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オオカミ男、オオカミ女

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 オオカミ少年は、言いました。

『狼は来たぞ!』
 毎回嘘を吐かれていた村の皆は、ある日少年の嘘に騙されるのを止めました。

『狼が来たぞ!』

 誰も信じてくれません。

『本当に狼が来たんだ!』

 少年が騒いでも、もうだれも見向きもしません。
 当たり前です。少年は楽しさに浮かれて信用を失っていたのですから。
 自分では狼を追い払えないのに、自分の言葉で皆が駆けつけてくるのが楽しくて。


 オオカミ少女は、嘘を吐きました。

『あの事故で、お腹にケガをした。だから子供が産めない。だから恋愛はしません』

 少女を信用していた彼は、その嘘を信じてしまいました。
 けれど、本当はその彼は――。


「やばああーい。庭が広いしぃぃ」


 本当の彼は、意地悪で超金持ちで、性格自体が嘘だったのです。

 一見様お断りの老舗店『藜』
 料理屋なのか旅館なのか呉服屋なのか、看板さえ出ていない。
恐る恐るタクシーで向かったが、高級老舗料理屋を通り過ぎ、路地裏に時が止まったように大きな日本家屋が建てられているだけだった。
 延々と続く土塀の向こうに、迷路みたいな庭を通ると、廊下が繋がっている三棟の部屋。
案内された部屋は手入れされた庭を眺める、ごく普通の部屋だった掛け軸とか花瓶とか、テーブルとか、確かに一流品とは思うけど、……案外普通。
 このまるまる一棟が貸し切りにできるのと、全国の有名な日本酒と御馳走が食べられるだけ?
 まあここでご飯を食べられるってだけでもステータスなのかもしれない。

「神山様が遅くなるとのことですので、食事を先に並べさせていただきます。奥様には先に温かいうちに食べていただきたいとのことですので、準備しますね」
「え、奥様? ちょ、え?」

 焦っているうちに運ばれて並べられていく御馳走。着物姿の上品な女将は、常に視線は下で何かおかしかった。

 おかしいと言えば、この部屋もだ。
 貸し切りなのに、たった一部屋?
 トイレはどこだ? こっちの襖の向こうは何?

 気になって開けた襖の向こうに、私は目を見開いた。

布団が敷いてある。寄り添うように二つ並んで敷いてあるのだ。

「……エロ親父が若い子連れ込むような、部屋の構造だ!」

 金持ちが若い子を連れ込んで、ばれないようにあんなことやこんなことするような部屋に笑ってしまう。
 凄い。こんな漫画みたいな部屋、初めて見た。

 もしかして神山進歩。
 あいつ、年齢詐称していて、実は五十代の親父なのか。


 ということは、庭が部屋に対して少し狭い気がするけど……。
 部屋は見なかったことにするけど、縁側の壁にドアがあり開けると、やはりあった。露天風呂。
ヤるなら風呂もあるよね。うん。

「……?」

 えっと謝罪だけのつもりだったんだけど、よくよく考えたら笑ってる場合じゃない?

 普通に私が好きそうなレストランとかでも良かったじゃない。
仕事で遅くなるからって、此処にしたと言っていたけど、あんな短時間でこの部屋を?

 もしかして金曜日、ここに連れてこられる予定だった?

「んんん?」

 もしかして神山進歩は、私とエッチする気満々なの?
 ご飯も全部運ばれてから、そそくさと女将さんはいなくなったし。
 奥様って勘違いしてたし。

「んんんんん?」

 急いで携帯を取り出して、メールを打つ。
『到着したのですが、何時ごろになりそうですか?』

 少し待つぐらいなら、食べずに待つ。
その方が、一人で食べるのに緊張するのよりましだ。

『23時にはかからないと思うけど、先に温かいうちに食べておいて』

 23時!?
 20時に指定したくせに自分は三時間も遅れる予定だったのか。

 そんな時間にご飯食べたら太る。確実に太る。
 ので、お言葉に甘えて食べることにしよう。

 でもこの状況、食べたらエッチの流れにはならないよね?

 エビのてんぷらの箸で摘まみながら、お行儀悪く肘をつく。
 カラッと揚げられた海老を見ながら、思うのは一年前のことだ。

 私は平凡な自分の身体に自信はない。
 それに比べて神山進歩は、寡黙て落ち着いた男のくせに脱いだら筋肉が嫌味じゃない程度についていて、引き締まっていて格好良かった。

 益々貧相な私は自信が持てず、そんな流れになったときは『真っ暗にしてほしい』とお願いしていた。

 エッチは好きではない。
 でも暗闇で、私の輪郭を探ってくる彼の手は好きだった。
触れようと、手を伸ばしてくる体温に、その優しさに、好意が感じられて好きだった。

 舐められたり、指でほぐされたり、は変な声が出そうだったので好きじゃなくて止めてもらったから、淡白といえば淡白だったかもしれない。
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