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三角関係勃発! 三角お山の上のトライアングラー‼︎

第6話!

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「へ!? 明日!?」
「はい」

 何が明日かって?
 昼食をユスフィアーデ邸で食べ終えた私に、一時帰宅したエルフィが告げたのは明日、レベル4の素体になったご遺体をフェレデニク地方に返しに行くという話だった。
 身元が分かった的な話はアルフ副隊長が言ってたけど……まさか明日返しに行くなんて……!

「急すぎない?」
「とんでもございませんわ、ご遺体を早く返して差し上げなければ……。ご家族の方のお気持ちを考えますと、今日中にもお返しして差し上げたいくらいですの……。でも、先方にご連絡しましたところ、早くても明日の昼過ぎが良いと……仕方がございませんわ」
「そ、そう……」

 相変わらず優しいエルフィ。
 私がこの世界に来たばかりの時も、今のようにとても深刻な顔で謝られたっけな……。
 …………。
……家族、か……。
 いや、それよりも……。

「エルフィも一緒に行くの? ユスフィーナさんは?」
「町の代表としてお姉様とわたくしで参りますわ。このような時に町を留守にするのは、少し心苦しくもありますけれど……ハーディバル様や騎士団の方々が居りますから……」
「確か護衛でカノトさんも行くのよね」
「はい。一応……何者かの狙いが分かりませんので……」

 ……魔獣を生み出しているかもしれない『組織』の存在が示唆されている中だもの……護衛は必要よね。
 うん、なんて御誂え向きの展開なのかしら、むふふ!

「じゃあ私も行くわ!」
「ミスズお嬢様!?」
「ミスズ様も!? え、いえ、ミスズ様はユティアータで待っていてくださ……」
「そうはいかないわ」

 食後のお茶とお菓子を持って来てくれたマーファリーも、エルフィと同じ顔で驚く。
 が、私には引けない理由があるのよ!

「ユスフィーナさんとカノトさんの仲を進展させるのよ! こんなチャンス、逃す手はないわ!」
「「えええ!?」」

 食堂にいたメイドや使用人たちも驚いた顔になる。
 対して私はドヤ顔よ。
 ふふふ、腕まで組んじゃうわ!

「よく考えてみて。ユスフィーナさんの好きな人は誰? ダダ漏れよね?」
「そ、そうですけれど……」
「カノトさんは傭兵……今はこの町に危険が迫っている……かもしれないから駐在してくれているけど契約が終われば出て行ってしまうのよ! それなら今のうちに精一杯二人の仲を進展させておくの! 二人が例えば恋人……ひいては結婚なんて事になれば? ユスフィーナさんは恋が実るし、カノトさんは出て行かないし最高じゃない!? 誰が損するのよ!?」
「た、確かにそれは………………、……それはそうですわね!」
「エルファリーフお嬢様!?」

 エルフィが顔を上げてぱあっと笑顔になる。
 よし、エルフィが釣れたらあとはこっちのもんよ!

「ここは二人の距離を縮めるチャンスよ! エルフィ、私が必ずカノトさんをエルフィのお義兄さんにしてあげる! 私を信じて協力して!」
「分かりましたわ、ミスズ様!」
「……ではわたしも参ります!」
「え! マーファリー!?」

 突然の同行宣言。
 マーファリーは両手を組んで「数時間とはいえ、ユスフィーナ様やお嬢様たちのお世話をする使用人は必要ですし!」と言い出す。
 いや、そんな子どもじゃないんだから大丈夫よ……。
 ……でも、待てよ……?
 もしかしたらマーファリー、そしてエルフィにもいつどんな運命の出会いがあるか分からないわよね?
 もしかしたら、そのフェレデニク地方で二人に運命の相手が居たりするかも!?
 よーし、その可能性の為にも!

「それもそうね、協力者は多いに越した事ないわ!」
「では、マーファリー、同行をお願いしてもよろしくて?」
「はい、お任せください!」

 食堂はあっという間に『ユスフィーナ様とカノト様をくっつけ隊』と化した。
 レナメイド長や、他の使用人たちも「頑張ってきてください!」と応援してくれる。
 そうよね、みんなユスフィーナさんが好きな人と幸せになるのが一番いいと思ってくれてるのよね!?
 盛り上がってきたー!

