竜人嫌いの一匹狼魔族が拾った竜人を育てたらすごく愛された。

竜人嫌いの魔族、竜人の子供を拾う。

15.崩れる固定概念

「さあ、屋敷に戻るぞ。」

ジンの刺すような冷たい目に睨まれ、シロはさらに萎縮した。

帰りたくない…。
でも、怖い…。
帰らないと殺される…。

シロは走馬灯のように受けた暴力の日々を思い出した。恐怖で腰は抜け、足は震え、呼吸も上手く出来なくなった。

ジンは動こうとしないシロに痺れを切らし、片手を上げ洗脳魔法の構えをした。

「さっさと来い、クズ。」

その一声でシロの体は操り人形のように勝手に立ち上がり、ジンに向かって歩き出した。

（嫌だっ、行きたくない！）

そう願った瞬間、シロの体を操っていた魔力がブツッと消え、ルーフがシロを庇うように目の前に立っていた。

「おい、こいつの名前はシロだ。クズじゃねぇ。」

『人の姿』をしていたルーフは『本来の姿』に変わった。
ルーフの大きな背中でジンの姿は見えなくなり、シロはその場にへたり込んだ。

「っはぁ…、はぁ…、はぁ…。」

一気に呼吸が楽になった。しかし体中から汗が吹き出て、服や髪までも濡れていく。
体の震えもまだ止まらないが、ルーフの背中を見ていると安堵感で体の強張りが消えていく。

「下等な魔族が邪魔をするな。」

「へへっ。その下等な魔族様は、お前の洗脳魔法を簡単に消してやったぞ。魔族が下等なら、お前はそれ以下だな。」

ルーフがジンをバカにするように嘲笑うと、ジンの眉尻がピクリと上がり怒気が放たれた。

するとジンの足元から土が隆起しながらルーフとシロを目掛けて迫ってきた。
ルーフはシロを片手で抱え、高くジャンプをした。

「うわっ！」

一瞬で空高く飛び上がりびっくりしたシロが叫ぶと、ルーフはシロの肩を引き寄せた。

「俺と一緒にいたいなら、絶対離れるなよ。」

「は、はいっ！」

シロはルーフの腰に手を回し、しっかりしがみついた。柔らかい毛並みとは対照的にルーフの体は筋肉質で岩のように硬く、それだけでシロはすごく頼もしく感じた。

ルーフは落ちる勢いをさらに加速させ、ジンに向かって突っ込んでいった。ジンもすぐに防御体勢になって攻撃を躱すと、攻撃魔法を放った。同時にルーフも攻撃魔法を放つと、その隙を狙ってジンはシロに銃を向け、引き金を引いた。

「てめぇっ！」

ルーフは舌打ちをして、体勢を変えギリギリで避けたが、弾はルーフの肩に当たった。

「ルーフさんっ！」

肩から流れる血がシロの顔に飛び散り、シロは泣きそうな声で叫んだ。

ジンの戦い方は、プライドの高い竜人とは思えないほど卑劣なやり方だった。
ルーフは闇魔法でジンを攻撃し、防御体勢に入ったジンの足元を土魔法で両足を固め、拘束魔法を放ち、ジンの体を締め上げた。

「ぐくっ…！」

首元も締め付けられたジンは、苦しそうな表情を浮かべた。

あまりにも一瞬の出来事にシロは目を見張った。ローハン公爵家の中でもジンはダントツの強さだった。
ジンはこの世で1番強い、だから逆らってはいけないと思っていたシロの固定概念がバラバラと崩れ落ちていく。

ルーフはシロを下ろし、ジンに向かって歩き出した。

「お前、なんとか公爵家の従者だろ？公爵に伝えとけ。シロを連れて帰りたきゃ、てめぇが直接来いって。」

「…っ！！」

締め上げられたジンは話す事も息をする事も出来ずに涎を垂らしながら苦しそうにもがき、血走った目でルーフを睨みつけている。

「あひゃひゃひゃっ！！下等な魔族に勝てないってぇ、おまえー、弱すぎぃー。」

ルーフは勝ち誇った表情とおちょくるような口調で、ジンの両頬をムニっと引っ張った。

「ボロボロのぉ、体で帰るのぉー、可哀想だからぁ、アスディアに送ってあげるねぇー。
…家帰って、腕磨け。雑魚が。」

最後にジンを睨み付け、ルーフは転移魔法をかけジンをアスディアの山の中に飛ばした。