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第一章

シルクハットが似合う少年

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 シャンデリアが照らす赤い絨毯の上に、二つの人影がある。
 部屋の中央に、半円型のテーブルが置かれており、そのテーブルを挟み、二人は向かい合っていた。
 片側に、シルクハットをかぶった黒髪の少年が立ち、その反対側に、男が座っている。
 座っているのは、いたって普通の男だ。何を基準にそう言うのかはさておき、良くも悪くも普通の男である。
 男は豪奢な椅子に腰をかけ、驚きの表情で目を見開いていた。

「……マジかよ」

 彼の眼前に、二枚のトランプが並んでいる。
 それぞれ、『ハートのクイーン』と『ダイヤのエース』が並べられており、その手前には、別の二枚――『ダイヤの10』と『クラブの10』が、男の前に並べられていた。
 ブラックジャックというゲームを知っているものであれば、それらのカードが意味することがわかるだろう。
 要するに――

「残念ながら、ハワード様。あなたの負けのようですね」

 シルクハットをかぶった少年が涼しげな声で、目の前にいる男に言った。

「……え? ……あっ」

 我に返ったようにハワードは反応する。
 それから彼は、何が起こったのかをゆっくりと理解していく。
 まるで夢でも見てるかのように、その目はうつろだ。
 それはそうだろう。このブラッグジャックには、金貨100枚――現代の日本円にして約1000万という額が賭けられていたのだから、現実逃避をしたくなるのも、無理はない話なのである。
 さらに、ハワードの身なりは、シンプルなシャツにボトムスといった格好。
 とても大金を持っているようには見えない。
 そんな彼をまっすぐに見て、シルクハットの少年は口を開いた。

「それでは――借金の返済について、話をしましょうか」

「……ぁ」

 弱々しく声をもらすハワード。
 その様子に気に留めることなく、シルクハットの少年は話を続ける。

「まあ本当は、今すぐ現金でお支払いをしていただきたいところ……なのですが、現実的ではありませんよね? そこで一つ――提案があります」

「……提……案?」

 呆然と返す声に、シルクハットの少年は薄い笑みを向けて言った。

「――救済措置を設けたいと思います」

「……救済?」

 おうむ返しに問うハワードに、シルクハットの少年は「そうです」と頷く。

「白金貨100枚分――“仕置き”を受けるということで返済、というのはどうでしょうか? ちなみに、仕置きといっても、拷問のようなものとは違います。痛みはありませんし、水責め、窒息などの、呼吸を制限するものでもありません。ああ、それと、くすぐりなども違います」

「じゃあ、なにをすれば……」

 眉をひそめるハワードに、シルクハットの少年は白い手袋をはめた手を上げ、人差し指を立てて言った。

「――臭い責めです」
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