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天使は甘いキスが好き
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翌日。頭痛の酷さに鈴は欠席した。
「熱が下がったら病院へ行きましょうね」
十和子が心配そうに鈴に云う。
「お義母さんすみません」
「仕方がないわ。テレビの撮影じゃ、あなたが行かないと皆さんにご迷惑だし」
ナンシーは鈴の額にキスをして、テレビ局へ向かった。
「おばあちゃん、伊吹達大丈夫なの?」
「今頃保育園で遊んでいるわ。今おかゆを作るから、食べたらお薬を飲みなさいね?」
「…うん」
十和子が部屋を出て行くと、鈴はぼんやりとして窓の外を眺めた。今頃平片はどうしているだろう? 鈴がイギリスへ行ったら生徒会は? 中途半端な自分に嫌悪感を鈴は抱く。鈴は泣き腫らした双眸を閉じた。
鈴のイギリス行きの話しを、生徒会顧問から聞いた宮前達は、顔を見合わせた。
「なんですかそれ? 俺達初めて聞きましたけど?」
宮前が顧問に詰め寄る。
「私も驚いている処だ」
恰幅の良い顧問は困った様子で椅子を鳴らす。職員室は他生徒で賑やかだ。生徒会メンバーは昼休みに呼び出され、昨日担任にナンシーからの相談を受けていた。
「今回の日本訪問は、細川をイギリスへ連れて帰る目的でもあると、話していたらしい。校長とも話したんだが、せめて卒業まで待って貰えないか話してみるようだがな。これが普通の生徒なら何も云わないが…生徒会長に就任したばかりだし、絵のコンクールも控えている」
「私達も困ります」
一ノ瀬が泣きそうになって顧問を見詰めた。
「細川本人はお母さんから昨日伝えられたんじゃなかな。まぁ。最後に決めるのは細川本人だ。どんな結果になっても、受け止める覚悟はしておいてくれ」
宮前達が職員室を後にすると、三人とも言葉を無くして各々教室へ向かった。
ーーー鈴がイギリスだって?
上村は指の爪を噛みながら唸った。なんのアクションも出せないまま、お別れなんて考えたくは無い。上村はふと思い立って携帯を取り出した。相手は三コールで出た。
「あぁ、久しぶり。少し相談があるんだけど。姉さんのアパートの部屋今度借りたいんだ」
『は? 何よいきなり』
「落としたい奴が居るんだ」
『へぇ。面白そう。良いわよ。私も最近ムシャクシャしてたから』
姉はどうやら彼氏と別れて苛立っているらしい。
「じゃ、宜しく」
上村は通話を切ると、携帯をスラックスの後ろポケットに突っ込んだ。
誰かの気配が在る。額に乗せていたタオルを、傍に在った桶水の中の水で絞り直し、鈴の額に乗せる。
「また後で来るからな」
「う…ん」
優しい声。
ーーー祐太? まさか。
『―――考えさせてくれ…』
鈴は双眸を開く。涙で米神の皮膚が引き攣る。誰も居ない自室で鈴は息を吐き出した。
「……夢?」
上半身を起すと少し身体が軽かった。喉の渇きに水を求めて、鈴は階下へ降りる。
「…おばあちゃん?」
家の中には気配が無く、リビングテーブルにメモが置いて在った。
「買い物?」
メモには買い物に行くからと書かれて在った。鈴は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して飲む。そこへ玄関チャイムの鐘が鳴った。モニターには上村がひとり、所在なさげに立っている。
「……なんだ?」
鈴はテーブルの上に置いていた携帯を手に、玄関のカギを開けて門を開ける。
「やあ。具合はどうだ?」
「熱は下がったみたいだ。何かあったのか?」
見ると上村の背後にワゴン車が停まっていた。
「少し、話しをしたくて。家の人は」
「? 今は僕ひとりだけど?」
「そうか」
上村の眼が、辺りをきょろきょろと気にしているのを見て違和感を覚える。余程重大なのかと、鈴は中へ入れと促した。
