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二章 二人の世界

19 二人の涙

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「どうして声掛けてくれないのよ~」
「そっちこそ~」

 とある教室の中で、ロングスカートのスケバンと変形学ランのヤンキーが言い争っている姿があった。

「男の田中君から声掛けてよ~」
「勇気出して振り向いたんだから、小林さんが声掛けてよ~」

 ここは純菜と蒼正の夢の中。お互い不甲斐無い事をしたからか、何故かヤンキーファッションで夢の中で集合したのだ。

 実は昨夜の夢で、どちらが言い出すかでジャンケンしていたのは、現実世界で会おうと約束すること。負けた蒼正から誘うと、純菜も同じ事を言おうとしていたので二つ返事で放課後に会う事になった。
 しかし、面と向かってしまうと何も言えず。イジメ被害者だから人見知りが爆発した事も理由だが、「夢で会いましたよね?」と相手に尋ねるなんて更にハードルが高い。

 人気ひとけの無い神社を選んだのだから間違い無いと思っていても、どちらも勇気が出無くて声を掛けられなかったのだ。

「挙げ句の果てには帰っちゃうし……」
「ちがっ。トイレ行っただけたし。戻ったら居なかったのそっちだろ~」
「五分は待ったし。それに何も言わず坂を下りて行ったら、帰ったと思うでしょ~」

 どちらが悪いかで喧嘩になってはいるが、お互い悪いと思っているからそこまで激しい言い争いにはならない。なんなら友達と喧嘩なんて、何時いつ振りかも分から無いのでちょっと楽しそうだ。
 その顔に気付いたというか、文句のネタに困ると、二人して照れながら頭を掻いてる。

「もう止めよっか」
「うん。僕たちには向かないね」

 すぐに和解すると、もう現実世界の住人で間違い無い事は今日の神社で決定付けられたので自己紹介する流れに。どちらが先かで少し揉めたが、昨日のズルの件もあるから純菜からする事になった。

「わ、私は、堀口純菜。北高の一年です。宜しくお願いします」
「僕は吉見。吉見蒼正。西高の一年です。宜しくお願いします」

 純菜に続いて蒼正は自己紹介をしてペコリと頭を下げた。そして頭を上げると、何故か純菜が目を見開いて口元を手で覆っていた。

「え? 何その反応……嘘なんて吐いて無いよ?」
「ビックリして……」
「驚かれる程、変な名前じゃ無いと思うけど」
「違うくて……」
「うん。ちょっと落ち着こっか。座ろ?」

 純菜の目からツーッと涙が落ちたからには、蒼正は気持ちを汲んで机と椅子を移動して座らせる。そして飲み物も用意してしばらく待つと、純菜は涙を拭って蒼正の顔を真っ直ぐ見た。

「吉見君。私の事、覚えてる?」
「いや……どっかで会ったかな?」
「小五の時……南小で……」
「小学校の同級生? 堀口なんて……あっ、すぐに引っ越した子??」
「そう! その子! 同級生にイジメられてる時に助けてもらった堀口純菜です!!」

 この話は、二人が小五になって初めてクラスメイトになった事が始まり。小四の後半からイジメられていた純菜が、クラスメイトの男子から悪口を言われていたから、その頃は活発で人気者だった蒼正が助けたのだ。
 それからはクラスにイジメが無くなり、蒼正も純菜の事を構っていたから、純菜は恋心を持ったのだ。

 約四年振りに再会した二人は、蒼正はバツの悪そうな顔をして、純菜は涙ながらの再会となるのであった。


「なんかゴメンね。こんなんになっちゃって」

 純菜があまりにも自分の事をヒーロー視するので、現在イジメられている真っ只中の蒼正は申し訳無くて仕方が無い。

「そんなこと! あ……そっか。ヤンキーファッションだからか……」
「もうお互い顔も制服も見たんだから、普通の格好にしよっか?」
「そうだね……」

 どちらも強そうな雰囲気の格好なので純菜がキラキラした目で見るのかと、蒼正はヤンキーの仮面を剥ぎ取り、根暗で前髪の長い男子高校生に戻った。
 それに続いて純菜もスケバンの仮面を剥ぎ取り、根暗で前髪の長い女子高生に戻る。

「「フッ……」」
「「フフッ……」」
「「フフフフフ……」」

 本当の姿を見せ合った二人は、情け無いやら不甲斐無いやら。何が可笑しいのか、しばらく気持ち悪い笑い方をするのであった……


「ゴメン。ひとつだけ聞かせてくれない? 話すのも嫌な事だと思うけど……」

 純菜の質問は、あの活発で人気者だった蒼正がこんな根暗なイジメられっ子になっている理由。どうしても信じられ無いから、何度も謝罪して聞き出そうとする。

「そんなに謝ら無くていいよ。自業自得だし」
「自業自得?」
「うん。小学校のノリでイジメを止めたら、皆から寒いとか言われてね。そっからね」
「あぁ~……中学校は、なんか空気変わったもんね。有りそう……」
「そもそもなんだけど……」

 蒼正は口が重くなるが、この際だからとカミングアウトする。

「堀口さんを助けたのも、アレ、憂さ晴らしみたいな所があったんだ」
「どういうこと?」
「ちょうど五年生になる前だったかな? 両親が離婚してね。名字も変わるし苛々してたの。そこにイジメしてるヤツが居たから、こいつなら殴っても自分が非難される事無いと子供ながらに計算しちゃってね。
 それでヒーロー扱いされて、余計調子に乗った所があるんだよね~……堀口さんの事なんてこれっぽっちも考えて無かったの。いい思い出を台無しにしてゴメン。こんなヤツだから、見透かされてイジメられるんだよ」

 蒼正は喋り終わると、下を向いて純菜の非難の声を待つ。すると隣に来た気配がしたので、殴られる事を覚悟した。

「……え?」

 しかし、純菜に抱き締められたので、蒼正には何がなんだか分から無い。

「それでもだよ。私の事を助けてくれた。親の離婚なんて経験したら、誰でも荒れるって。それなのに、そんな顔ひとつも見せなかったじゃない? あの後も私の事、気に掛けてくれたでしょ? 吉見君は、すっごく優しい人なんだよ。優しく無かったら、一緒にイジメに参加してたって。吉見君……今も吉見君は私のヒーローだよ」
「止めてくれ…よ…うっうう……」

 蒼正には様々な後悔があったのかも知れ無い。それを純菜に全て優しく包み込まれたのだから、自然と涙がこぼれ落ちるのであった……
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