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初夜です
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「海さんって、すごくモテるんですね」
「?」
「皆がさっきから海さんのこと、格好いいって言ってます」
小声で囁かれるその絶賛は、海さんの耳にもしっかり届いているはずだ。
こんなにべた褒めだらけの言葉を囁かれては、人は天狗になってもおかしくないって思うよ。
でも、海さんは違った。
「珍しいだけでしょう。髪の色が、こうですし」
ちょいっと、赤い前髪を指で掬って見せた。
サラリとしたそれはとても鮮やかな赤で、でも人工的なものでないことは一目瞭然だ。
人目を惹いてしまうのも必然的なことだった。
だけど。
「見世物ではありません」
一蹴するようにそう言った。
珍しいってだけで、ジロジロと見られることに、もう慣れてしまっているんだろう。視線は全然気にならないみたいだ。
でも、皆の目が海さんにいってしまうのは、髪の色だけではない気がする……そう心の中で思ったことが、相手に伝わるわけもない。
なのに、なんでだろ?
「だとしても、所詮は見てくれだけで言っているのでしょう」
目の前から答えが返ってきたんだ。
大人を極めると、人の心の中まで読めるようになるなんて、聞いたことないよ。
びっくりして目を瞬かせる僕を置いて、海さんは言葉を続けた。
「それに、私は結婚している身ですから。他人にそう言われたところで嬉しくありません。ただ私は……」
スルリ、と腕をこちら側に伸ばしながら。
「貴方だけが見ていればそれでいい」
そう言って、ナプキンで僕の口元を拭ってくれた。
……だけなんだけど。
「キャー!!」
「うおぅっ!?」
突如、静かだった周りから一気に悲鳴が!
な、何があったんだ?
きょろきょろと辺りを見渡すと、皆がこっちを見てた。
ど、どゆこと?
一方、海さんはそれがなんなのかわかっているみたいで、「はぁ」とため息を吐いたけど。
「……で、貴方は?」
「はい?」
「私のことを、どう思いますか?」
はて。
海さんのことを、僕がどう思っているのか? とな。
「かっこいいなって……」
「思っていますか?」
じっ、と。
まるで詰問されているかのように、緊迫した空気が張り詰めた。
そういや、新居でもこんな風に質問されたっけ。
だからかな。
「う……ん」
少しひるんでしまう。
嘘をついたわけじゃないんだけど。少し、違うかも。
「かっこいいっていうより、大人だなぁって。そう、思います」
海さんは若いのに、なんていうか。余裕が溢れているっていうか。落ち着いてるっていうか。
同じ男性って事もあるからか、そういうところはやっぱり、憧れるよね。
そして理由を聞いた海さんはというと。
「大人、ね」
ほんの少しだけ、目を細めた。
ただそれだけの反応だった。
その真意は、意外だったのかもしれないし、気に入らなかったのかもしれない。
ただ目を細めただけなのかもしれないんだ。
でも、僕にはこう見えた。
とても、寂しそうに。
「では、大人でなかったら格好よくはない、と?」
「うん……へ!?」
「残念ですね。もっと別の感想を期待していたんですが……」
え? 海さん?
なんだか遠い目になってるけど!?
しまった! ぼーっとしてたっ!!
「そうですか。格好良くありませんか」
「ち、違うっ! 今ちょっと、ぼーっとしててっ」
「そうですか。呆然としてしまうほど、貴方は私に興味がない、と」
「解釈が飛んでるよ!?」
話がえらい方向にっ。
どうしてこうなった!?
あわわと頭を抱え込んだ。
「?」
「皆がさっきから海さんのこと、格好いいって言ってます」
小声で囁かれるその絶賛は、海さんの耳にもしっかり届いているはずだ。
こんなにべた褒めだらけの言葉を囁かれては、人は天狗になってもおかしくないって思うよ。
でも、海さんは違った。
「珍しいだけでしょう。髪の色が、こうですし」
ちょいっと、赤い前髪を指で掬って見せた。
サラリとしたそれはとても鮮やかな赤で、でも人工的なものでないことは一目瞭然だ。
人目を惹いてしまうのも必然的なことだった。
だけど。
「見世物ではありません」
一蹴するようにそう言った。
珍しいってだけで、ジロジロと見られることに、もう慣れてしまっているんだろう。視線は全然気にならないみたいだ。
でも、皆の目が海さんにいってしまうのは、髪の色だけではない気がする……そう心の中で思ったことが、相手に伝わるわけもない。
なのに、なんでだろ?
「だとしても、所詮は見てくれだけで言っているのでしょう」
目の前から答えが返ってきたんだ。
大人を極めると、人の心の中まで読めるようになるなんて、聞いたことないよ。
びっくりして目を瞬かせる僕を置いて、海さんは言葉を続けた。
「それに、私は結婚している身ですから。他人にそう言われたところで嬉しくありません。ただ私は……」
スルリ、と腕をこちら側に伸ばしながら。
「貴方だけが見ていればそれでいい」
そう言って、ナプキンで僕の口元を拭ってくれた。
……だけなんだけど。
「キャー!!」
「うおぅっ!?」
突如、静かだった周りから一気に悲鳴が!
な、何があったんだ?
きょろきょろと辺りを見渡すと、皆がこっちを見てた。
ど、どゆこと?
一方、海さんはそれがなんなのかわかっているみたいで、「はぁ」とため息を吐いたけど。
「……で、貴方は?」
「はい?」
「私のことを、どう思いますか?」
はて。
海さんのことを、僕がどう思っているのか? とな。
「かっこいいなって……」
「思っていますか?」
じっ、と。
まるで詰問されているかのように、緊迫した空気が張り詰めた。
そういや、新居でもこんな風に質問されたっけ。
だからかな。
「う……ん」
少しひるんでしまう。
嘘をついたわけじゃないんだけど。少し、違うかも。
「かっこいいっていうより、大人だなぁって。そう、思います」
海さんは若いのに、なんていうか。余裕が溢れているっていうか。落ち着いてるっていうか。
同じ男性って事もあるからか、そういうところはやっぱり、憧れるよね。
そして理由を聞いた海さんはというと。
「大人、ね」
ほんの少しだけ、目を細めた。
ただそれだけの反応だった。
その真意は、意外だったのかもしれないし、気に入らなかったのかもしれない。
ただ目を細めただけなのかもしれないんだ。
でも、僕にはこう見えた。
とても、寂しそうに。
「では、大人でなかったら格好よくはない、と?」
「うん……へ!?」
「残念ですね。もっと別の感想を期待していたんですが……」
え? 海さん?
なんだか遠い目になってるけど!?
しまった! ぼーっとしてたっ!!
「そうですか。格好良くありませんか」
「ち、違うっ! 今ちょっと、ぼーっとしててっ」
「そうですか。呆然としてしまうほど、貴方は私に興味がない、と」
「解釈が飛んでるよ!?」
話がえらい方向にっ。
どうしてこうなった!?
あわわと頭を抱え込んだ。
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