「あ、いけませんわ。そろそろ庁舎に戻りませんと……」
「今日は帰って来れそうなの?」
「入浴に戻って参りますわ。お姉様も、シャワーは浴びたいとの事でしたから……わたくしが庁舎に戻り次第、交代で帰ってくると思いますわ」
「そう……。じゃあ、計画を色々立てておくわ!」
「はい! よろしくお願いいたしますわ!」

 まだまだ後処理が残っているのね。
 まあ、地面は元に戻ったけどあれだけ派手に割ったりなんだりされちゃあねぇ……ほんと、なんて恐ろしい奴らなの……。
 ハクラの結界のおかげで町に被害はなかったけど、今後の警備とか、それに割く予算の再検討やらで庁舎は今大変みたい。
 あんな事、そうそうある事じゃないんだろうけど……レベル4まで現れちゃあそうも言ってられないのよ。
 この動きは他の大都市や王都にも広がっている。
 レベル4か現れたって事は、それだけとんでもない影響を与えたって事。
 エルフィが庁舎に戻って行くと、顔の疲れたユスフィーナさんが戻ってきた。
 食事もそこそこにお風呂へと行ってまた庁舎に戻るつもりみたい。
 これは、ユスフィーナさんに騎士塔で聞いたターバスト氏へのお断り方法を伝えるチャンスよね……でもお風呂って事は、ゆっくりしたいわよね……お風呂くらい。
……うーん……あ、そうだわ!

「お湯はご用意してございます」
「ありがとう、レナ……着替えを用意しておいてくれる? それと、エルフィに聞いていると思うけど明日、ご遺体を返しにフェレデニク地方へ行きます。予定通りならば夕方には帰れると思うので、その準備もお願いしておいていいかしら?」
「かしこまりました」
「ユスフィーナさん! 私も一緒に入っていいかしら」
「え?」

 ユスフィアーデ邸はどこの部屋のお風呂場もだだっ広い。
 広いお風呂って寒いっていうけどそこは魔法の国よね、全然そんな事ないの。
 私は魔力の練習でシャワーが多いんだけど日本人としてはやっぱり浴槽に浸かりたい。
 そして、誰にも邪魔されずにユスフィーナさんの本音を聞き出すにはやっぱり裸の付き合いでしょ!
 ユスフィーナさんが今カノトさんに対してどんな気持ち……どのくらいの好感度なのかを確認も出来る!
 一石二鳥……いえ、三鳥よ!

「私のいた世界……私の生まれ育った国には、裸の付き合いって言葉があってね! 仲良くなりたい人と一緒にお風呂に入ったりもするのよ」
「まあ……、そのような風習が? ……興味深いですわ……。……それに、とても嬉しいですわ、ミスズ様……! ええ、ご一緒いたしましょう」

 あの疲れ果てた表情が、一瞬で明るい笑顔に変わる。
 うーーん! エルフィとはまた違った可愛い人だわー! ユスフィーナさん!

「ミスズ様がいらしてから、私、是非一度ちゃんとお話してみたかったんですの……! 歳も同じと伺っていましたから……色々お話いたしましょうね!」
「ええ!」

 ……………………同じ歳……。
 あれ、なぜかしら……悲しくて前が見えない。
 同い歳なのに、この差は一体……。
 が、頑張るのよ私!
 せっかくユスフィーナさんの乗り気のおかげでトントン拍子に事が進んでいるんだもの!
 確かに部屋の広さもお風呂場の広さも私の部屋よりあるけど、当主なんだもの当たり前よ!
 胸の大きさとか、諸々の仕草とか気品とか肌の艶とか、そんなもん今更でしょ!
 私もユスフィーナさんも体にタオルを巻いて、いざ!

「同性同士とはいえ、人様に肌を見せるのは恥ずかしいですわね」
「そ、そうね」

 掃除の行き届いた綺麗なお風呂場。
 プールかよ、と聞きたくなるような浴槽。
 体を洗いながら、本来の目的その1よ!

