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7話

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 その数日後。

「え、またお城に、ですか? 私とリオハルトが?」
「ああ。父の言いつけなのだが正直私も暇ではない。学園の生徒会が今一番忙しい……! 間もなくクリステリア王女の誕生日だからな。誕生日パーティーを学園でやるとか言い出しててんてこまいだ」
「ま、まあ……お疲れ様です、お兄様……」

 この国——コバルト王国は王族が多い。
 国王オールディ・コバルト陛下は女性好きで、側室を百人近く抱えておられるからだ。
 そこに貴賎がないのは、ある意味平等で良いことなのだが……なにぶん面食いであらせられるため、身分の代わりに美女であれば優遇されるべきという美醜が重要視され始めている始末。
 平民から後宮に入った妃が産んだという、第三王女のクリステリア殿下はお兄様と同い年で、貴族学園では常に大暴れ——失礼、その権威を存分に振るっていると聞く。
 主に、お兄様の愚痴で。
 クリステリア王女の誕生日は一ヶ月後で、今からパーティーを準備するとなるとかなりの無茶振り。
 学生内で招待客を固めるとしても、手配諸々が相当に大変だろう。
 お兄様は生徒会役員なので、その皺寄せが全部くる。
 婚約者候補筆頭と言われているけれど、お兄様のクリステリア王女殿下嫌いは本人の耳にすら入っているほどらしく、特に実家、私の前だと悪口と愚痴が止まらない。
 あんな女と結婚だなんで死んでもごめんだ、というのはもはや口癖に近いかもしれない……。

「なのでとても腹立たしいのだが、登城する時は私は同行できそうにない。父様とお前を二人だけで行かせるのは不安しかないのだが……」
「大丈夫ですわ、お兄様。リオハルトも一緒なのですから」
「う、む……」
「それに私ももうすぐ十六です。大人です! なにも問題ございません!」
「う、うむ……」

 それに前世の記憶のせいか、お兄様ですらたまに「子どもだな」と思う時がある。
 四捨五入したら精神年齢お兄様の三倍よ?
 もちろん、かなり実年齢に引っ張られているところもある。
 この辺りは転生者あるあるみたいなので、お兄様には「今の自分の気持ちを大事にしなさい」とアドバイスされた。
 こんな素敵なお兄様だから、私もこっそりクリステリア王女とお兄様の結婚には反対だったりする。
 だって、お兄様には幸せになってほしいもの。

「では私は学園に戻る。無理はしてはいけないぞ」
「はい、大丈夫です」

 お兄様は寮住まい。
 それなのにこうして暇を作って実家に戻ってきて私の様子を案じてくれる。
 でも、お兄様こそちゃんと休んでほしいわ。
 あんなに忙しなく生きていたら前世の私のように、過労死してしまう。
 今世はメイドたちがある程度——嫌そうにしながらも——頼めば手伝ってくれるから、悪露も早めに終わった。
 前世は産後の肥立が悪くて体力も戻らないまま、痛みと疲労でずっとイライラしていたし悲しくて涙が止まらなかったっけ。
 今思うと産後鬱も発症していたのだと思う。
 私があんなに苦しんでいたっていうのに、郁夫は近藤さんと不倫をお楽しみだったみたいだけど!
 いやー、こんな形でとはいえ、真実を知れて本当によかったわ!
 晴翔——リオハルトまで転生してしまったのは本当に心苦しいけど、晴翔を郁夫のところに遺していたと思うと気が気でないもの。
 もうあの二人……郁夫は、この世界でなにか困ったことがあっても私、絶対助けてあげないんだから!
 前世の妻ってことも、絶対喋らない!
 もう関わりたくない!

「アンジェリカ! なにをぐずぐずしている! 城へ行くぞ!」
「え! お、お父様!? 今からですか!?」
「当たり前だろう! そのままで構わん! 早く馬車へ乗れ!」
「は、はい」

 使用人とほぼ変わらない服で、追い立てられて馬車に乗る。
 困ったな、リオハルトのおむつや着替えくらい持ってきたかった。
 最悪城の方に頼むしかないわ。
 お父様に逆らってリオハルトに手を挙げられでもしたら、大変だもの。
 リオハルト。
 今度こそ必ず大人になるまで育ててみせる。
 あなたが幸せになるところを見るまで、お母さんは死んだりしないからね。
 今度こそ……。

「あの、お父様、本日はお城になにをしに行くのですか?」

 本来であれば家を出る前に聞くべきなのだが、お父様がこの性格なので馬車に乗って落ち着いてからようやく聞けた。
 けれど、お父様は私をきつく睨むと「お前は口を開くな」とおっしゃる。
 身の程を弁えろ、お前はもう我が娘、トイニェスティン侯爵家令嬢ではない、と。

「まったく! 貴様が妊娠などしなければガリエ殿下の婚約者に据えられたものを! 役立たずめ!」
「も、申し訳ございません……」

 らしい。
 ガリエ殿下とはオールディ陛下の四妃、東の妃の御子息。
『天性スキル』、【聖結界】をお持ちの元伯爵令嬢で、お母様は不明だが貴賎にこだわらない後宮で一番身分が高く美しく聡明な国王陛下お気に入りのお妃様。
 正妃と言っても過言ではない方らしい。
 ガリエ殿下は今もっとも王太子になる可能性が高い王子殿下。
 父は歳も近く、王太子になる可能性の高いガリエ殿下と私の婚約話を進めていた。
 けれど横やりも多く、時間もかかって、けれど私が十四になる少し前にまとまりかけたらしい。
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