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第四章 見えない敵意

第2話 話は聞かせてもらいました

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ノアの冒険者登録を済ませた後にリリスに金貨を入れた革袋を渡してノアの服や下着などの日用品からベッドに装備品などの一通り買い揃えるように頼む。
サクラ、カスミは用心棒として、ショコラとコスモにはそれと荷物持ちを頼む。
「あ、木工屋でボードの注文も忘れずにね」
「はい! お任せ下さい。では、行きますよ!」

リリスに引っ張られ、お買い物へと出掛けるリリス達を見送りソルト達が屋敷に戻った時、ソルトが何気なく庭で遊ぶ子供達を見る。
「なあ、なんとなくだけど子供達の数ってさあ、こんなに多かったかな? 見た感じだけでも三十人はいるよね?」
「え? エリス、言ってないの?」
「え? 私はレイが言っているものとばかり思っていたけど?」
「え? 二人とも知っていたの?」
「うん」
「ええ」
「え~どういうことなの」
「まあ、詳しい話は中に入ってからにしない?」
「そうね。ソルト、ほら」
子供達が増えた原因を話すからとレイ達に言われるままにソルトが屋敷に入ると、獣人の数も増えていることにも気付く。
「えっと、どゆことかな?」
「何、レイ達はソルト君に話してなかったの?」
「ティア! 君は何か知っているのか?」
「知っているも何も私が呼んだから」
「え?」
ティアの言うことが理解出来ずに固まるソルトにレイが補足する。
「ほら、ティア達も難民だったでしょ。で、同じ様に難民になった獣人達がティア達を頼って来た訳よ」
「なら、俺に一言言ってくれても……」
「言おうと思ってもソルト君て、いつもいないじゃない。だから、レイ達に相談して許可をもらったのよ。ダメだった?」
「いや、それはいい。困ってるのを放り出すのは無理だし」
「ほらね、ソルトならこう言うと思ったのよ。ね、私の言ったとおりでしょ!」
得意げに話すレイを呼んだソルトは自分の横に座らせると頭を撫でる。
「えへへ……い、痛いよ? ソルト?」
ソルトはレイのこめかみを両手でグリグリと挟み込む。
「屋敷を不在しがちな俺も悪いと思うが、何も報告しないお前も悪いよな!」
「だ、だから言ったじゃない!」
「今な! 『ホウ・レン・ソウ』は大事だと習わなかったか?」
「そ、そんなこと言われても……うう、ごめんなさい」
レイが謝って、ソルトのグリグリから解放される。
「獣人の難民については分かった。じゃあ、子供達が増えたのも同じなのか?」
「子供達は違うわよ」
ソルトの問いにエリスが答える。
「違うって、どういうこと?」
「そうね、これはソルトの責任とも言えるわね」
「え?」
エリスの言葉にソルトがドキッとする。
「俺の責任?」
「ええ、そうよ。ほら、『聖魔法』を使える人を増やすって計画があったでしょ?」
「ん? ああ、そう言えばそんなことをギルマス達と計画したね……って。もしかして?」
「そうよ、あの子達は教会の孤児院から逃げたり、放り出された子供達を守備隊の人が保護したらしいのよ。それでギルマスに相談したら、ここに保護した子供達がいるから、ソルトに任せろって、ギルマスが言ったらしいのよ」
「ギルマス……」
ソルトの怒りの方向がギルマスに向かうが、結果的には屋敷に連れて来てくれたのでヨシとする。
「ダメなの?」
「いや、ダメじゃないよ。保護して正解だよ。俺からも礼を言うよ。ありがとう」
「そんな、礼だなんて……」
「ちょっと、おかしいじゃない! 私にはあんなことして……エリスには何もお咎め無しなの!」
ソルトから罰を受けないエリスに対し、レイが憤慨する。
「ああ、もう怒る気がないからね。それで、部屋は足りているの?」
「そこはギリギリね」
ティアが言うには、小さい子供達はいくつかの部屋を複数人で使っているが、大人組は同姓同士で詰め込む形になっていると説明を受ける。
「じゃあ、家が必要だな。回りの土地が空いてれば一番いいけどね」
「あら? それも聞いてないの?」
ソルトがそんなことを呟くと、エリスがまた不穏な言葉を口にする。
「エリス、『聞いてない』って何?」
「ほら、商業ギルドの詐欺があったでしょ」
「ああ、あったね」
「あの後にね、正式な賠償として、この屋敷の周りを気持ちよく提供してくれたのよ」
「回りの土地?」
「そうよ、だから家なら何軒でも建てられるわよ」
「ちょっと待って! それって何時の話?」
「あの騒動の後は確かだけど、何時だったかな」
ソルトはハァとため息を吐く。
「エリス、商業ギルドでどうなっているか確認してきてもらえるかな」
「いいわよ。じゃ、レイ行くわよ」
「え? なんで私まで……」
「いいから、行くの!」
「は~い」

