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第11話 それぞれの兄妹の形
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「ルーク様とエリ―様って仲いいんですね」
「そうですね、兄妹ですから」
そして、そんなひと騒動を終えて、学食にてお昼ご飯を食べていると、羨ましそうな笑みと共に、ミーアがそんな言葉を口にした。
結局、ブラコンを演じたところでエルドナとマイネルと共に行動をする未来を変えられることなく、今もこうして食事を共にしていた。
格安ファミレスの味が染み付いている私にとって、学食のご飯を食べる時間は楽しみの一つでもあるのだ。
思わず笑みがこぼれてしまう。
「……異性の兄妹で仲良いと、あんな感じになるのか」
自然と笑みを浮かべながらミーアに返答して、料理に舌鼓を打っていると、隣に座るマイネルがぼそっとそんな言葉を漏らしていた。
「マイネル様は兄弟がいらっしゃるんですか?」
「ああ。でも、うちは兄貴だからな。あんな感じではないな」
私が目を少し輝かせながら黙々と食事を食べていると、ミーアがマイネルにそんなことを聞いていた。
確か、マイネルは兄と昔は仲が良かったのだが、兄の剣の才能を周りが褒めたたえだしてから、少し距離ができてしまった感じだったと思う。
それから、ヒロインと出会って色々あった後に自分の剣に自信を持って、兄と対等にやり合えるようになってから、その距離が埋まるのだ。
つまり、現段階では少しだけ不仲の状態といえるだろう。
私の演じた拗らせ系ブラコンと比較するまでもないはず。
「そういえば、エルドナって姉貴と妹いたよな? 家だとエルドナもあんな感じで甘えるのか?」
「ぶっ! そ、そんなわけがないだろ!」
何でもないことのようにマイネルがエルドナにそんな質問を向けると、ミーアの隣に座っていたマイネルが何かを噴き出すように動揺をしていた。
軽い気持ちで聞いたマイネルがぽかんとする中、エルドナは一人咳き込んでいて、顔を真っ赤にさせていた。
この反応は……。
「もしかして、お姉さんと妹さんが結構べったりだったりしてくる感じ?」
「言っておくが、エリ―達ほどではないからなっ」
まるで、自分は普通だとでも言いたげな言葉だが、拗らせブラコンを演じていた私と比較する時点で、中々の兄妹仲であることが察せられた。
こやつ、さては隠れシスコンか?
そうなると、私とルークの関係を見ても、ただの仲が良い兄妹程度にしか思われないかもしれない。
結構拗らせた妹を演じたつもりだったが、もっとガチ恋感を出さなくてはならないかも。
確か、レイラ―と関係ないマイネルとエルドナルートでゲームを攻略しようとしても、悪役令嬢のクリスがヒロインをいじめてきた気がする。
そうなると、レイラ―を含む攻略対象と恋仲になるような関係にならないように、お兄ちゃん大好きっ子を演じなければならないのだ。
要するに、フラグが立つ素振りを見せないようにしなければならない。
……女子の、それも貴族様のいじめに巻き込まれないためには、こうするしかないのだ。
「ここ失礼していいかな?」
そんな話をしていると、ミーアの隣の空席に先程私がブラコンを演じるような元凶を作った原因の一人が現れた。
悪役令嬢のクリスの許嫁、ロドル王国の第二王子のレイラ―である。
作ったような笑みで微笑みかけられて、当然断ることなどできるはずがないのだが、どこでクリスが見ているのか分からないので、返答に困ってしまう。
「お兄さんも誘っておいたんだけど、どうですか?」
私の何か言いたげな表情から何かを察したのか、レイラ―はそんなこと言うと私の隣に視線を向けた。
その視線に倣うように私の隣の空席に視線を向けると、そこには何とも言えないような表情をしたルークの姿があった。
ブラコンを演じている私が兄と一緒に食事ができると言われて、断れるはずがない。
やっぱり、この男は私がブラコンを演じているのに気づいているのかもしれない。
……いや、単純にブラコンの私が喜ぶと思った可能性もあるか。
とにかく、返事は『はい』か『YES』以外にはありえない。
「お兄様がいるなら、問題ないです」