「此処じゃなんだから、中で話すか? その内おばあちゃんが買い物から帰るだろうし」
「熱が下がったら病院へ行きましょうね」
十和子が心配そうに鈴に云う。
「お義母さんすみません」
「仕方がないわ。テレビの撮影じゃ、あなたが行かないと皆さんにご迷惑だし」
ナンシーは鈴の額にキスをして、テレビ局へ向かった。
「おばあちゃん、伊吹達大丈夫なの?」
「今頃保育園で遊んでいるわ。今おかゆを作るから、食べたらお薬を飲みなさいね?」
「…うん」
十和子が部屋を出て行くと、鈴はぼんやりとして窓の外を眺めた。今頃平片はどうしているだろう? 鈴がイギリスへ行ったら生徒会は? 中途半端な自分に嫌悪感を鈴は抱く。鈴は泣き腫らした双眸を閉じた。
鈴のイギリス行きの話しを、生徒会顧問から聞いた宮前達は、顔を見合わせた。
「なんですかそれ? 俺達初めて聞きましたけど?」
宮前が顧問に詰め寄る。
「私も驚いている処だ」
恰幅の良い顧問は困った様子で椅子を鳴らす。職員室は他生徒で賑やかだ。生徒会メンバーは昼休みに呼び出され、昨日担任にナンシーからの相談を受けていた。
「今回の日本訪問は、細川をイギリスへ連れて帰る目的でもあると、話していたらしい。校長とも話したんだが、せめて卒業まで待って貰えないか話してみるようだがな。これが普通の生徒なら何も云わないが…生徒会長に就任したばかりだし、絵のコンクールも控えている」
「私達も困ります」
一ノ瀬が泣きそうになって顧問を見詰めた。
「細川本人はお母さんから昨日伝えられたんじゃなかな。まぁ。最後に決めるのは細川本人だ。どんな結果になっても、受け止める覚悟はしておいてくれ」
宮前達が職員室を後にすると、三人とも言葉を無くして各々教室へ向かった。
ーーー鈴がイギリスだって?
上村は指の爪を噛みながら唸った。なんのアクションも出せないまま、お別れなんて考えたくは無い。上村はふと思い立って携帯を取り出した。相手は三コールで出た。
「あぁ、久しぶり。少し相談があるんだけど。姉さんのアパートの部屋今度借りたいんだ」
『は? 何よいきなり』
「落としたい奴が居るんだ」
『へぇ。面白そう。良いわよ。私も最近ムシャクシャしてたから』
姉はどうやら彼氏と別れて苛立っているらしい。
「じゃ、宜しく」
上村は通話を切ると、携帯をスラックスの後ろポケットに突っ込んだ。
誰かの気配が在る。額に乗せていたタオルを、傍に在った桶水の中の水で絞り直し、鈴の額に乗せる。
「また後で来るからな」
「う…ん」
優しい声。
ーーー祐太? まさか。
『―――考えさせてくれ…』
鈴は双眸を開く。涙で米神の皮膚が引き攣る。誰も居ない自室で鈴は息を吐き出した。
「……夢?」
上半身を起すと少し身体が軽かった。喉の渇きに水を求めて、鈴は階下へ降りる。
「…おばあちゃん?」
家の中には気配が無く、リビングテーブルにメモが置いて在った。
「買い物?」
メモには買い物に行くからと書かれて在った。鈴は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して飲む。そこへ玄関チャイムの鐘が鳴った。モニターには上村がひとり、所在なさげに立っている。
「……なんだ?」
鈴はテーブルの上に置いていた携帯を手に、玄関のカギを開けて門を開ける。
「やあ。具合はどうだ?」
「熱は下がったみたいだ。何かあったのか?」
見ると上村の背後にワゴン車が停まっていた。
「少し、話しをしたくて。家の人は」
「? 今は僕ひとりだけど?」
「そうか」
上村の眼が、辺りをきょろきょろと気にしているのを見て違和感を覚える。余程重大なのかと、鈴は中へ入れと促した。
「此処じゃなんだから、中で話すか? その内おばあちゃんが買い物から帰るだろうし」
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