもソルトの元から離れられないし、アイツらのところにも行けないと思うレイだが、またどうすればいいのかと振り出しに戻る。

「あ~もう、グジグジしてないで、ソルトのところに行ってちゃんと教えてもらえ! ほら!」
「分かった。ありがとうね、ゴルド」
「おう、またなんかあったら言えよ!」
「うん、ゴルドってお父さんみたいだね」

レイは昼も取らずにソルト達がいるかもしれない資料室へと向かう。
「お父さんか。まだ二十代なんだけどな」

レイが資料室のドアを開け、ソルトを探すが見当たらない。
「あれ? ゴルドの話だと、ここにいるはずなんだけど……どこにいるんだろう? まあ、しょうがないか。私も少しは勉強してみるかな」
レイが本棚の方へ歩くと目的の本を探す。
「え~と『やさしい討伐の仕方』『初心者でも簡単に出来る10の方法』『討伐に役立つ100のアイデア』か。少し胡散臭いけどないよりはマシか」
テーブルに座ると持ってきた本を読み出すレイだが、どうしても眠くなる。まだ一頁もまともに読んでいないのに瞼がすごく重く感じる。
「ダメ! このままじゃ、寝落ちしてしまう。そうだ、立ったまま読めばいいじゃん! 私ってば、天才じゃん」
だが世の中には立ったまま、寝られるという器用な人が存在する。レイもその内の一人だったようで、また一頁も進まない内に『バターン』と大きな音を立てて横に倒れる。
「痛いな~もう、なんでこんなことしなきゃいけないのよ!」
まだ十分も経っていないのに決意がぐらぐらなレイだった。それでもなんとか一頁は読んでやるんだと違うスイッチが入ってしまい経ったままの状態で、フラフラしながら睡魔と格闘するレイだった。

その頃、ソルトとエリスは商業ギルドを目指して歩いていた。
マイホーム資金を最低二千万セルとギルマスに言われていたが、討伐の割には貯蓄額が増えないため、先に現状を取材しようとエリスと一緒に歩いていたのだ。
それにエリスが二人で住むなら、少しは出そうかと提案されたのもあり、こうして二人で商業ギルドを目指して歩いている。
そこにレイがなぜ含まれないのかと言えば、レイはソルトに差出すどころか借金をまだ一度も返していないため、はなから相手にしていないだけだった。
「ねえ、もうすぐ着くけどさ、その前にお昼にしない?」
「そうか。そういや、食べてなかったな。どっか、知っているところがあるなら、そこにしようか」
「そうね。じゃあ、あそこにしましょう」
エリスに言われ連れて行かれたのは、オープンテラスのカフェだった。
「どう、ここ。なかなかいいでしょ? 私のお気に入りなの」
「ごめん。こういうおしゃれな感じのところはどうも落ち着かない」
「そう? そのうち慣れるわよ。ほら、なんにする?」
エリスがテーブルに置かれたメニューを広げてソルトに見せてくる。

「サンドウィッチにこれは……ガレットか。ん? ガレットがあるなら、蕎麦粉がどこかにあるってことだよね」
「どうしたの?」
「いや、このガレットにする。飲み物はなにがある?」
「そうね、飲み物なら、無難にアイスティとかでいいんじゃないかな」
「分かった。じゃ、それでお願い」
「ふふふ、そんなに急いで決めなくてもいいのに。すみませ~ん」
エリスがウェイトレスを呼び、注文しようとするとウェイトレスがエリスだと分かると途端にフレンドリーになる。
「あら、エリスじゃない。お久しぶりね。で、こちらの方は……彼氏さん? そうか、やっとエリスにもお相手が出来たのね。いつも、その席で黄昏てナンパされるのを待つこと数十年。思えば私と初めて会ったのも私が三歳の頃だから、あれから数えて……」
「スト~ップ! はい、降参。降参するから、その話はおしまいにして」
「あら、これからがいいところなのに。まあ、いいわ。今度ゆっくり聞かせてあげるわね。で、ご注文は?」
「はぁ……もう、注文するだけなのに、疲れちゃったじゃない。いい? 彼にはガレットとアイスティで、私には……」
「はい、ご注文承りました。少々お待ちくださいね。うふふ」

ウェイトレスが去るのを待って、ソルトが口を開く。
「随分、賑やかな人ですね。エリスがなにも言えなくなるのを初めて見たかもしれない」
「そうね、私もあの子には敵わなくてね。いつもおもちゃにされている感じよ」
「へ~そうなんだ」

