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第58話 バースとケイン
しおりを挟む「やめ、やめろ! おい、やめろって言ってんだろ!!」
馬車の乗客たちの反感を買ったバースたちは、色んな物を投げつけらえるという報復を受けていた。
当然、やめろと言われてやめる人たちなどいるはずがなく、いつまで経っても止まない反撃にバースたちは怒りのせいか顔を赤くさせていった。
「やめろって言ってんだろうがぁ!!!!」
やがて、癇癪を起した大きなバースの声を受けて、その声量に驚いたように乗客たちが物を投げる手をピタリと止めた。
「このっ、クソ野郎どもが! もういい! おまえらまとめてぶっ殺す」
バースは肩で息をするくらいに怒り狂っていて、馬車の床に突き刺していた剣を雑に引き抜いた。
マズい、こんな馬車の中で暴れられたら面倒だ。
そう思って俺が席を立とうとした瞬間、バースのパーティ仲間のケインがガッシリと掴んだ。
「まて、バース」
「あぁ? なぜ止めるケイン!! 待てるわけがないだろうが!」
バースはケインに止められて、不満そうに声を荒らげる。
しかし、ぐいっと強く肩を引かれたバースは、ケインに耳打ちされてから、ニヤッと不敵な笑みを浮かべる。
「……なるほどな。確かにそっちの方がいいか」
バースはそんなことを呟くと、俺をビシッと指さす。
「おい、クソガキ! 今回だけはオリバさんに免じて許してやるよ。おまえらも今回だけ許してやる。ただし、今度この馬車に乗ったときはタダで帰れると思うなよ」
バースは笑いながら俺を見て、ドカッと雑に腰かけた。
さっきまでバースたちに物を投げていた乗客たちは、バースの声に少し押される形でそれ以上物を投げることはなかった。
これですべてが解決してくれればいいが、当然そんなわけにはいかないのだろう。
バースとケインはその後もずっと俺たちを睨んでいるし、最後に口にした言葉を気にするなというのは無理な話だ。
……確か、ヘリス山脈に行くためには、この馬車を使う以外の方法はほとんどないので、帰りもこの馬車を使うことは決定してしまっている。
最悪の場合は馬車を個人で雇うという選択もあるけど、結構なお金がかかる。
つまり、また数日後にはバースと会う羽目になるのだ。
「次に会った時には、もっと愚かな者になっているのだろうなぁ……ふむ、これは楽しみだ」
そんなバースたちを前に、目をキラキラとさせているケルを見ると、変に警戒過ぎることもないかと少し安心する。
俺がケルを優しく撫でると、ケルは俺の膝の上でゴロンと横になって腹を見せて俺に撫でられ続けていた。
地獄の門番のケルもいるし、純剣士のサラさんもいる。
それなら、何も臆することはないだろう。
そんなことを思いながら、俺は子犬にしか見えないケルのお腹を俺はわしゃわしゃっと撫でるのだった。
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