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《244》服を脱いで

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(そうだ!)


ノワは名案を思いついた。


「二人とも、服脱いで、こっちに来て」


「·····は?」


部屋の橋に待機していたレイゲルが、一文字呟く。


「·····ノワ様·····筋肉でしたら、後で俺とロイドが」


また変な誤解をされた。
だからって、何年前のネタを引っ張ってくるんだ。ノワは激しく首を横に振った。


「怪我してるから、治癒させて」


物理的距離を縮めることにより、心的距離も近づける作戦だ。
また渋り出しそうなロイドとレイゲルを廊下に待機させ、扉を閉める。


「さあ」


部屋に残されたオスカーとフランシスは、一瞬お互いに視線を投げた。
戸惑いが目に見えてわかるが、逃がす気は無い。これも彼らのためだ。
ノワは二人がシャツを脱いだのを確認し、両腕の袖を捲りあげる。


「立ってるだけでいいからね。ええと····痛かったら教えて、止めるから」


「御心のままに」


返ってきたのは崇拝の返事だ。

まず、オスカーに腕を伸ばす。
幸いにも浅い傷だった。ゆっくりと愛撫するだけで、痕が癒えてゆく。
しかし、左頬骨辺りの傷は少し酷かった。
赤紫に腫れ上がり、内出血しているようだ。ノワはオスカーの頬へそっと口付けた。


「·····!」

「な·····っ!」


彼の屈強な肩口が震え、隣にいたフランシスが小さな叫び声をあげる。


「ごめん、痛かった?」


自分でもまだ、この能力を完全には操作できないのだ。


「とんでもありません·····」


首を振ったオスカーの身体は熱かった。
まさか、熱もあるのだろうか。

暫く唇で愛撫していると、頬の腫れは引いていった。


「·····二人とも、この三年間、本当に頑張ったんだね」


ノワは今一度二人の身体を眺め、思わず呟いた。
鋼を重ねたような胸板に、頼もしい背中。昔、あれほど礼儀のなっていなかったフランシスの口は、ノワからの治癒を受けている今、固く閉ざされている。
少し寂しさを感じた。


「この傷は、どうしたの?」


「鍛錬中にできたものです」


フランシスが即答する。


「嘘だよ」


ノワは言い返した。
剣術の鍛錬で、殴り傷が出来るものか。

ピンク味を帯びた茶目はじっと伏せられている。
何がなんでも口を割らないつもりだ。


「フランシス」

「聖下」


フランシスは俯いたまま言った。










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