エリスはソルトが話し終わるのを待って、さっきのレイのことについて質問する。
「ソルトはレイがパーティから脱けるのを許すの?」
「どうしようかなとは思うよ。このまま変わらないとか変えるつもりもないのなら、見放す。もし、少しでも変えようと思う気持ちがあるなら、少しは手助けするかな」
「そっか、まあそんなところが妥当だよね。私もそんなもんだし。やっぱり、この世界だと、あのままじゃどこかで知らない内になにかに巻き込まれて死んでもおかしくないからね」
「やっぱり?」
「うん、こればっかりはしょうがないよ」
「はい、お待たせ。なになに、そんなに難しい顔して。彼氏彼女の仲ならもっとキャッキャウフフな会話をしなさいよ。ほら、周りを見て見なさい。彼氏彼女で来ている席はなんとなくピンク色のモヤが掛かっているように見えるでしょ。エリス達もああなる様に頑張らないとね。じゃまたね」
ウェイトレスが頼んだ品を持ってきたと思ったら、好きなだけ喋って去って行ったのをソルトとレイは呆然として見送っていたが、自然とどちらからともなく笑い出す。

「なに、笑ってるのよ」
「エリスこそ」
「うふふ、そうね。私達には真剣に考えることは似合わないなと思ったらね、なんだか急に笑っちゃった」
「俺もそう。やっぱり出たとこ勝負が俺達なんだろうなって。でも、レイの雑さは変えたいから、変わるまではこのままだけどね」
「ま、それはそうよね。さ、食べましょ」
「うん、いただきます!」

ソルト達は食事を終え、会計の時にウェイトレスに少しだけ多めにチップを渡すと、また来ますと挨拶をして商業ギルドへ向かう。

商業ギルドに入り、ソルト達が受付はどこだろうと探していると、なにかお探しですかと痩身でソルトと同じか少し低いくらいの身長の真ん中分けでピッチリとオールバックに撫でつけた髪型のちょび髭のオジサンが話掛けてくる。
ソルトが見た瞬間に胡散臭いと感じ思わず鑑定すると、そのステータスの中に『詐欺スキル』の文字を見つけてしまう。

「(エリス、ダメだ。この人『詐欺スキル』持ちだ)」
「(えっそうなの? じゃあ、マズイわね)」
「(うん、相当にマズイ)」
「あの、どうされました?」
「ここはいいから、他のお客様のところに行きなさい」
「でも……」
「いいからって言ってるでしょ!」
「はい、分かりました」
別のギルド職員がソルト達に声を掛けてきたが、ちょび髭が追い返そうとしたのをソルトが声を掛けて呼び止める。
「すみません。こっちのお姉さんに担当してもらいます」
「ちっ……そうですか。残念ですが、またの機会にお願いしますね。ほら、あとは頼むぞ」
ちょび髭去っていくの確認すると、どちらともなく。
「舌打ちしたね」
「思いっきりね」

「あの、今日は商業ギルドへは、どの様なご用件で?」
「あ、え~と家を探してまして。それほど広くなくてもいいんですけど、出来れば二部屋以上あれば十分なんですけどね」
「その前に商業ギルドのご利用は初めてでしょうか?」
「ええ、今日が初めてです」
「そうなんですね。申し遅れました。私『アリサ』と申します。今後ともよろしくお願いします」
「あ、こちらこそ」
「よろしくね」
「はい。では、ご要望をお聞きする前にこちらへどうぞ」
アリサが商談用のパースで区切られたテーブルへと二人を案内し、座るように勧める。
「では、改めまして、お探しの物件のご希望をお伺いしてもいいですか?」
「えっと、じゃあ寝室を二部屋、居間に食堂に台所、トイレは出来れば二つで、お風呂付きか、お風呂を追加出来る家。この条件でお願い」
「はい、じゃあ少し調べてきますね。あと本日はお時間の方は大丈夫ですか?」
「エリスはなにか予定ある?」
「私は特にないわよ。だから、気にしないで大丈夫よ」
「分かりました。新婚さんなんですね。任せてください。満足出来る物件を探してきますから!」

アリサがテーブルから離れるとエリスの顔が次第に赤くなるのを見て、ソルトが不思議がる。
「エリス、どうしたの?」
「新婚だって! どうする? このまま勘違いされちゃう?」
「なにを喜んでいるのか知らないけど、少し落ち着いたら?」
「もう、照れなくてもいいのよ。旦那様!」
「別にいいけど、どうしたの?」
「……」
「エリス?」
「……」

