クズとセフレ

にじいろ♪

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クッキー


タケルのお母さんが、満身創痍の巨人2人を使って居間を片付けさせている。
テキパキと指示を出している姿はもはや猛獣使い。

「さーて、これで片付いたわね。全く、いつまでも子供なんだから、あんたたちは」

そう言うお母さんの目は優しい。
子供の頃から、こうやってケンカしては仲直りしてきたんだろうな。
なんだか羨ましい。
絶対入りたくは無いけど。

「ヒロキくん、だっけ?大丈夫?意地悪されてない?コイツ、頭湧いてるから気を付けてね」

ええ、存分にされましたとも。
その前は、もっといろいろされてました。
とは言えない。

「いえ、いつも仲良くさせて頂いてます。2人とも親切にしてくれています」

汚れた靴下を脱いで裸足になった僕を心配そうに見てくるお母さん。
うん、察して?
そして、僕をここから逃がして?

「そう?もう、タケルもナオトもダメよ?こんなかわいい子いじめちゃ。ほら、三人で部屋に行って遊びなさい。後でジュース持って行くから」

うん、親にとっては、いつまでもかわいい子供だよね。
分かるよ。
でも、でも

「いえ、僕は用事があるので」

帰ろうとする僕の肩を2人の巨人が左右から、がっしり掴んで離さない。

「ヒロキ、母さんの作るクッキー美味いんだぜ?食ってけよ。なあ、母さん作ってやってよ」

「あー、俺も食いたいなぁ」

「てめーは帰れ」

「ああん?なんだコラ、やんのか」

はい、地獄絵図ー。
2人で美術館の額縁にでも収まってて下さいー。

「ほらほらケンカしないの。クッキー作ってあげるから。あ、ヒロキくんの分もね?」

ニッコリ笑うお母さんはタケルに少し似てる。
ものすごく美人なお母さんだ。
きれいな笑顔に思わず見とれる。
僕、こっちと先に出会ってたら、もっと違う青春を…

ガシッと頭を掴まれて、2階のタケルの部屋にドナドナされた。
僕、こんなんばっかり。

「さて、どう落とし前つけるつもりだ?」

ナオト選手、口火を切りました。
ゴングって、鳴らさなくても始まるものなのね。

「落とし前?何の話?意味わかんねぇんだけど」

はい、タケル選手、全面戦争をけしかけます。
猛獣の頂上決戦です。
ファイッ!!

「なんでヒロキに手ぇ出してんだって聞いてんだろ、このクソ野郎が」

ナオト選手、優しいイケメン顔が百鬼夜行になりました。
百年の恋も冷めちゃうから、マジで止めた方がいいよ、それ。

「別にお前のもんでもねぇだろ。ヒロキの身体はヒロキのもんだ」

おおっと、タケル選手、急に正論です。
キリッと見つめ返してます。
ちょっとかっこいいけど、お前が言うなと世間の声が聞こえます。

「付き合うって言っただろ、俺ら。ヒロキは俺のもんになったんだよ。なぁ、ヒロキ?」

百鬼夜行にギラりと睨まれて、僕はシャキーンと背筋を伸ばす。

「ハイ、ソウデス」

タラタラと汗を流して答える。もう誰の目も見れない。

「よく言えんな、そんなこと。もうヒロキ怯えてんぞ?お前に」

やめてー、余計なこと言わないでー。

「ああ?んなわけねーだろ。俺たちはお前と違って、心で繋がってんだよ。俺とヒロキは運命の相手なんだから」

運命?ナニソレオイシイノ?なんて言えない。
な?と僕の方を睨みつけるナオトの視線に、僕は首振り人形並に頷く。
そうしないと殺される。
誰か助けてー

コンコン

「クッキー焼けたわよー?」

神だ。ここに神がいた。

「お母さん!僕、どうしても今すぐ!帰らないといけないんです!!」

僕は必死にお母さんにすがりついた。
お母さんは、キョトンとしながらも

「あら、じゃあクッキー包んであげるから、こっちに来て」

僕は地獄からの生還を果たした。
背中には突き刺さるような視線が2つ。
でも僕は振り返らない。
振り返ったら即死という橋の上を歩いているのだから。

「あっ、ありがとうございました」

お母さんにお礼を言って玄関から出る。

「送ってくる」

すかさずタケル大魔王登場。
追いかけて来ないでよ~っ!

