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《200》作戦

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オスカーは一室の前で立ち止まった。
続いて、扉を2度ノックする。


「·····?」


たどり着いたのは応接室だ。


「失礼します」


扉の先に、三人の男がいた。


「レイゲル先輩」


一人は剣練部の副教官、レイゲル。
彼はシャツの上から簡易的な装備服を身につけていた。


「無事で何よりだ」


レイゲルが挨拶がわりに呟く。
温厚な面持ちは普段よりも硬かった。
礼をしたフランシスは、部屋の奥にいる他の二人に視線を移す。

1人はバイオレット髪の男。
彼はフランシスと目が合うとにこりと笑ってみせた。


「レハルト様!」


レハルト・シュタイン。
彼とは顔見知りだ。
帝国騎士団近衛騎士団長リカルド・シュタインの息子で、第二皇子の近衛騎士を務める剣豪の持ち主だ。

シュタインとラントンは親交が深い。
フランシスの四つ歳上であるレハルトは、兄のような存在だった。


(彼の隣にいるのは·····)


もう一人は、ローブのフードを目深に被った男だった。
闇よりも深い黒髪。影の隙間から、赤い瞳が覗いた。


(誰だ·····?)


「フランシス、頭を下げろ」


オスカーが耳打ちする。
黒髪の男がローブを脱いだ。レハルトがそれを受け取り、ソファにかける。
美しい死神を思わせるような男だ。

彼が身につけているのは、帝国騎士団の簡易装備。胸元で特徴的な紋章が輝いた。


「·····!!」


赤い瞳と、皇族の紋章。初めて会う者にも、彼が何者かは自ずと理解することが出来た。


「皇子殿下にご挨拶申し上げます」


フランシスは恭しく礼をした。


「···イアード殿下とレハルト様のおかげで、シヴァー家紋と黒の騎士団は神殿からの精神支配を免れた」


オスカーが説明を始める。

二人がシヴァー家へやってきた理由は、信頼のおける家臣を確保するためだろう。

黒の騎士団は、帝国騎士団に次ぐ実力派だ。
団長は、オスカーの父でありシヴァー家の当主であるヨアヒム・ダビド・シヴァー。第二皇子と共に死戦を勝ち抜き、名誉として黒の騎士団の管理を任されていた。

では、彼らは騎士達に包囲された屋敷に、どのようにして侵入したのか──フランシスは疑問を飲み込んだ。
レハルトには何度か手合わせを頼んだ事がある。圧倒的力の差は、鍛錬だけでどうにかなるものとは訳が違った。
だからフランシスは、彼を兄のように慕い、憧れている。

二人が騎士の監視の目をかいくぐりシヴァー家に侵入することは、決して不可能ではないだろう。


「洗礼当日、ロイドに会った」


ロイドとすれ違ったレイゲルは、すぐに彼の異変に気づいたという。
虚ろな目。顔からは、一切の表情が消えていた。
儀式に疑いを持ったレイゲルもまた、シヴァー家と同じく聖水を飲み込まなかったというわけだ。


「催眠を解く方法は一つ」


オスカーが一冊の本を机に置く。


「古代書です。聖女についてのことが記されています」












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