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第三章

迷える友を探す

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 まだ日が暮れていないことは幸いだった。
 ここまでの印象では王都は治安がよさそうだが、夜に土地勘のない街を歩くのは抵抗がある。
 昨日はルチアと少し出歩いたものの、洋館と宿屋の往復をしただけなのだ。
 
 住宅街の辺りから道なりに進むと、やがて人通りの多い通りに出た。
 イチハ族と呼ばれている日本人風の種族はそこまで多いわけないことに気づく。
 それに人族以外の種族もちらほらと目に入る。

 歓迎されるわけではないので、内川がギルドに行くとは考えにくかった。
 さらに城へ行っても居場所はなく、その方面の可能性も低い。
 今のところ深刻な状況ではないが、困った時はサリオンやウィニーの力を借りた方がよさそうだ。
 まずは彼が立ち寄りそうな店などを中心に探してみよう。

 しばらく通りを歩き回ってみたが、内川の姿は見当たらない。
 探しにきた自分が迷子になっては本末転倒なので、ひとまず洋館に戻った方がいいのかもしれない。

 俺が周囲に注意を向けながら歩いていると、店から出てきた男にぶつかった。
 どうにか避けたものの、向こうがこちらを見ていなかったので、身体が少し接触するかたちになった。

「おいこら! オレが冒険者のアッシュ様だと知ってぶつかりやがったのか」

 ぶつかったというほど大げさなことはないのだが、血の気の多い男のようで険しい表情を向けていた。
 武器は携帯していないものの、兵士のような装備を身につけている。
 相手が本当に冒険者ならば、戦ったところで勝ち目はない。
 
 自分が取るべき行動を決めかねていると、苛立った様子のアッシュが胸ぐらを掴もうとしてきた。
 身の危険を感じて慌てて一歩下がる。
 アッシュは興奮したままだったが、急に何かに気づいたように動きを止めた。

「お、おっと、旅団の関係者か。最初からそう言ってくれよ」

「……はっ?」

 理解が追いつかないままでいると、彼は何ごともなかったように立ち去った。 
 
 遠ざかる背中を見つめながら、胸の辺りに手を伸ばす。
 固く角ばったものが指先に触れて、相手が何に反応したかに気づいた。

 どうやら、ルチアに渡されたものは意外な効果があるようだ。
 アッシュはこれを見て、俺が旅団の一員だと気づいたのだろう。

 遠巻きに町の人が見ていたが、騒ぎが収まったのを契機に去っていった。
 傍観者というよりも何かあれば人を呼ぼうとするような雰囲気だった。
 厄介ごとに関わる気はなくても、狼藉があれば衛兵なりギルドなりに伝えに行くのだろうか。
 あるいはさっきの男がトラブルメーカーで、何かやらかさないか気にしていた可能性もある。

「ああいうのがいるけど、内川は大丈夫かな」

 俺と同じように土地勘のない友のことが気にかかる。
 現時点で手がかりは見つかっていない。

 自分自身が道に迷うといけないので、あまり遠くまで行かずに探し続けたものの、内川を見つけることはできなかった。
 目的は果たせなかったものの、歩き回ることで治安がいいことは分かった(アッシュという男が例外なだけで)。

 遠くの空が夕焼け色に染まり、夜の気配が近づき始めていた。
 方々から漂う料理の匂いは日本では感じたことのないもので、異国情緒を感じた。

「そろそろ、夕食の時間か。ウィニーやルチアを心配させてもいけないから戻ろう」

 俺は街を後にして、洋館に戻ることにした。
 帰りがけにも友の姿を探してみたが、それらしい姿は見当たらなかった。
 もしかしたら、絶対領域で隠れてしまったのかもしれない。

 洋館の手前に着くと外灯が点灯しており、建物の中も明るくなっていた。
 人の気配があるようなので、玄関から入ってこれまでと同じ部屋に入った。
 中に入るとルチアの姿が見えて安心感を覚える。

「結局、見つからなかった」

「ああ、それなんすけど……」

 俺が結果を伝えるとルチアが何かを言いづらそうにしている。
 そのまま部屋の中ほどまで進んで、その理由が分かった、

「えっ、どうしてここに……」

「あたしが外にいたら、ふらっと帰ってきたっす」

「……」

 内川はぼんやりした様子で疲れているようだった。
 そのことは理解できたものの、彼を探すのが徒労に終わったことがむなしくなった。

「……そりゃないって」  

「まあまあ、結果オーライでいいじゃないっすか」

「町では冒険者みたいな男に絡まれるし……何か言ってよ」

 黙ったままの内川を見ていると苛立ちを覚える。
 勝手に逃げ出して、俺は当てもなく探して。
 この世界で生きていくために訓練は必要なのに、自分勝手なんじゃないか。

「お前は訓練だけだからいいよ。俺はサリオンが一緒だったとはいえ、デカいクマに襲われて危ないところだった。ゴブリンを初めて見て生きた心地がしなかったよ」

 ヒートアップしたところで、ロクなことにならないと分かっている。
 冷静になろうとしても、内川のしたことを許せない気持ちだった。
 
「はいはい、そこまで。ウィニーがあたしとサリオンで別々に組ませたことには意味があるはずっす。カイトは大丈夫と判断されて、ジンタはまだ早いと判断されただけのことっすから」

 俺たちをなだめるようにルチアが割って入った。
 
「……そうだとしても」

 言葉がまとまらず、高まる熱気のようなものがこみ上げてくる。
 ルチアの言うように冷静になった方がいいのだろうか。

「ジンタのことはあたしに任せて宿に戻るなり、夕食を食べるなりするっす」

「……分かった」

 俺はルチアの言葉に頷いて、部屋を後にした。


 
 あとがき
 ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
 今話から新章が始まりました。
 引き続き楽しんで頂けたら幸いです。
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