「ねぇ、ユスフィーナさんは……」
「そうですわ! ミスズ様、よろしければ私の事はユフィと呼んでくださいませんか?」
「ユフィ?」
「私の愛称ですの。……伯父様が亡くなって、母と離れて暮らすようになってから……誰にも呼んで頂く機会がなくなりましたの……」
「そうなのね……じゃあ、私の事もみすずでいいわよ。あ、なら敬語も無しにしましょう、ユフィ」
「本当ですか? ありがとうございます! ……あ………………ありがとう、ミスズっ」

 …………本当に同い歳かしら?
 なに、このクソ可愛い生き物……!!
 可愛い、可愛い……かわいいんじゃあああ!
 でも、そうか……そうよね、領主なんてお堅くて大変なお仕事をしてるだけで、中身は私と同じ二十四歳の女なのよね……。
 友達と遊ぶ時間もないだろうし、友達を作る事も出来ない。
 政治家みたいなものだから、どこに敵がいるかも分からないんだ……。
 …………なんて、偉いのかしら……っ!
 考えたら可哀想だし、本当に凄い子だし、泣けてきちゃう!
 中身はただの可愛い女の子なのに……。

「えっと、では、ミスズのお話を聞かせてくださらない? ミスズの世界の事もお伺いしたいわ」
「私の!? い、いやいや、私の世界の話は……」

 お父さんやお母さん……。
 いや、それよりも!

「私より、ユフィの話が先よ! 憧れのカノトさんと再会してどう?」
「え!? あ、いえ、え? ……な、そんなっ!」

 なんてあからさまに動揺してるの可愛すぎるでしょ。
 まあ、そのお風呂にいるからだけではない赤い顔を見る限り、大体分かるわ……。
 そうよね、初恋相手があんなイケメンで『三剣聖』じゃあそうなるわよね。

「やっぱり子どもの頃とは全然違うんじゃないの?」
「…………いえ、そうでもありませんでしたわ」

 おや、意外な答え。
 でも、タオルを握り締めたユフィは頰を染めながら……。

「一目で分かりましたもの……」

 うーーーん、最高かな!?
 ごちそう様ですよ!!

「私の事はやはり覚えておいでではないようでしたけれど……」
「そうなの?」
「はい。……ですが、変わりなくお優しく……どことなく不器用なままのご様子で……それが、なんだかとても嬉しかったですわ」
「そ、そうなのね」

 むっふぅー! 過剰摂取で死にそう!
 これはユフィのカノトさんへの好感度は相変わらずMAXね!
 憧れと恋心は色褪せぬまま!
 むしろ、大人になった事でより濃密に!
 きゃー! いい、いいわ! いい感じよー!

「って事は、カノトさんともっと親しくなりたいって思ってる?」
「そ、それは……。……いえ……今は……私は、ユティアータの事を一番に考えませんと……。私のせいで亡くなってしまった方がいるのですから……、一人前になるまで浮ついてなどいられませんわ」
「ユフィ……」

 うう、なんて真面目で健気なの。
 昨日とは打って変わって逞しい。
 ……ちゃんと前を向いてまた歩き出したのね……。
 うーん、カノトさんへの気持ちはあるけど、ユティアータの状況が状況だものね……けど、そんな事は関係ないわ!
 カノトさんがユティアータ領主の旦那になれば、ユティアータは『三剣聖』を一人ゲットしたも同然!
 つまり!

「それは違うわ!」
「え?」
「よく考えて! カノトさんは『三剣聖』の一人! そんな人がユティアータの領主の旦那さんになってごらんなさいよ! 町の人たちは大喜びするわよ!?」
「え!? え!?」
「つまり! カノトさんとユフィが恋人、ひいては結婚する事はユティアータのためにもなるのよ!」
「……え、え、ええっ……で、で、ですが、今はそそそそそそのような状況では……っ」
「なに言ってるの! こんな時だからこそよ!」

 あからさまに顔を赤くして狼狽えているけど、ここでがっつりユフィに『カノトさんは攻略対象』って事を教えておかないと!
 本人のやる気が一番大切だものね!

「そ、そう、でしょうか?」
「少なくともエルフィや屋敷のみんなは大歓迎だったわ」
「な、なんでそんなお話なさってるんですかっ」
「みんなユフィの幸せを願ってるからよ」
「……………………」

 そう言うと感極まった表情で口元を指先で覆うユフィ。
 そんな事でこんなに喜ぶなんて……!
 さすがエルフィのお姉さんね……可愛い!

