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第五章 変わりゆく世界、変わらない世界

第4話 邪神が出てくるってよ

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「ソルト君、ワーグはさっきから何をしているんだい?」
「そうだよ。アレを見た子供が怖がっているから、出来れば止めて欲しいんだけどね」
「ごめん。今だけだから許してやって。ね、お願い!」
嬉しさの余りに踊り狂っているワーグを生温かく見守っていたソルトに対し、シェルとジリルが話しかけてくるが、ソルトは二人に対し大目に見てくれと頼む。
「いや、子供が生まれて嬉しいのは分かるが、子供が怖がるほどの踊りはどうかと思うが」
「許してやってよ。なんせ二倍の喜びなんだし」
「「二倍?」」
「そう、二倍! だって、双子だし」
「双子か~」
「それなら、しょうがないか」
既に父親であるシェルとジリルもそれなら納得だと言わんばかりに頷いてみせる。
「子供達には、あれを見ないように外に連れ出して遊ばせるわ」
「そうだな。ワーグの気が済むまでやらせてやってくれ」
シェルとジリルはソルトにそれだけを言うと、怖がる子供達を家の外に連れ出してくれた。
「やっぱり、お父さん同士分かることもあるんだな」
「何、黄昏れてんの」
「エリス、もうティアは大丈夫なの?」
「うん、母子共に健康よ。ソルトのお陰ね。レイの治療も助かったわ」
「そっか。じゃあ、女将さんを送ってこようかな」
「あ! 女将さんは一晩、様子見でここに泊まるって言ってたけど」
「そうなんだ。じゃあ、もう俺もやることはないかな」
「う~ん、そうだね。今はサリュ達も手伝ってくれてるからね」
ソルトはまだ踊っているワーグのことを気に掛けて欲しいとエリスにお願いするとソルトはソファに座っていたガネーシャに声を掛ける。
「ガネーシャ、一緒にギルドに行こうか」
「ソルト、俺と出掛けるのか?」
「そうだよ。後、ノアの一家も一緒だけどね」
「呼んだ?」
ソルトがガネーシャにノア達と一緒にギルドに行こうと声を掛けていると、側にいたノアもシルヴァ達と一緒にソルトの前に並ぶ。
「そう。シルヴァ達もギルドで登録しといた方がいいでしょ。だから、ギルドに一緒に行こう」
「うん、分かった。行こう!」
「俺達も行かないとダメか?」
「色々と説明しないといけないからさ。面倒だけど一緒に行こうよ」
「ほら、あなた。そんなにグズらないで。久しぶりの親子でのお出掛けじゃない」
「別にグズっている訳じゃないんだが。ハァ~分かったよ」
「じゃ、行ってくるね」
ソルトはいつの間に隣にいたシーナに伝言を頼むとノア達と屋敷から出る。
「ねえ、ソルト。手を繋いでもいいかな?」
「いいよ。はい」
ソルトがノアに右手を差し出すと、ノアは自分で言い出しておきながら、差し出された手を前にして躊躇してしまう。
「ノア、どうした? 握らないのなら俺が」
「あ!」
躊躇していたノアの代わりにソルトの右手をガネーシャが握る。
「ふ~ん、初めて手を繋ぐが、なかなかいいもんだな。なあソルト」
「そうか……って、なんでガネーシャが握っているんだ? ノアは?」
そう言って、ソルトがノアを見ると少し泣きそうな顔になっていて、その後ろではブランカが『ファイト!』と口パクでノアを応援しているのが見える。
「ほら、ノア。おいで」
ソルトはノアに対し、空いている左手を差し出すとノアはその左手を見てから、ソルトの顔を見る。
「いいの?」
「『いいの?』って、ノアが繋ぎたいって言ったんだろ? ほら」
「うん!」
ノアが嬉しそうにソルトが差し出した左手を両手で思いっ切り握りしめる。
「そんなに強く握らなくても逃げないから」
「えへへ。いいの!」
ソルトはノアがいいのならいいかと別に気にすることもなくギルドへと向かう。

