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第一章

おこってないよ

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 かすかな音であったが、ポーラとメリッサがおならをしたのは、音の聞こえ方からして明らかだ。
 しかし、シルクハットの少年の反応を信用するのであれば、今の間に、もう一人、すかしたことになる。
 とはいえ、誰がと、一同にとってはどうでもいいことなのだろう。
 エレナ以外は、何事もなく聞き流しており、

「ほら、ポーラ。ここでは一応、あなたのほうが先輩なのよ」

 たしなめるようなべランカの言葉を受けて、ポーラはちろっと舌を出し、控えめな笑みをエレナに向けた。

「ごめん……本当は、別に怒ってない……」

「……ぁ。……ぇ? ……ああ、そっか。よかったぁ」

 呆然としていたエレナだったが、言われたこと理解すると、安堵するように深い息を吐く。

「まったく、心臓に悪いよ。……メリッサもね」

 視線を向けられ、メリッサは小さく笑い、何も言わずに肩をすくめる。
 彼女の反応が少し気になったのか、エレナは首を傾げようとして、

「あ……」

 思わずと言ったふうに声を漏らした。
 何かに気づいたような――あからさまな感じの声だ。
 エレナは慌てた様子で口元を押さえたが、

「エレナ?」

 プリルに視線を向けられて、その頬が赤く染まっていく。
 と、そこに、

「別に。もっと気楽にやったらいいじゃない」

「ロゼリア……?」

 エレナは朱色の瞳を見返す。
 それを受けて、ロゼリアのほんのりと表情に笑みを浮かべた。

「音が鳴ったところで誰も気にしないわ。けど、恥ずかしいんだったら、しっかり音は消しなさい。ただ……においを漏らしたら――わかってるわね?」

「――っ」

 後半の冷たさを感じる言葉に、エレナは息を飲んだ。

「ロゼリア」

 シルクハットの少年がたしめるように苦笑いを浮べる。
 ロゼリアは「……ふんっ」と少しだけ声に動揺をにじませて、少年から目をそらした。
 その反応に、シルクハットの少年は肩をすくめると、

「まあ、その椅子の上でニオイがもれることはありえないから、緊張しなくても大丈夫だよ。ね? ロゼリア」

「そんなの……わかってるわ。冗談で言ってるんだから、真に受けないでよ」

「……へ? 冗談、だったの?」

 エレナは驚いたように目を見開く。

「あたりまえじゃない。……とにかく、あんまり気を張りすぎてたら、ここではやっていけないと思うし、ここでなくても苦労することになるわよ。だから、少しずつ……とにかく、やってみなさい」

 ロゼリアはほんの少しだけ、穏やかに笑いかける。
 それを受けて、エレナは溢れてくる何かを押さえ込むように言葉を詰まらせると、

「ありがとう。……なんだ、ロゼリアって、意外と優しい人だったんだね」

「……さぁね。ちなみに、意外とは余計よ」

 ロレリアがそっけなく様子で肩をすくめる。
 すると、エレナは「ああっ、ごめん」と苦笑いを浮べた。
 その時である。

 ~ むっ……すううぅぅ――

 力強い“無音”が――メリッサのお尻から鳴った。

「あらあら。やっぱり、完全に音を消すのは、意外と難しいわね」

「…………」

 エレナが呆然とメリッサを見ていると、

 * 『カチッ、カチッ』

 少年の手元から――、音が聞こえてきた。
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