私がそう言うと、レイラ―は作ったような笑みを少しだけ深くして、ミーアの隣に腰かけた。
レイラ―が腰かけたのを確認してから、ルークもそれに倣うようにゆっくりと私の隣に腰かけて、小さな声を漏らした。
「まさか、エリ―がレイラ―様と仲良くなっているとは驚きだよ」
「お兄様、焼いてくださいますの?」
しみじみとそんな言葉を漏らすルークの言葉に、ブラコンを演じているようにしながらそんな言葉を返すと、ルークは私の言葉を受けて少しだけ悲しそうな笑みを浮かべた。
「……そうかもな」
その顔は私の知らない何かを思い出しているようで、それを知らない私はそれ以上の言葉をかけることができなかった。
攻略対象のように過去も未来も知らないモブのエリ―の兄。私と同じくモブなはずなのに、モブだからこそ分からない心情がそこにはあって、私はそれに触れることができずにいた。
なんか、すごいもどかしい。
「本当に仲がよろしいんですね」
「あっ、もちろんです。兄妹ですからね」
ルークの表情の裏に隠されていることを知りたくなったばかりに、自然とルークのことを見つめていると、レイラ―からそんな言葉をかけられた。
我に返った私はブラコンを演じているようにしながら、ルークから視線を外して、からかうように視線を向けているレイラ―の方に視線を移した。
「レイラ―様、何かしら用事があったんですよね?」
「用事?」
「そうですよ。用事がないのなら、クリス様と一緒に食事をするものかと思いまして」
なぜか小首を傾げているレイラ―にそう言うと、レイラ―はようやく合点がいったと言った様子で頷いた後、言葉を続けた。
「別に、婚約相手だからといって、常に一緒にいるわけじゃないんですよ」
「でも、クリス様は一緒にいたいと思っているんじゃないですか?」
「どうだろうね。それにしても、君はクリスのことをやけに気にしているみたいだね。……同級生から見て、クリスはどんな子なのかな?」
さすがに、二人の事情に突っ込み過ぎているような気がするのは分かっている。
それでも、クリスとレイラ―が相思相愛の関係になった方が、私にとって気が楽になのだ。
おそらく、クリスが周囲からどう思われているのか、レイラ―が知らないわけがない。
悪役令嬢と名高い彼女の悪い所を自ら言うのではなく、他の人に言わせるという寸法だろう。
しかし、そこまで分かっていながら、その流れに乗る気はこちらにはないのだ。
逆にクリスの良い所をごり押しして、レイラ―とくっつけてしまおう。
そう思った私は、以前ネットで見た掲示板に書かれていた『虹の彼方へと続く』の悪役令嬢推しの意見をつらつらを口にすることにした。
「クリスさんは気品高い方だと思いますよ。いつ見てもスカートや服に皺がない。常に自分が高貴な公爵家の令嬢であることを意識しているんでしょう。それに、魔法、勉強、運動など全てにおいて成績上位者です。それもすべて、負けず嫌いで努力家な性格が出ているのでしょう」
私があまりにも流暢に言うのに驚いたのか、私の前に座っている面々が私に視線を集めていた。
なんか少し視線の位置が高い気がするけど、この際細かいことは気にしない。
私はそのまま掲示板で書かれていた意見を、自分の意見のように続けた。
「確かに、稀に酷いことを言ってしまうこともありますが、それもレイラ―様の婚約者としてあらゆることで負けたくないという感情が前に出過ぎてしまっているだけです。人に強く当たってしまった後は、本当は謝りたいのに謝れない不器用な面が現れていて、周りにばれないようにソワソワしているんですよ。多分、本当は心優し――」
これからが本番だと思って意気込んで離していると、不意に服をくいくいっと引っ張られた。
何だろうかと思って、私が振り返って確認すると、そこには顔を真っ赤にさせて俯いているクリスの姿があった。
「く、クリス様」
「あ、あとでお話があるので、少し時間を取りなさい」
クリスは少しだけ私の目をちらっと見た後、そのまま恥ずかしそうに顔を隠しながら私達の席から離れていった。
すっかりその背中が見えなくなって、私は先程のクリスの言葉を頭の中で反芻させて、事の重大さに気がついたのだった。
……もしかして、悪役令嬢からお呼び出しを食らった?
