こころ・ぽかぽか 〜お金以外の僕の価値〜

神娘

文字の大きさ
57 / 760

57、そろそろ行こうか 斗真side

しおりを挟む
ピロン
透からメールだ。

〈おはよう。
病院に来れそう?〉

〈奏くんは行けるって言ってるけど、不安でちょっと泣いちゃった。
今は落ち着いてる。〉

〈そうか、分かった。家出る時連絡してくれ。〉

〈分かった。〉

透とのメールのやり取りを終えると奏くんが何か言いたそうな目で見つめている。

「どうした?なんかあった?」

「病院…いつ行くの?」

「うーん、9時半くらいかな。短い針が9と10のちょうど真ん中になったら行くよ。」

掛け時計を指さして教えると、頷いた奏くんはじっと時計を見つめている。




「まだ時間あるし、テレビ観る?」

リモコンを渡すとチャンネルを色々変えた。

「このアニメ知ってるの?」

アニメを真剣に観ていたから知ってるのかと思ったが、そうではなかったみたい。

「斗真さんは知ってる?」

「知ってるよ。俺も子どもの時よく観てたな。」


1つのアニメが終わるとまた違うアニメが始まった。この時間は子ども向けの番組が多いんだな。

飽きることなくしっかりと最後まで観ていた。

_______________

そろそろいい時間かな。

「奏くん、そろそろ行こうか。」

さっきまでテレビを観て少し元気になった目も今は緊張と不安で床をじっと見つめている。

「何か持っていく?」

ダンボールから何かを取り出す。
ポーチ?
そういえば服買いに行く時も持ってたな。

「何が入ってるの?」

「お金…」

「お金は俺が出すからいいよ。
そのお金は大事な時にとっときな。」

「でも…」

っていうか、子どもに売りさせてた親が小遣い渡してたのか?

「大丈夫だから心配しなくていいよ。それよりそのお金どうしたの?」

「お客さん…くれた…逃げるお金って…」

お客さんに貰ったのか逃げるための金ね、

奏くんは顔を曇らせている。

「どうした?」

「悪い子…」

「ん?誰が?」

「僕…悪い子…」

そう言ってボロボロと大粒の涙を落とす。

「どうして奏くんが悪い子なんだ?奏くんはいい子だよ。大丈夫、大丈夫。」

「うっ……ううぅ…お客さんのお金…お父さんに渡さなかった。隠した…悪い子…」

「でもそれは逃げるためにって別で貰ったんだろ?」

「うっ…でも…でも…お父さんいつも全部出せって言う…でも…でも…僕…僕…」

はぁ、なんか聞いてるだけでイライラしてきた。もちろん奏くんの親に、

「お客さんはそれで喜んでると思うよ。」

「……どうして?…っひく…」

「お客さんは奏くんに使ってほしくて渡したんだから、奏くんがお父さんに渡さなくて良かったって思ってると思うよ。」

「ほんとに…?…」

「うん、本当に。だからこのお金は大事に使おうな。」

「うん、」

財布をぎゅーっと握りしめて胸に当てた。
罪悪感がはれたかな。

「今日は使わないけど財布どうする?持っていく?」

「置いてくる。」

大事そうにダンボールに財布をしまう。

「じゃあ行こうか。いってくる。」

「はーい、気を付けてね。」

奏くんと手を繋ぎ、父さんと母さんに玄関まで出迎えられて家を出た。





「これ着る?」

車に置きっぱなしにしていた俺のパーカーを渡すとギュッと握りしめて頷いた。

フードを深く被り視界を狭くしている。

「じゃあ行こっか。」

シートベルトを付けて発進する。
しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

ふたなり治験棟 企画12月31公開

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

たとえば、俺が幸せになってもいいのなら

夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語――― 父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。 弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。 助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

処理中です...