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第19話 オリバたちの余裕

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 一方その頃、オリバたちは宿に戻って食堂で酒盛りをしていた。

 オリバたちは重罪を犯して裁かれるというのに、本気で自分たちの罪が軽くなると勘違いしているらしく、気が緩んでいるようだった。

「危なかったなぁ! なんとか首の皮一枚繋がった感じだな!」

 オリバは酒を一気に煽って、すでに一仕事終えたような笑みを浮かべている。

「ああ。まさか、ソータよりも先にダンジョンを攻略するだけで刑が軽くなるとはな」

 ロードもすでにソータとの勝負の勝ちを確信しているらしく、安堵のため息を吐いていた。

「どうやっても、私たちの勝ちでしょ。そもそも、あいつがC級ダンジョンをクリアできるわけないし」

「同感ですね。今日は疲れましたし、明日の午後にでもゆっくり出発しましょう」

 リリスの言葉にナナが頷いて、口元を緩める。

 街に帰ってくるまでの数日間、魔物相手に苦戦をしたというのに、そのことについては誰も触れることがなかった。

 偶然不調が重なっただけ。

 各々が頭の中でそう考えており、本当の理由に気づく者はいなかった。

 自分たちは強いという慢心と傲りのせいで、今までソータに助けられていたことに気づけなかったのだ。

「そうだな。もっと後でもいいかもしれないけどな……あのガキがダンジョン内で死んで不戦勝ってオチも面白いけどな!」

 オリバはそう言うと、大きな笑い声を上げる。

 他の客から白い目で見られているというのに、それに気づかないほどオリバたちは周りが見えていなかった。

「もしかしたら、『やっぱり、なかったことにしてください!』って泣いて謝りに来るんじゃないの?」

 リリスがふざけるようにそう言うと、またオリバたちの席から迷惑なほど大きな笑い声が上がる。

「あっ、やっぱり、ここにいましたね」

 そんなタイミングでカランっと宿の食堂に顔を覗かせたのは、冒険者ギルド職員のエリだった。

そして、その隣にはソータとケル、サラを連れている。

「なんだ? 受付の女とソータじゃないか。ていうことは……」

 ロードはエリとソータを見ると、噴き出しそうになるように笑う。

 そして、ロードの反応に釣られるように他のパーティメンバーたちもクスクスッと笑い出した。

「おい、ソータ。C級ダンジョンに入るのが怖くて勝負をなしにしてくれって謝りに来たのか~?」

オリバは酒の入ったグラスを傾けてからそう言うと、馬鹿にするようにニヤニヤと笑う。

「違いますよ。今回の勝負でソータくんもパーティを組むことになったので、いちおうその報告に来ただけです」

 少しムッとしたようなエリの言葉を聞いて、リリスはソータの隣にいるサラに目を向ける。

「ん? あっ、その人『時代遅れの剣士』じゃないの?」

 リリスがサラを指さすと、笑いを堪えることができなくなったオリバが大きく噴き出した。

「『時代遅れの剣士』って、あの魔法が何も使えないっていう……ガハハハッ! これは傑作だ! 無能二人でパーティを組むって言うのかよ!」

 腹いてぇと言いながら笑うオリバを前に、ソータは一歩オリバに近づいて顔を上げる。

「無能なんかじゃありませんよ、少なくともサラさんは」

「あん? なんだその反抗的な目は」

 ソータが言い返してくるとは思わなかったのか、オリバはガタッと椅子から立ち上がる。

オリバがそのまま距離を詰めようとしたところで、エリがソータとオリバの間に入る。

「とにかく、今回はオリバさんたちに対して、ソータくんとサラさん、それと使い魔のケルさんで臨みますから。あとで文句を言われないように言いに来ただけです」

「文句? ハハハッ! 言うわけないだろうが! そんな無能何人いても変わんないからな!」

 一瞬ピリッとしたあと、すぐにオリバはまたツボに入ったように笑う。

 ソータが何か言い返そうとすると、それを見たサラがソータの腕を掴んで制した。

 ナナはつまらないものを見る目でサラを見てから、短く息を吐く。

「私たちは明日の午後にダンジョンに向かう予定です。あなたたちは先に行っていても構いませんよ」

「いや、俺たちも明日の午後に出るよ。あとで騒がれても面倒くさいしね」

 ソータにそう言われたナナは、ぴくんっと小さく肩を動かしてから、ソータをじっと見る。

 ソータが睨むようなナナの目に臆せずにいると、オリバが酒の入ったグラスをドンッと力強くテーブルに置いた。

「ソータ……おまえ誰に口利いてんのか分ってんのか?」

「オリバ、やめておけ。こいつらのことだ。ここで手を上げさせて、ダンジョンの勝負を有耶無耶にさせたいだけかもしれないだろ」

 ロードはソータたちを見下すようにしてそう言うと、ニヤニヤッと笑った。

 ロードの表情を見て、オリバはソータたちを馬鹿にするようにニヤッと笑う。

「おっと、そうだな。……せいぜい、ちゃんと正々堂々勝負しろよ、ソータくん」

オリバは余裕のある顔でそう言うと、ひらひらっとソータたちに手を振る。

 エリは一瞬眉間に皺を寄せてから、いつもの営業スマイルを浮かべた。

「それでは、明日の午後からソータくんたちとオリバさんたちの勝負開始ということで、ギルド長に伝えておきますね」

 エリはそう言い残すと、ソータとサラを連れて食堂を後にするのだった。

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