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3章

第14話

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《FRside》

 アリーシャリア王国第八王子グレン・シャルダ・アリーシャリア。俺の唯一の弟でもあった彼は、アリーシャリア王国の裁判にかけられ死刑よりも重い刑罰とされる洗礼刑に処された。既に刑が執行されたという。父様も自身の末息子だからと言って大罪を見逃すわけにはいかなかったみたいだ。世界でもトップレベルで高貴な王族であるのにも関わらず、裏世界に手を出した罪は計り知れないほどに重い。更には、精霊女王テリシーラの恩恵を賜る俺を手にかけようとした罪もある。グレンを庇うことは、被害者である俺でも無理だった。弟を失ったという心残りはあるけれど、仕方がないのかもしれない…。
 
「フィリア」

 名を呼ばれ、そっと意識を戻す。
 窓から差し込む眩い光を閉ざすように立つ愛しい人。その逞しい腕の中には、白い小さなお包みが。これもまた、都合のいい夢なのだろうかとも思うが、きっと違う。これは現実だ。アルも、アルの腕の中にいる、愛しい我が子も_______。
 グレンが刑に処されてから既に数ヶ月。少しだけ肌寒い、晴れ渡る快晴が美しいとある日のこと。俺たちの元へやって来たのは、待望の長子であった。長女の名は、アルトリア・ディル・エウデラード。俺と同じプラチナブロンドの髪と、エウデラード一族の証である青紫の双眸。異質な存在として生まれて来たアルトリアの誕生の噂は、既に裏世界中へと広まっている。

「アルトリアはおねむかな~?」
「抱くか…?」

 アルから慎重に手渡されるアルトリア。腕にかかる重みに命を感じた。「あうあ~…」とこちらに手を伸ばす愛しい愛しいアルトリアを優しくあやす。髪と同じ色をした長い睫毛が揺れる度に、大きな青紫の瞳も揺れる。顔全体は俺に似ているのに、目元だけはアルにそっくりだ。こんなにも無垢で愛らしい子は、一体どんなふうに育ってくれるのだろうか。考えただけで胸が高鳴る。

「フィリアにそっくりだな」
「目元はアルにそっくりだよ」
「そうか…?将来はおまえに似てきっと美人になる」

 アルは俺の隣に腰掛けて、そう言った。ふと目が合うと口元に優しくキスを落とされる。

「世界一の幸せ者だ」

 蜂蜜が溢れるような甘い甘い微笑みを浮かべた。
 それは俺の台詞だよ。まさか神様の気紛れとは言え、もう一度過去の自分に戻れて新たな人生を歩めるなんて思ってもいなかった。一度は死んだ人生。もう二度と間違いは犯さないと心に誓ったあの日の俺の願いが報われた瞬間だ。静かに生きたい、慎ましくありたい。愛しい人と、その子供。家族で静かに暮らすことくらいは、許されるだろう。

「フィリア。どうか、この先も俺と一緒に生きてくれ」
「何を今更…。アルがいない人生なんて、俺にはもう考えられないよ」

 アルの瞳が左右に震える。青紫の美しい花がしっとりと朝露を浴びたように濡れた。
 子供ができてからというもの、随分と涙脆くなってしまったようだ。俺と出会う前のアルからしたら、泣くことなどほとんどなかっただろうに。アルのこんな表情を見られるのも、この世にたった一人、俺だけなんだろう。
 
「愛してる」
「俺も…愛してるよ」

 蕩けるような声で愛の言葉を囁かれる。そして、徐々に近づく唇。重なる直前、瞳を閉じようとした瞬間。

「おまえら、俺たちがいること忘れてないか?」

 その声にハッと我に返る。唇は重なることなく離れてしまった。アルはそれが不服だったようで、ムッとした表情をしている。 
 声の持ち主は、お義父様。その隣にいたお義母様はこちらにやって来て、俺の腕からアルトリアを受け取る。「可愛いでちゅね~♡」と声をかけながら、あやし始めた。

「父さんまだいたんですか?」
「おいおい…。いるのは俺たちだけじゃないぞ」

 辺りを見渡せば、こちらを微笑ましく見つめるエルダ様の姿。お義母様が抱いているアルトリアの顔を覗き見たいアイダ様とイヴダ様。俺たちを微笑ましく見つめるユリアナとリンヤ様の姿があった。そして、大量のおもちゃを抱えてやって来たラリファラの姿も。
 誰が見ても、幸せな光景。前回の人生で俺が見たかった景色だ。
 思わず、目から涙が溢れ出した。


「アル…俺、すごく幸せだ」
「あぁ、俺もだ」


 涙を隠すように抱きすくめられる。
 待ち望んだ人生が、今ここに。
 静かで慎ましい人生が、これからも待っている_____。






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『婚約破棄をして静かに慎ましく生きることにします。だから俺のことは放っておいてください。』完結


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最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
たくさんの方に愛していただいた当作品は、無事に完結致しました🙇‍♀️後日、後日談を1話だけ上げます。
フィリアラールとアルトリウスの人生に祝福を!
他作品もよろしくお願い致します☺️
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