ギルドに入り、ギルマスへの取次を頼むと受付のお姉さんに「また増えたのね」と軽口を叩かれるが、ソルトはもう否定するのも面倒なので、そのままガネーシャとシルヴァ達の登録をお願いする。
「やっと来たか。奧に来い。ゴルドもいるからちょうどいい」
「ちょっと待ってて。シルヴァ達の登録が終わったら行くから」
「ああ、そうか。なら、登録の手続きが残っているのなら奧でも出来る。いいから、来い!」
「もう、相変わらずだね。じゃあ、お姉さん。もし不備があったら奧の部屋までお願いね。じゃ、行こうか」
「色々とヒトの世界は面倒だな」
「まあ、そうだけどね。ここで生活するための必要な手続きだし我慢してよ」
ギルマスの部屋にシルヴァ達と一緒に入ると既にソファにはゴルドが座っていた。
「一応、ゴルドからおおよそのことは聞いている。そして、その三人が新入りって訳だ」
「まあね。そっちの銀髪の男がシルヴァ、白髪の女性がブランカで二人はノアの両親で、こっちの女性がガネーシャで魔族ね」
「……そうか、龍族に魔族か。ハァ~」
ソルトからの説明を聞いたギルマスが思わず嘆息するとソルトから大丈夫ですかと声を掛けられる。
「お前、なんで面倒な話ばかり持って来るんだよ」
「ギルマス、まだ話しの途中だぞ。今までのはホンの障りだ」
「勘弁してくれよ~」
「じゃあ、話すね」
「なるべく分かり易く簡潔に頼みたいが……無理そうか?」
「ん~どれだけ簡単に話しても結果は変わらないよ」
「ダメか。分かったよ、話してくれ」
ギルマスが何かを諦めたような表情でソルトに続きを促す。

「まず、最初の魔の森の異常があったでしょ。あれは遺跡の暴走が原因でした」
「そういう話だったな」
「それで、その遺跡の暴走は地脈に対し大量の魔力が流入されたことが原因でした」
「そうだったな」
「その原因となった地脈の暴走は、そこのノアが地脈に魔力を流し込んでいたことが原因です」
「そうか。まあ、黒龍の力があれば、そういうことも可能か」
「それで、その黒龍だったノアを唆して、地脈に魔力を流し込ませたのが、そこにいる魔族のガネーシャね」
「そうか。君がノアを唆したのか。また、なんでそんなことを……」
「それで、そのガネーシャに頼んだのが、教会の司祭様ってところまでは分かったんだ」
「ほう、そうかそうか。そのガネーシャの背後の黒幕が教会と……って教会かよ!」
「それで、その教会が奉っている神様は存在しないんだけど、その信者達の強烈な思い込みで邪神として、いつ誕生してもおかしくないんだって」
「あ~もういい、もう何が出て来ても驚かない。って言うか、これ以上は聞きたくもない。なんだよ邪神って」
「じゃあ、そういうことで」
全ての説明が終わったとソルトがソファから立とうとしたところでギルマスから待ったが掛かる。
「待て! ソルト」
「何? もう話していないことはないよ」
「違う! そうじゃない。もう俺の所で止めておける規模の話じゃない。まずは領主に報告するぞ。いいよな?」
「いいよ」
「話の流れでは当然、お前達のことも話さないで済ませることは出来ない。それはいいか?」
「まあ、しょうがないよね」
「それで、その邪神ってのはどうなんだ?」
「どうって?」
「いつ出てくるんだ?」
「それは分からない」
「分からないじゃ困るんだよ。なんらかの対応策が必要になるだろうが!」
「例えば?」
「へ?」
「だから、対応策っていうのはどういうことをするの?」
「それは……そうだ! 邪神っていうぐらいだから十字架とか弱いんじゃないのか?」
「十字架って。教会から産み出されるのに?」
「それもそうか。じゃあ、何が出来るんだよ」
「俺に聞かれても困るんだけど。まあ、何か分かったら報告するからさ」
「そうか。それで頼む。俺の方でも調べてみるよ」
「じゃあ、そういうことで」
ソルトはそう言い残しノア達を連れてギルマスの部屋から出て行く。
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