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第9話 ブラコン宣言

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「エリ―、さすがに筋力なさすぎないか? 軽い朝稽古だろ?」

「……マイネル、あなたと一緒にしないでよ」

 そして、翌日。私はさっそく学校が始まるまでの時間マイネルに朝稽古をつけてもらうことになった。

 昨日の学校終わりにも稽古に付き合ってもらった私は、全身の筋肉を酷使してしまったせいか全身が筋肉痛だった。

 ミーアと移動教室へと向かう途中、筋肉痛で変な歩き方をしている私を見たマイネルは、なんとも言えないような表情で私をからかってきたのだ。

 なんか悪気がない感じが余計にたちが悪いんだけど。

 お互いの言葉遣いが砕けているのは、お互いにそっちの方が話やすいからということで、砕けた話し方になったのだが、結果として少し心の距離も近くなった気がした。

「なんだ、君達知り合いだったのか? というか、エリー歩き方変だぞ」

 少し立ち止まって話をしていると、そこにエルドナが不思議そうな顔をしながら加わってきた。

 私の足がぷるぷると震えているのを見て、怪訝そうな顔つきになったが、それは心配しているってことでいいんだよね?

 とても、乙女の脚を見ているとは思えない表情をしているけど、心配してるからって認識でいいよね?

「ええ、ちょっと剣の稽古付き合ってもらってるの。変なのは筋肉痛だから、数日経てばよくなるから」

「剣の稽古? なぜそんなことをしているんだ?」

「なんか定期試験で潜るダンジョンが不安なんだとさ。そこで死ぬかもしれないとか言ってるぞ、エリーの奴」

「定期試験で潜るダンジョンで死人が出るわけがないだろう。何を言っているんだ?」

 二人は筋肉痛の私を放置して、何やら話し込んでいた。

 魔法省の息子と国家騎士団の息子。互いに同い年ということもあり、この学園に来る前から二人は知り合いだったらしい。

 このゲームのヒロインだったティアもこの二人と一緒に過ごすことが多かったし、もしかしたら、これをきっかけにミーアを加えた四人で行動をすることが多くなるのかもしれない。

 なんだか、完全にヒロインのシナリオみたいになってきた気がする。

 もしも、この場にレイラ―でもいたりしたら、いよいよ問題かもしれないけど、二人ともクラスメイトだから、一緒にいても問題はない気もしなくはな――

「エルドナにマイネルじゃないか。久しぶりだね」

 問題あったわ。レイラ―来ちゃったわ、問題だよこれは。

 どこから現れたのか、いつの間にか私達の後ろにいたのはレイラ―の姿だった。

 もちろん、第二王子のレイラ―のことを二人が知らないわけがなく、一学年上のレイラ―の姿を確認した二人は、少しだけ背筋を伸ばしていた。

「へー、二人ともエリ―の知り合いだったのかい」

「ええ、まぁ」

「なんだ、エリ―。レイラ―様とも知り合いなのか?」

 ……攻略対象が一つの場所に揃ってしまった。

 マイネルからかけられた言葉に小さく頷きながら、私は攻略対象が一堂に揃っている光景を前にして、生唾を呑み込んでいた。

 もはやゲームのパッケージかよと思わせるように、三人から視線を向けられて、私はタイプの違う三人のイケメンを前に声を出せずにいた。

 あれ? なんかこの場面見覚えがあるな。確か、攻略対象三人が初めてそろった時に、そんなヒロインの元にやってくる女の子がいたはず。

 あ、思い出した。この状況はかなりマズい!

「レイラ―様、その女から離れてください」

 私がシナリオを思い出してその場から離れるよりも早く、どこか冷たいような声色とともに、金色のウェーブがかった髪を揺らしながら一人の女の子が現れた。

「その女は入学して間もないのに、将来有望な殿方達をたぶらかしている女です。レイラ―様が関わってはいけませんわ」

 言いがかり甚だしいそんな文句と共に、私を鋭く睨みつけながら現れたのは、悪役令嬢のクリス・シベリア。

 本来ヒロインをいじめる役目のある彼女は、そのヒロインの代わりにイベントを進めてしまっている私の元にも現れたらしい。

 このイベント、何がマズいかというと、このクリスの発言を聞いたレイラ―がヒロインを庇うイベントなのだ。

 そして、レイラ―に庇われたということで、さらに辺りが強くなったクリスはもっと陰湿にヒロインをいじめることになる。

 そうなってしまっては、いじめられるのは私だ。

 そんな未来だけは避けなくてはならない。

 どうするべきかと悩んでいるうちに、レイラ―の眉が不快そうに潜められたのが分かった。

 マズいマズい、早く何とかしないと。

 でも、『そんなことをしていません!』といっても通じる相手ではない。それに、そんな言葉を言ったら、多分レイラ―が私を援護してくれてクリスの怒りを買うだけだ。

 それなら、どうするのがいいのか。

 クリスが気にしていることは、私がレイラ―に手を出そうとしていること。それなら、他の男性が好きだとでも言ってしまえばいいのだろうか?

 いや、それだけだとまだ弱い。もっと絶対的にレイラ―に手を出さないという確証を示さなければならない。

 どうしよう、どうしよう、どうしようっ。

 頭をぐるぐるとさせながらクリスの方に視線を向けたとき、クリスの後ろの方にいたある人物と偶然目が合った。

 そして、その瞬間、解決策はこれしかないのだと悟った。

「クリス様! ご安心ください!」

 私はクリスに大声で呼びかけた後、小走りでクリスの奥にいた人物の元へ走っていた。

 自分の方に突っ込んでくると思ったのか、少し後ずさったクリスの横を通り過ぎて、わたしはそのままそこにいる人物に思いっきり抱きついた。

「え?」

 その人物の困惑するような声を頭上で聞きながら、私は恥ずかしさを押さえ込みながらクリスの方に視線を向けた。

「私は、お兄様一筋なので!!」

 何が起きたのか分からない様子の兄のルークをそのままに、私はもう少しだけ強くその胸に顔を埋めたのだった。

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