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エメラルドの輝きは誰にも負けない

ティモシーの考え

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 ティモシーは十三歳になった。
 冷たい牢獄のようなションバーグ公爵家での生活にもすっかり慣れていた。
 そして、ほんの少しだけティモシーにも自由が与えられた。
 今までは脱走対策として外出をほとんど禁じられていたが、ドノヴァンからの許可があれば外出が可能になったのである。

(でも、簡単に外出許可をくれるわけじゃなさそうだ……)
 ティモシーは今すぐにでもシンシアに会いに行きたかった。しかし、ドノヴァンの性格を考えると馬鹿正直にそう言うのは愚策である。ティモシーはドノヴァンを納得させることが出来る理由をひたすら考えていた。

 そしてある日の夕食時。
公爵閣下父上、今よろしいでしょうか?」
 ティモシーはドノヴァンに声を掛けた。
「何だ? 用があるなら手短に」
 スープを飲みながら面倒そうな表情になるドノヴァン。
「ありがとうございます。外出許可をいただきたいのです」
「外出許可? どこに行くつもりだ?」
 怪訝そうな表情のドノヴァン。
「ターラント孤児院です。ノブレス・オブリージュの一環として寄付に」
「そんなくだらないことに」
 ドノヴァンはティモシーを鼻で嘲笑う。
「流石は半獣。獣である平民なんかに金を渡すなんて」
 ラザフォードも見下したように笑う。
 グレンダに至っては、ティモシーの言葉を全くの無視である。
 すると、ティモシーはニヤリと口角を上げる。
「そうでしょうか? 最近新聞を読んだら、筆頭公爵家の当主であるモールバラ公爵閣下が、王都ドルノンにある孤児院に多額の寄付をされて賞賛されておりましたよ。モールバラ公爵閣下だけでなく、モールバラ公爵家全体の株も上がったとか。……モールバラ公爵閣下以上の額を寄付したら、このションバーグ公爵家も注目を集めるのでは?」

 三年もションバーグ公爵家にいれば、ドノヴァン達の性格が分かってくる。
 見栄っ張りのドノヴァンにはどう言えば良いか考えた時、ターラント孤児院へ行く理由として思いついたのがこれである。
 ちなみに、孤児院などへの寄付をすることは貴族にとってのステータスでもある。寄付金の額が高ければ高い程、ステータスも高くなるのだ。

「ほう……」
 ティモシーの言葉を聞き、ドノヴァンは少し考える。
「あのモールバラ筆頭公爵家よりも上に見られるのか……」
 見栄っ張りのドノヴァンを見事に刺激していた。
「ええ。それに、僕はまだ十三歳で成人デビュタントしていません。お忙しい公爵閣下父上義兄あに上に代わって僕がターラント孤児院に寄付しに行っても、それは公爵閣下父上や義兄上の功績になります」
 フッと笑うティモシー。

 ネンガルド王国では近年男女問わず社交界デビュー、すなわち成人デビュタントするのは十六歳になる年である。まだ成人デビュタントしていない者は、学術的、芸術的なこと以外は外で何をやっても自身の功績ではなく家や親の功績になるのだ。

 その事実は、特にラザフォードを刺激した。
「つまり、面倒事は全て半獣のお前に押し付けて、その手柄は全部父上や俺のものになるのか。……面白い」
 ティモシーを嘲笑いつつ、心底愉快そうな表情のラザフォード。
 先程から全くの無視を決め込んでいるグレンダは、食事を終えたのかすぐに部屋に戻ってしまった。
公爵閣下父上、いかがでしょうか? ターラント孤児院へ行く許可をいただけますか?」
 ティモシーのエメラルドの目が、自身ありげに輝く。
「……許可しよう」
 フッと満足げに頷いたドノヴァン。
「ありがとうございます」
 ティモシーはターラント孤児院へ行けることになったのである。





ーーーーーーーーーーーーーー





 ティモシーがターラント孤児院へ行く日になった。
 質の良いジャケットを羽織るティモシー。
 そして自室の棚に入っているカフスボタンを見つめる。
 アメジストのカフスボタンである。
 このカフスボタンは、少し前にションバーグ公爵家に来た商会から購入したものだ。
 ティモシーはカフスボタンを選んでいた時のことを思い出す。

 ドノヴァンから、「これからはションバーグ家の恥にならないものを身に着けろ」と言われたティモシー。
 やって来た商会の者にブローチやカフスボタンなどの商品を見せてもらう。
 ティモシーはそこにあったアメジストのカフスボタンに目が止まった。
(これは……シンシアの目と同じだ!)
 脳裏に浮かぶのはシンシアの溌剌とした笑み。アメジストの目はキラキラと輝いていた。
 ティモシーは迷うことなくアメジストのカフスボタンを選んだ。

(シンシア……三年もかかってごめんね。今会いに行くよ)
 ティモシーは身に着けたアメジストのカフスボタンを、そっと優しく触れる。
 エメラルドの目は希望に満ち溢れていた。

 まだティモシーは、シンシアがターラント孤児院にいると思っていた。
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