「そうですね、兄妹ですから」
そして、そんなひと騒動を終えて、学食にてお昼ご飯を食べていると、羨ましそうな笑みと共に、ミーアがそんな言葉を口にした。
結局、ブラコンを演じたところでエルドナとマイネルと共に行動をする未来を変えられることなく、今もこうして食事を共にしていた。
格安ファミレスの味が染み付いている私にとって、学食のご飯を食べる時間は楽しみの一つでもあるのだ。
思わず笑みがこぼれてしまう。
「……異性の兄妹で仲良いと、あんな感じになるのか」
自然と笑みを浮かべながらミーアに返答して、料理に舌鼓を打っていると、隣に座るマイネルがぼそっとそんな言葉を漏らしていた。
「マイネル様は兄弟がいらっしゃるんですか?」
「ああ。でも、うちは兄貴だからな。あんな感じではないな」
私が目を少し輝かせながら黙々と食事を食べていると、ミーアがマイネルにそんなことを聞いていた。
確か、マイネルは兄と昔は仲が良かったのだが、兄の剣の才能を周りが褒めたたえだしてから、少し距離ができてしまった感じだったと思う。
それから、ヒロインと出会って色々あった後に自分の剣に自信を持って、兄と対等にやり合えるようになってから、その距離が埋まるのだ。
つまり、現段階では少しだけ不仲の状態といえるだろう。
私の演じた拗らせ系ブラコンと比較するまでもないはず。
「そういえば、エルドナって姉貴と妹いたよな? 家だとエルドナもあんな感じで甘えるのか?」
「ぶっ! そ、そんなわけがないだろ!」
何でもないことのようにマイネルがエルドナにそんな質問を向けると、ミーアの隣に座っていたマイネルが何かを噴き出すように動揺をしていた。
軽い気持ちで聞いたマイネルがぽかんとする中、エルドナは一人咳き込んでいて、顔を真っ赤にさせていた。
この反応は……。
「もしかして、お姉さんと妹さんが結構べったりだったりしてくる感じ?」
「言っておくが、エリ―達ほどではないからなっ」
まるで、自分は普通だとでも言いたげな言葉だが、拗らせブラコンを演じていた私と比較する時点で、中々の兄妹仲であることが察せられた。
こやつ、さては隠れシスコンか?
そうなると、私とルークの関係を見ても、ただの仲が良い兄妹程度にしか思われないかもしれない。
結構拗らせた妹を演じたつもりだったが、もっとガチ恋感を出さなくてはならないかも。
確か、レイラ―と関係ないマイネルとエルドナルートでゲームを攻略しようとしても、悪役令嬢のクリスがヒロインをいじめてきた気がする。
そうなると、レイラ―を含む攻略対象と恋仲になるような関係にならないように、お兄ちゃん大好きっ子を演じなければならないのだ。
要するに、フラグが立つ素振りを見せないようにしなければならない。
……女子の、それも貴族様のいじめに巻き込まれないためには、こうするしかないのだ。
「ここ失礼していいかな?」
そんな話をしていると、ミーアの隣の空席に先程私がブラコンを演じるような元凶を作った原因の一人が現れた。
悪役令嬢のクリスの許嫁、ロドル王国の第二王子のレイラ―である。
作ったような笑みで微笑みかけられて、当然断ることなどできるはずがないのだが、どこでクリスが見ているのか分からないので、返答に困ってしまう。
「お兄さんも誘っておいたんだけど、どうですか?」
私の何か言いたげな表情から何かを察したのか、レイラ―はそんなこと言うと私の隣に視線を向けた。
その視線に倣うように私の隣の空席に視線を向けると、そこには何とも言えないような表情をしたルークの姿があった。
ブラコンを演じている私が兄と一緒に食事ができると言われて、断れるはずがない。
やっぱり、この男は私がブラコンを演じているのに気づいているのかもしれない。
……いや、単純にブラコンの私が喜ぶと思った可能性もあるか。
とにかく、返事は『はい』か『YES』以外にはありえない。
「お兄様がいるなら、問題ないです」
私がそう言うと、レイラ―は作ったような笑みを少しだけ深くして、ミーアの隣に腰かけた。
レイラ―が腰かけたのを確認してから、ルークもそれに倣うようにゆっくりと私の隣に腰かけて、小さな声を漏らした。
