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1章

第12話

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《FRside》

 この間アルに会ったとき、日中は基本的に業務以外は暇だからと伝えたところ「俺と一緒にグラディドールに来てみるか?」と誘われた。何と、デートだ。しかも、好きな人と…。ライド様は一度も俺とデートなんてしてくれたことはなかった。けど、今回は本気で好きな人とデートをすることができる。想いは伝えないと決めた矢先のことだからその気持ちも揺らいでしまっているけど、ただ俺はアルと一緒に居られればそれで幸せだ。

「お~!!!」
「…あんまはしゃぐんじゃねえぞ」

 専属騎士であるリグを騙して王城を抜け出して来た俺はアルとグラディドール大帝国に来ていた。俺もアルも正体がバレてしまうと面倒なため、ローブを着てフードを目深に被っている。さすがはグラディドール大帝国の帝都。かなりの人だかりだ。店は栄えているし人も大勢いる。アリーシャリア王国では見られない光景に感動していると、前から歩いて来た人にぶつかりそうになる。が、アルに腕を引かれて間一髪避けることができた。

「あ、ありがと」
「…迷子になるなよ」

 キュッと繋がれた右手に、ヒュッと息を呑む。アルと手を繋いでいる。たったそれだけのことが嬉しい。突如アルが足を止めてある店を見つめていた。

「少し、見ていいか?」

 俺はその言葉に頷く。アルは俺の手を引いて見つめていた店へと足を進めた。気前のよさそうなおじさんは俺たちを見るとニコリと笑みを浮かべた。

「うちに目をつけるなんてやるな~、兄ちゃん!今日は掘り出し物がいっぱいあるんだぜ!」
「そうか」
「どうやら訳ありみてえな格好してるしよ~。今ならまけるぜ?」

 商売上手なことを言いながら次々アルに品を進めて行くおじさん。並ぶ商品を見ると確かに高価そうな物ばかりだ。掘り出し物と言われても納得できる。するとアルはペアになって置かれているネックレスに目を付けた。青紫の物と、エメラルドグリーンの物。対になっているかのようなネックレスを手に取りおじさんへと見せる。

「これは?」
「こいつに目ぇ付けるたぁやっぱりさすがだなぁ。これは西の果てに住む伝説のドラゴンの鱗から作られたネックレスなんだぜ。丈夫さは強固な盾にだって負けねぇ」
「これを貰おう」
「まいど!」

 アルは懐から硬貨を取り出しておじさんに手渡す。そしてネックレスを貰うと再び俺の手を引いて歩き出した。誰にプレゼントするんだろう。もしかして、もう既にそういう相手が…?気持ちを伝えない、一緒にいるだけでって思っていたけど、やっぱりそういうのを見てしまったらモヤモヤしてしまう。せっかくのアルとのデートなのに。そんなことを考えながら歩いていると急に視界が薄暗くなる。ここはどこだと辺りを見渡すと本通りから一歩入り組んだ路地裏のような場所だった。

「アル…?」
「これをおまえに…と思って」
「え、…」

 アルが差し出してきたのは、先ほど買ったばかりのネックレス。

「お、俺にくれるの?」
「…いらねぇなら、」
「欲しい!」

 食い気味に訴えるとアルは驚いたように目を見開く。俺はフードを脱いで、着けてとアピールする。アルは呆れ混じりに笑うと、青紫のネックレスを付けてくれる。自然と抱き締められる格好になり、ドキドキと胸が高鳴った。青紫は、アルの瞳の色。エメラルドグリーンは、俺の瞳の色。お互いに相手の瞳の色を身に着けるなんてロマンティック過ぎる。恋人でもないのに、こんなことされたら勘違いしちゃう。自身の首元で光る青紫を見つめ、これまで感じたことのないような幸福感が込みあがって来た。

「王族にこんな安物やるなんてお門違いかもしれねえが…」
「ううん。どんな高価な物よりもこれが一番嬉しい」

 そう言って微笑む。物の価値じゃない。誰に貰ったのかっていうことが一番大切なことだ。アルがくれるならたった一切れのパンだって嬉しいんだから。アルがくれたネックレスを愛しく思っていると…。

「おい、そんなとこで何をしている」

 聞き覚えのある声に、俺は咄嗟に声がする方へと顔を向けた。夕日色の髪に金眼。見覚えしかない顔だった。

「フィリ…?」

 案の定声をかけて来た。フードを被ったままだったらやり過ごせたかもしれないけど…。そこにいたのは何人かの部下を連れた元婚約者のライド様だった。見るところ、街の視察とでも言ったところだろう。

「ど、どうしてこんな場所に…。一緒にいるその男は何者だ」

 驚いた顔から一変。厳つい顔でアルを見つめている。アルの黒髪が見られてしまったら、アルに迷惑がかかってしまう。

「従者です」
「誤魔化すな、フィリ。親密そうにしていた相手が従者だと?おまえは俺の…婚約者だろう」

 それだけは、アルの前で言って欲しくなかったのに。アルはライド様の言葉を聞いてピクッと体を反応させた。

「黒ローブの男、答えろ。貴様は何者だ」

 責めるような口調。アルに迷惑がかかってしまった、と悲しんでいると、アルはグイッと俺の腕を引いて後ろへと隠した。そして、バサリとフードを取る。薄暗い中でもはっきりと分かる輝かしい黒髪が舞った。

「なっ!?き、貴様…」

 黒髪に青紫の双眸。名乗らずとも誰かなど一目見て分かるだろう。ライド様はもちろん、その後ろに控えていた部下たちも腰を抜かしてアルを見つめていた。

「元婚約者だか何だか知らねえが…今自分がどうすべきかくらい馬鹿でも分かんだろ」

 アルの威圧的なその態度に、ライド様は唇を噛み締めた。そのままアルに手を引かれ路地裏から抜ける。見逃してくれたらしいライド様をチラリと見ると、悔しそうに俯いていたのだった。





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