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【前編】女神だって恋がしたい♡

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「セイラミア、お前をこの王国から追放する!!」

 私は今、ウィザビラ王国の王子によって王国から追放されようとしていた。

「えーと……、どうしてそうなったのでしょうか?」

「やはり、わかっていないようだな。なら、頭の悪いお前にもわかりやすいように教えてやろう」

「――では、お願いします」

 愚かな話を聞かされるだけだと思うけど……

「それは、お前が令嬢として王宮に出入りするようになってから、この王国には不幸がつきまとっているからだ!!」

「そうですか――」

 いや、それは王子が悪政をし続けているからだよね。

 そういえば、最近、出所不明な占い師から妙な助言を受けていたような気がする……

「よって、俺はこの王国のために、お前を追い出さねばならなくなった」

「わかりました」

「俺も心を痛めていることを理解――、今、何と言った?」

「――ですから、わかりましたと申し上げました」

「そうか!! ようやく俺の話をわかってくれたか!!」

 普段は令嬢として過ごしているが、私の正体は実はウィザビラ王国の運勢を引き上げている女神の化身。
 
 しかし、王子が悪政ばかりを行うため、正直、この王国を護ることに私は疲れ果てていた……

 王子が自ら追放してくれるなんて願ってもない。

 私は喜んで違う王国に移動することにした。

「それでは、長らくお世話になりました」
 
「長い間、ご苦労で――」

 王子の台詞セリフを最後まで聞くことなく、私は早々に王宮から立ち去った。

   ◇

「あーー、身体が軽い!」

 王子が王政に口出しするようになってから、ウィザビラ王国の重荷が肩にのしかかっていて、毎日身体がしんどかった。

 それが、王国を出た瞬間、軽くて軽くて――

 私はスキップをしながら、隣の王国へと向かった。

 私が向かっているクリストーラ王国は、不毛の地と呼ばれる王国ではあったが、その地を統治している王と王子はとても心優しい性格をしているという噂を耳にしている。

 民の生活は厳しいが、王と王子も節制をしているのだからと民もぜいたくはせず、王家と民との信頼関係は厚いと聞いている。

「同じ苦労をするなら、やっぱり、応援したくなるようないい人達のために苦労したいよね」

 掛かる労力は同じかもしれないが、どうせなら、王子の尻拭いよりも、がんばっている人達のために私の力は使いたい。
 
 そう思いながら、私は新たな地へとおもむいた。


 王国からは悪役令嬢扱いで追放されたが、幸い家族や使用人は私のことを良く思ってくれているので、仕送りを受けながら、新しい地でも何不自由のなく毎日を過ごせていた――

「セイラミアさん、今日もいい天気ですね」

「はい、今日は洗濯物がよく乾きそうです」

 新しく住み始めた土地の人々はとても好意的な人が多かった。

 ウィザビラ王国では好戦的な王子の悪影響か、ギスギスした人間関係が多かったので、この王国に来てからは気持ちがとても安らいでいた。

 また、女神の化身である私の影響でこの辺りの運勢が上がったため、わずかな土地の栄養でも育つ新種の作物が発見されたり、適度な日照りと雨が繰り返されることで土地がうるおったりと、良い兆候ちょうこうが続いている。

 生活に余裕が生まれたことで、より優しい気持ちになれているのもあるのかもしれない――

「大変です!! セイラミアお嬢様!!」

「どうしたの、サービア?」

 最近、侍女を雇ったのだが、その侍女のサービアが何やら慌ただしく私のところへと駆け寄って来た。

「フェリック王子が、セイラミアお嬢様を訪ねて来られました!!」

「フェリック王子が?」

 フェリック王子はクリストーラ王国の皇太子。

 文武両道の才を備え、困難にあっている民の元へは自ら足を運び問題解決に努めているという話を聞いたことがある。

「フェリック王子が心配するような問題は起こしてないと思うんだけど……」

 むしろ、私がこの地に来たことで運勢が上がり始めたから、フェリック王子の心配事も減ってきているはずなのだが――

 私は王子を待たせるわけにはいかないと思い、急いで玄関のドアを開けた。

「フェリック王子、今日はこのような辺地へんちまで来られて、どうかされましたでしょうか?」

「突然の訪問、申し訳ございません。何か特別なことがあったというわけではありませんので、ご安心ください――」

 あれ?

 何か問題があって、ここまで足を運んだんじゃないの?

「ただ、あなたの身の回りでは、非常に良いことが起こるという噂を耳にしまして――、今日はここまで来させていただきました」

 やってしまったかもしれない……

 ここの人達があまりにもいい人達ばかりだったので、ついつい、運勢を上げ過ぎてしまった可能性がある――

 女神だからといって、何でもしていいわけではない。

 世界をよりよい方向に導く責任はあるが、運勢を上げ過ぎることで、人々が怠惰たいだになってしまった場合など、運勢を上げることが、かえって世界にとってよくない傾向になることもある。

「私はこの王国で苦労している民に、少しでもよい生活をしてもらいたいと思っています。そのため、この地で女神と呼ばれているあなたの力をお貸しいただきたいと思いさんじました」

 ……私、女神って呼ばれてるの?

 確かに女神の化身として地上にいるわけだから、呼び始めた人はかなり感のいい人間なのかもしれない――

 それにしても、ウィザビラ王国の時とは、随分と扱いが違うわね。

 ここに住んでいる人達の暖かい心遣いを思い出ながら、私は微笑んだ。

「美しいです……」

 不意にフェリック王子がそんな言葉を漏らした――

「え?」

「あ、いえ、本当の女神のように美しい笑顔だと思っていまい、つい……」

「なっ、なっ――」
 
 急に褒められたので、私は顔を真っ赤にして言葉を詰まらせた。

「本当のことを言うと、私はあなたと婚約を結びたいと思ってここまで来たのです。神頼みかもしれませんが、それで少しでも民が豊かになればと考えていたのですが……、まさか、噂の女性がこれほど美しい女性だったとは思いませんでしたので――」

 ボン!ボン!
 
 さっきから何度も顔が爆発している。 

 今までそんなこと両親にしか言われたことがなかったんだけど……

「――無理を承知でお願いしたいのですが、どうか私と結婚を前提に婚約をしていただけないでしょうか? 婚約期間に、どうしても結婚は難しい判断した場合は、遠慮なく婚約解消をしていただいても構いませんから……」

 そう言って、フェリック王子は深々と頭を下げた。

「フェリック王子はズルいですね……。そこまで言われたら、簡単には断れませんよ……」

 私は思わず微笑した。

「そ、それは、私と婚約していただけるということでしょうか?」

 フェリック王子が頭を上げて、私に確認する。

「はい、こんな私でも、よければ――」

 私はそう言って右手を差し出した。

「あ、ありがとうございます!!」

 フェリック王子は歓喜の声を上げて、私の右手を両手でギュッと握った。

 ホント、調子が狂う……

 胸中でそんなことを呟きながらも、フェリック王子から好意を持たれることに嫌な気持ちはなかった。


 こうして、悪役令嬢と思われてウィザビラ王国からは追放されてしまったが、クリストーラ王国の皇太子フェリックの婚約者として、私の新たな人生が始まった――
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