「まさか、エリ―がレイラ―様と仲良くなっているとは驚きだよ」
「お兄様、焼いてくださいますの?」
しみじみとそんな言葉を漏らすルークの言葉に、ブラコンを演じているようにしながらそんな言葉を返すと、ルークは私の言葉を受けて少しだけ悲しそうな笑みを浮かべた。
「……そうかもな」
その顔は私の知らない何かを思い出しているようで、それを知らない私はそれ以上の言葉をかけることができなかった。
攻略対象のように過去も未来も知らないモブのエリ―の兄。私と同じくモブなはずなのに、モブだからこそ分からない心情がそこにはあって、私はそれに触れることができずにいた。
なんか、すごいもどかしい。
「本当に仲がよろしいんですね」
「あっ、もちろんです。兄妹ですからね」
ルークの表情の裏に隠されていることを知りたくなったばかりに、自然とルークのことを見つめていると、レイラ―からそんな言葉をかけられた。
我に返った私はブラコンを演じているようにしながら、ルークから視線を外して、からかうように視線を向けているレイラ―の方に視線を移した。
「レイラ―様、何かしら用事があったんですよね?」
「用事?」
「そうですよ。用事がないのなら、クリス様と一緒に食事をするものかと思いまして」
なぜか小首を傾げているレイラ―にそう言うと、レイラ―はようやく合点がいったと言った様子で頷いた後、言葉を続けた。
「別に、婚約相手だからといって、常に一緒にいるわけじゃないんですよ」
「でも、クリス様は一緒にいたいと思っているんじゃないですか?」
「どうだろうね。それにしても、君はクリスのことをやけに気にしているみたいだね。……同級生から見て、クリスはどんな子なのかな?」
さすがに、二人の事情に突っ込み過ぎているような気がするのは分かっている。
それでも、クリスとレイラ―が相思相愛の関係になった方が、私にとって気が楽になのだ。
おそらく、クリスが周囲からどう思われているのか、レイラ―が知らないわけがない。
悪役令嬢と名高い彼女の悪い所を自ら言うのではなく、他の人に言わせるという寸法だろう。
しかし、そこまで分かっていながら、その流れに乗る気はこちらにはないのだ。
逆にクリスの良い所をごり押しして、レイラ―とくっつけてしまおう。
そう思った私は、以前ネットで見た掲示板に書かれていた『虹の彼方へと続く』の悪役令嬢推しの意見をつらつらを口にすることにした。
「クリスさんは気品高い方だと思いますよ。いつ見てもスカートや服に皺がない。常に自分が高貴な公爵家の令嬢であることを意識しているんでしょう。それに、魔法、勉強、運動など全てにおいて成績上位者です。それもすべて、負けず嫌いで努力家な性格が出ているのでしょう」
私があまりにも流暢に言うのに驚いたのか、私の前に座っている面々が私に視線を集めていた。
なんか少し視線の位置が高い気がするけど、この際細かいことは気にしない。
私はそのまま掲示板で書かれていた意見を、自分の意見のように続けた。
「確かに、稀に酷いことを言ってしまうこともありますが、それもレイラ―様の婚約者としてあらゆることで負けたくないという感情が前に出過ぎてしまっているだけです。人に強く当たってしまった後は、本当は謝りたいのに謝れない不器用な面が現れていて、周りにばれないようにソワソワしているんですよ。多分、本当は心優し――」
これからが本番だと思って意気込んで離していると、不意に服をくいくいっと引っ張られた。
何だろうかと思って、私が振り返って確認すると、そこには顔を真っ赤にさせて俯いているクリスの姿があった。
「く、クリス様」
「あ、あとでお話があるので、少し時間を取りなさい」
クリスは少しだけ私の目をちらっと見た後、そのまま恥ずかしそうに顔を隠しながら私達の席から離れていった。
すっかりその背中が見えなくなって、私は先程のクリスの言葉を頭の中で反芻させて、事の重大さに気がついたのだった。
……もしかして、悪役令嬢からお呼び出しを食らった?
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