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第六章:
レディ・グレイの肖像⑩
しおりを挟む《――そのようでは、ある。が、はっきり読み取る前にここへ封じられてしまった。あれを媒介にしてな》
『まー』
悔しそうなテレパシーを受けて、マンドラゴラが再び移動する。ちょこちょこっと走っていった先には、暗い中でもうっすらと輪郭が分かる岩? みたいなものが置いてあった。周りがはっきり人工物とわかる石畳で囲まれているので、その一角だけ妙に浮いている。
《――今は沈黙しているが、月露の結晶らしい。夜ごとに下手人が魔力を込めているから、この捕縛呪も薄れることがない》
「なるほど、じゃああれを壊せばいいんですね!」
「だからちょっと待とうって。今の話ちゃんと聞いてたかい?」
「うん、聞いてたよ? 媒介になってるもの壊せば、呪いとか結界とかって無効に出来るでしょ」
本編中にも何度か出てきた理屈である。媒介は要するに、魔力を望んだとおりの形にするための部品だ。複雑な術になるほどたくさん使わないといけないが、今回は大きなものがひとつだけ。りっくんとわたしが二人がかりならあっという間だと思うんだけど。
そんな気持ちで首をかしげてみせたところ、騎士さんは何故か微妙な顔になって横を向いてしまった。軽く頬をかきながらぶつぶつ呟いているのが聞こえる。
「……だからさぁ、その気もないのに何でそんな無防備な顔するのかな……可愛すぎる……」
「え、なんか言った??」
『にーにー、どしたんさ~?』
「何でもない。気にしなくていいから。――で、そのシンプルな作戦がダメな理由なんだけど」
イオンとそろって目を瞬かせていると、軽くため息をついて手を振ったりっくんが明後日の方を指さした。部屋いっぱいに展開した魔法陣の、いちばん外側の辺りだ。
「陣の外縁、ちょっとおかしいだろ? 飛び出した線が壁の中に入り込んでる」
「……あ、ほんとだ。ほつれたみたいになってるね」
「たぶんこの術、バンシー以外のものも閉じこめてるんじゃないかな。……暖炉からここに潜ったときのこと、思い出してごらんよ」
言われて素直に記憶をたどってみる。ええと、確か廊下で物音を聞いて、部屋の中を探してたら暖炉の壁の中からで。りっくんが隠し通路を開くと同時にマンドラゴラが転げ出してきて――あ。
「ただでさえ珍しいのに、国境で盗まれたのと同じ種類の子がこんなとこウロウロしてるのはおかしいって話した!」
「そういうこと。多分、ここの地下に一時的に保管されてるんだと思う。
魔力が強い種族ばかり集めているんだとしたら、強力な捕縛呪でがんじがらめにしてあっても不思議じゃない。無理やり破ろうとすれば強烈なダメージをくらうような仕組みの――そんなものの要を不用意に破壊したら、どうなると思う?」
そうか、そりゃそうだ。盗んだ目的と方法は分からないにしても、それだけ労力をかけて集めてきたものに逃げ出されたらシャレにならない。損をするだけじゃなくて、当の犯人だって危険にさらされるだろう。なら、絶対そんなことが起こらない仕組みを作っておくのが一番だ。
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