そこへアリサが物件ファイルを抱えて戻ってくる。
「あの、奥様はどうされたのですか?」
「奥様?」
「あの、こちらの方ですけど、違うんですか?」
「ああ、単なる同僚ね。で、物件はあった?」
「は、はい。こちらです」
「へ~結構、あるんだね。ほら、エリスも見なよ。いつまで拗ねているのさ。もう俺一人で決めちゃうよ?」
「……」
「あのう、別日にしても構いませんが……」
「そうしたいけどね、とりあえず今の値段とか知りたいから、説明してもらってもいいかな?」
「はい、そういうことでしたら、ご説明差し上げます。例えば、この物件でしたら、賃貸ですが……」

ソルトがアリサから一通りの説明を受けると、アリサが選んだ物件の中から候補として三つほど情報を控えさせてもらい、商業ギルドを後にする。

「エリス、まだ怒ってるの?」
「……」
「ま、いいけどね。じゃ、俺は自分の用事を済ませるから、ここで別れるから、じゃあね」
「……」

ソルトはなんでエリスが怒っているのかを察することなく分からないものはしょうがないと、自分のどこが悪いかを反省することなく次の用事を済ませるべく家具屋へと足を運ぶ。

「本当に行っちゃった。もう少し女性の気持ちに気遣うってことを学びなさいよね」
そんな風にプリプリしながら、宿へとまっすぐ帰るエリスだった。

ソルトは目的の家具屋に入ると、店主に商品を揃えて欲しいと注文する。
「はい、いいですよ。ご希望の品を伺いましょう」
「まずベッドが四台、二人掛けのソファを二つ、それに合わせたテーブルを一つ、後は食事用のテーブルと椅子を四脚。以上です」
「ふむふむ、そうですね。ベッドが注文になるので少しお時間を頂きますがいいですか?」
「構いません」
「では、お届け先はどちらでしょう?」
「宿に泊まっているんで、そこへいいですか?」
「ええ、いいですよ。ではお名前を頂戴いたします」
「ソルトです」
「ソルト様ですね。では、商品はベッドと一緒にお運びしますか? それとも個々に?」
「一度でお願いします」
「分かりました。では料金の方ですが、そうですね細い分はサービスさせて頂くとして四十万セルでどうでしょう」
「いいですよ、はい」
ソルトがバッグの中から金貨を四枚取り出すと店主に渡す。
「はい、確かに」
「じゃ、頼みますね」

家具店を出ようとしたところで、店主に聞いてみる。
「すみません。ちょっとお聞きしたいんですけど、いいですか?」
「はい、なんでしょう」
「家具じゃなくてですね、なんて言えばいいのかな、木を使った道具とか、どこで作られているか分かりますか?」
「ああ、木工品でしたら、この通り沿いに進んでもらうと左側の方にありますよ」
「分かりました。ありがとうございます」

家具屋の店主のいう様に家具屋から歩いてすぐの場所に木工品を扱うお店があった。
「すみません」
「はいよ、いらっしゃい。なにをお探しで?」
「大きめの洗い桶と手桶があれば欲しいんですけど」
「あるよ」
「ありますか?」
「ああ、これだろ」
そう言って店主が差し出したのはソルトが軽く手を広げたくらいの大きさの洗い桶に片手で水を掬える手桶だった。
「これです。これが欲しかったんです」
「なら、二つで銀貨三枚でいいかい?」
「いいですよ、はい。後、作って欲しいものがあるんですけど、そういう注文って受け付けてますか?」
「注文か、いいぞ。どんなもんでも作ってやろう」
「そうしたらですね。こんなのが欲しいんです」
ソルトがメモ紙に書いて説明したのは、幅二十センチメールに長さが八十センチメール、暑さが三センチメールの板で角を丸く加工し、板の前の部分にはT字型のハンドルを取り付けた物だった。
「それで、このハンドルの下の部分にこのくらいの魔石を嵌め込む穴が欲しいんです」
ソルトは店主にバッグから出した魔石を取り出して見せる。

「難しくはないな。いいぞ、作ろうじゃないか」
「作ってくれるんですね、ありがとうございます。後、出来れば色も塗って欲しいんですけど、いいですか?」
「ああ、いいぞ。どんな色だ」
「では、赤、青、黄色、緑でお願いします。代金は?」
「そうだな、一つを銀貨五枚でいいかな」
「じゃ、これで」
ソルトがバッグから銀貨二十枚を取り出すと、店主に皮袋に入れて渡す。
「おう、確かに。じゃ、三日後に取りにきてくれ」
「分かりました」
用事を済ませたソルトが嬉しそうに宿へと帰る。
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