「俺も帰るわ。おばさん、ご馳走様でした」

ナオト界王神登場。

「あら、ヒロキ君は人気者ねー」

呑気なお母さんに僕は必死に窮状を伝えようとするが、再び肩を掴まれる。
痛い。地味に痛い。
というか無理。

「ほら、早く帰らないと親が心配するだろ」

え?タケル、そんな言葉知ってたの?
あんたも人の子だったのねー。


黙って俯いて歩く僕は、両脇を巨人に挟まれた捕獲された宇宙人のようだった。
もしくは連行だね、これ。
でも、それからは二人共、何も話さず僕の家まで本当に送ってくれた。
全く話さないから超絶気まずかったけど。

「じゃあ、また」

そう言って僕が家に入るのを、2人とも黙って見ている。
ナオトが手を振るから、僕も振り返した。
少しだけ表情が柔らかくなったような気がしたけど、またすぐタケルと無言の睨み合いが始まって僕は逃げるように家に入った。
玄関で、遂に座り込んでしまった。
疲れた。ものすごく。
もう、こんな思いするくらいなら、二人共、どうでもいい。
僕は新しい出会いをして、本当の運命の人を見つけるんだ。

夕食を食べて、お風呂に入って。
僕はナオトと別れようと心に決めた。
タケルとも二度と学校以外では会わない。
その学校も、あと2日で終わる。
これでもう全て終わるんだ。


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明日は、とうとう卒業式。
これが終われば俺は県外の大学に行くから、ヒロキと会うのも難しくなる。
ナオトとは、あれきり口をきいてない。

別に、ヒロキなんてもうどうでもよかったはずなのに。
ナオトと付き合うって聞いたら耐えられなくなった。
こんなに俺が執着する物なんて滅多に無いから、ナオトもドン引きしてんだろ。
ああ、小学生の頃に1個だけあったか。
あれでもナオトと取っ組み合いのケンカしたっけ。
俺もバカだったなー。

ヒロキの教室に入る。
俺はクラスも違うから、周りの視線が刺さる。
ヒソヒソと何か言われてる。
どうせ病気持ちとか言われてんだろ。
うっせー。
あんなに皆、俺に媚売って来た癖に。
周りを、ぜーんぶ無視してヒロキの席に行く。
ヒロキと話してた野郎を目で退かす。
お前、絶対ヒロキに気があんだろ。

「帰り、ここで待ってろ」

「無理、用事あるから」

ヒロキは俺の目も見ないで即答する。
笑いもしない。

「じゃあ、帰りに俺の教室来い」

「遠いからヤダ。今日は急いで帰らないといけないし」

イライラしてくる。
ナオトには笑いかけてたくせに。
いつも、コイツは俺にこんな態度だ。
ちくしょう!

「母さんが、お前に渡してくれってクッキー焼いたんだ」

俺の言葉に、ヒロキが俺を見る。
やっと目が合った。
嬉しくて思わずニヤけそうになるのを、眉間と口元に力を入れてぐっと我慢する。

「タケルのお母さんが?・・・じゃあ、帰りにタケルの教室に寄るよ」

俺より母さんがいいのかよ、と言いそうになって、なんとか思い留まる。
嫉妬深い女みたいで、そんなこと口が裂けても言えない。

「おう…待ってる」

俺は少し胸がくすぐったくて、母さんに心から感謝した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「え?クッキー?」

今朝、母さんに俺が頼んだんだ。

「今?忙しいんだけど!そういうのは昨日のうちに言ってよね?!」

ブツブツ文句を言いながらも、母さんはちゃんと焼いてくれた。
丁寧にラッピングまでしてくれて、リボンがブルーだった。
アイツに似合いそうだな、と口元が勝手に笑う。

「あんたにも、ようやくそういう子が出来たのね」

ニヤニヤして小突いて来るから、ぶっちゃけウザイけど。

「繊細そうな子だから怒鳴ったり怒ったりしちゃだめよ?優しくしないと逃げられるから、気を付けなさいね。上手くいったら、また連れて来なさい」

誰に渡すとも言ってないのに、なんだよ全く。
照れるじゃねぇか、このバカ親。

「アイツさ…ナオトと付き合ってるから。上手くはいかねぇよ、多分」

こんなこと言うつもり無かったのに。
つい弱気な言葉が口からこぼれた。
きっと、今の俺は情けない顔してる。

「そう。でも、これからのことなんて誰にも分かんないわよ。いいじゃない、奪っちゃったって。それも青春よ。どうせナオトとは仲直りするんだし。あんた、顔だけは良いんだから、頑張ればイけるかもよ?」

笑う母さんは、ほんと親バカだ。
なのに、こういう時だけは、その親バカがありがたい。

「まあ、やれるだけ、やってみる」

サンキュ、と母さんに礼を言って家を出た。
カバンの中には母さんの手作りクッキー。
正直、恥ずかしい。
小学生でも、今時こんなダサいことしないだろ。
でも、他に思い付かなかったんだ。
ヒロキが俺の話を聞いてくれるきっかけなんて。

俺を見てくれるきっかけなんて。
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