新顔の獣人達がソルトの方を見ながら、どこかオロオロしているのを見てソルトが「安心して下さい」とだけ伝えて、ティアにも何か不満があったら聞いといてとお願いする。
「なんか知らないところで話が進んでいるな~」
「でも、大きな問題にはなってないんでしょ」
「ティア。そう言うけど、住む部屋がないのは問題でしょ。だから、ティアは子供達の人数とか、獣人達の家族構成とか纏めといてね」
「え~私が?」
「ティアモ同罪みたいなもんでしょ。じゃ、よろしくね」
そう言い残すと、ソルトは自室へと入る。

「ふぅ~大変なことになったな~」
『そうでもなそうでしたけど?』
「そうかな?」
『そうですよ。それで、ソルトさん。変わったことはありませんか? あれから、体の不調とかありませんか?』
「ん~特には何も感じないけど……まだ、話してはくれないの?」
『何をですか?』
「ほら、前に時機が来たら話すって言ってたじゃない。まだ、その時機じゃないのかな? 俺的には大分、変わったと思うんだけど……」
『……』
こんな体になった原因とか知っているのかもとルーに聞いてみるが反応が薄い。
「やっぱり、話せない?」
『すみません。私も出来るのであれば全てをお話したいと思っているのですが……その、禁じられている項目に触れた場合に抑制が掛かるようで話せなくなります』
「そうなんだ。じゃあさ、俺の体が変わった時に聞こえた声なんだけど、アレはルーなの?」
『アレは私じゃありません。でも、誰かも分かりません』
「ふ~ん、じゃあ俺の体が変わった理由というか、原因は?」
『それは『龍の血』による影響です』
「違うよね」
『……』
「エリスの話じゃそんなことはないみたいだけど?」
『分かりました。お話します。実は……』

ルーからの説明を聞いたソルトがソファに座ったまま放心する。
「……どういうことなんだ? そんなことがあり得るのか? でも、もう片足は膝上まで突っ込んでいる状態だもんな~でも、なんで俺なんだろう」
「お話は終わりました?」
「え?」
ソルトが声がした方を見るとシーナが横に座っていた。
「えっと、いつからここに?」
「そうですね……『大変なことになったな』からでしょうか」
「最初っから……いたんだね。気付かなかった」
「まあ、この身長差ですから。私、無視されたと思って哀しくなりました」
「あ、ごめん」
「別にいいです。元々、忘れられるくらいに存在感が薄いのも分かっています」
「いや、だからアレは忘れた訳じゃなくて、倒れていたって説明はしたよね?」
「でも、私は何度も念話で呼び続けましたよ。それなのにソルトさんは……」
シーナがソルトに愚痴りながら感極まって来たようで、次第に鼻声になり、目尻に水滴が溜まっていく様子が分かる。
「え~ちょっと、待ってよ。どういうこと?」
シーナの突然の涙にオロオロするばかりのソルトがどうにかしようと立ち上がった瞬間に部屋の扉が『バン』と開かれる。
「ソルト、いる~? って、アンタ、シーナに何しているの!」
「え?」
突然入って来たレイに言われ、少し冷静になったソルトが自分とシーナの立ち位置を見て「あ!」と一瞬で理解する。どう見てもソファに座っているシーナをソルトが襲っている図式だなと。
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