「ユティアータのためにも、私自身が幸せを望んでも良いのでしょうか……」
「そんなの当たり前じゃない。私の世界では、人を幸せにするにはまず自分が幸せになるって言葉があるのよ!」

 主にゲームとか漫画とかアニメとかで。

「……人を幸せにするには、まず自分から……」
「そう! 幸せは人それぞれだけどね、それでも、幸せのなり方を知っているのといないのじゃあ、知ってる方がやっぱり説得力が違うでしょ?」

 まあ、リア充死ね! ってやつも中にいるかもしれないけど。
 それは逆恨みというやつなので気にしない。

「そ、そうですわね……」
「というわけでユフィはカノトさんにガンガンアプローチすべきよ!」
「……ア、アプローチですか!? ……で、ですが、そんな、私、殿方とお付き合いなどした事がございませんし……!」
「大丈夫! 私に任せて! しっかりサポートするから!」
「ミスズ……」

 また感極まった表情のユフィの瞳のキラキラ具合に若干の罪悪感。
 よもや私がただ欲望のままに楽しみ半分趣味半分、百パー自己満足で自分のためであるとは思うまい。
 くっ、ごめんねユフィ! でも、あなたの幸せが私の楽しみである事は本当よ!
 めっちゃ幸せになってね!

「……わ、分かりました……が、頑張ります……。……ですが、カノト様のお気持ちが一番大切ですもの……。もしカノト様に想いを寄せる方がおいででしたら、潔く諦めますわ」
「ん、そ、そうね……」

 しまった、そっちの可能性もあったのか!
 ……そ、そうよね、いくらユフィが乙女ゲーの主人公みたいだからって、本当に乙女ゲーな訳ではないし……。
 そうか、その辺りも調べないといけなかったか……。
 あとでやらなきゃいけない事書き出してまとめておこう。

「じゃ、じゃあまずはターバストさんへしっかりお断りを入れて諦めてもらうところからね」

 うん、当初の目的その2よ!
 レーク副隊長さんに聞いた、ターバスト氏対策を伝える!
 ハクラの言う事が本当ならドラゴンはかなり一途な生き物。
 伴侶は生涯たった一人。
 そこは純粋に素敵だと思うけど、手に入らないなら道連れとか怖い事も言ってたからなー……。

「……どうしたらいいのでしょうか……」

 髪を洗いながらかなり深刻そうなユフィ。
 私もゴシゴシ髪を洗う。
 はぁ、相変わらずお高い、いい香り……。
 ユスフィアーデ邸の石鹸もシャンプーもコンディショナーも絶対高級品なんだもん……私の髪や体も最近スベッスベのツヤッツヤよ。
 心なしか肌色もよくなったし、洗顔石鹸が良いものだからなのか、顔にも張りが出てニキビも消えたし新しくできないし……。
 いいなぁ、これ、帰るとき持って帰りたい。
 ハッ! じゃ、じゃなくて!

「実は今日レーク副隊長さんっていう人に聞いたんだけどね……」

 なんというか、ターバスト氏のお父さんがドラゴン信奉者である、らしい事。
 そのお父さんがいくら息子の選んだ相手とはいえユフィのような純血の人を嫁として認めないかもしれない。
 なので確認してみれば、と助言してくれた事を話す。

「……クレイドル様ですか……それならもうお許しはもらっていると何度か書いてありましたわ」
「えっ、マジ?」
「はい」

 マジか……!?
 オーケーもらってんの!?
 お、おう……そうか、じゃあ本格的にどうお断りしていいやら……。

「明日、改めてお会いしますので直接お断りいたしますわ」
「なら、私も付いて行くわ。役に立たないかもしれないけど、側にいるから頑張ってお断りしましょう!」
「! ミスズ……あ、ありがとう……とても心強いですわ……」

 よーし、まずは第一イベント!
 ターバストさんにお断りを入れる! これね!
 ……それに、ユスフィーナさんの事を愛称で呼べるくらい仲良くなれたのは僥倖!
 というか、ユフィが実はこんなに可愛い人だったなんて知れたのも良かったわ。
 カノトさん、ユフィは一途なだけでなくこんなに可愛いのよ!
 男の人とお付き合いした事ないなんて、すっごい親近感だし~!

「明日はよろしくお願いします! さあ、お湯に入りましょう。……あまり長くお喋りしていると、戻るのが遅くなるのよね……残念だわ……もっとたくさんお話したいのに……」
「今回の件が片付いたらゆっくりお話しましょうよ! そうだ、お茶会とか!」
「まあ、素敵……!」

 こうして瞬く間にお風呂タイムは過ぎ去った。
 ユフィの新たな一面。
 本当は私と同じ歳の、ただの女の人。
 そんなユフィが好きな人と幸せになるのの何がいけないのよ!
 私が必ずカノトさんとの仲を取り持ってあげるから、頑張りましょうね!



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