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スウェントル王国編
1話 あらあら、まぁまぁ
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「母上、なぜ僕たちは、街の小道にいるのでしょうか?」
「あらあら、まぁまぁ。アクセルさんったら。私も知りたいくらいよぉ。」
なんて事の無い只の街の小道に、非常に貴族然とした若い女と少年が、二人で立っていた。
若い女は、クリスティーナ(長いのでクリスと省略する)と言い、少年と非常に似通った顔立ちをしている。
地位は公爵、夫は宰相、クリス自身も夫の手伝いで外交に赴いたり、王妃と内政について話をしたりする立場の女官でもある。長身で長い髪を後ろで結い上げ、煌びやかな髪飾りで留めている。万人が美しいと評する顔立ちだ。
少年はアクセルと言い、クリスの息子に当たる。
まだ変声期前の齢13にて、年子の兄がいるため跡取りではなく、将来は騎士を目指している真っ直ぐな心根を持つ少年だ。クリスの息子なだけあり、非常に整った顔立ちの美少年である。
クリス自身の年齢は不詳だが、二人並ぶと姉弟にしか見えない。
この二人、先ほどまで城下の貴族御用達の聖宝石店で、護身用のアクセサリーを購入していたところだったのだ。
なお余談だが、聖宝石とは特殊な力を宿した宝石で、紅いルビーは炎の力を、透明なダイヤは癒しや結界などの力を宿している。
クリスとアクセル以外の家族も一緒におり、また護衛も共にいた筈なのに、気がついたら二人で見知らぬ小道に立っていたという状況である。
普通ならば焦りそうなものだが、二人とも困った顔は浮かべているが、どこか冷静だった。
「あらまぁ。あのお店に転移トラップなんて感じなかったけど、どういう事かしら」
「母上、城下にはこの様な街の後景は見た事がありません。」
「とりあえず、アクセルさん。護身用の剣は持っていますわよね?」
「はい。母上も聖宝石は身につけておられますか?」
「先程購入したのも含めて、沢山身につけてるわ。ギラギラのキラキラよ。」
「…豪華ですね。さすが母上。」
街の小道だが、人通りは少なく、突然現れた二人を目撃した人物がいなかったのが幸いか。
母子はまず、どうすべきかを話し合った。
「護衛もいない事ですし、まずは情報を集めないといけないですわね。」
「僕たちの格好、お忍び用の落ち着いた服装ですが、やはり一般的には豪華に見えるのでは無いでしょうか?」
「そうねぇ。でも脱ぐわけにもいかないし、そこは諦め無いといけないわね。」
二人は歩き、まずは街の様子を伺う。
明らかに貴族な二人が街をお忍びで歩いている様子にしか見えず、街の人は二人が通ると自然と道を避け、お辞儀をする始末だ。
「やっぱり目立ちますね。母上。」
「致し方ありませんわ。…どうやら、言語は同じようですわね。」
「はい。聞こえてくる声、街中の文字共に我々の知る物と同様のものです。国内の離れた場所でしょうか?」
「いえ、この街の建築物は私たちの国とは違う様式ですわ。柱や装飾に、私達の国には見慣れないレリーフが彫られているもの。」
街中の建築物はレンガや石膏で基本作られており、クリスの国と文化レベル的には変わりが無いように感じた。
クリスの国は多神教であるが柱や壁に掘られるのは、国の守り神である獅子が主となっている。
しかし、現在街中で見える柱などの装飾は、美しい女性に蛇が纏わり付いている物、羽の生えた馬にまたがる裸の少年など、様々な物語性を持って街中を彩っている。
「私達の国とは別の国…ですか。」
「そうねぇ。唐突に転移した事を考えると、物語でも出てくる、裏世界かもしれませんわね。」
「裏世界転移…という、あの物語劇でよくあるものですか。」
「可能性はありますわ。私も、同言語の国はほぼ回ったと自負しておりますの。でも、この様な建築様式の国は見た事が有りませんわ。見る限り大きい国のようですしね。」
「…そうですか。…母上、それにしては冷静ですね。」
「あら、アクセルさんだって、まだ子供なのにすごい冷静じゃない。」
「もう子供ではありません!冷静なのは、母上が落ち着いているからですよ。」
「あらまぁ、可愛い子ね。」
なでなで、とクリスはアクセルの頭を撫でる。
クリスとアクセルの身長は、アクセルがやや小柄かつ、クリスが女性としては長身の部類に入るため、クリスの目の高さにアクセルの頭がある状態だ。
クリスとしては、息子が大きくなるのはあっという間で、この様に撫でれるのもあと少しという気持ちだが、アクセルとしては撫でられるのは嬉しいが、恥ずかしくまた子供扱いされているようで複雑な気持ちになる。
考えないといけないことは沢山あるが、二人とも、まずは一人だけで転移をしていたら、もっと取り乱していたかもしれない。
また、声には出さないが、宰相である夫や、嫡男である長子が転移に巻き込まれなくてよかった、と実際にこの二人は考えていた。
術式に詳しい夫の前で突然、伴侶と息子が消えたのだ。きっと元の世界で騒ぎになっているだろう。
しかし、原因の究明と元に戻る方法も、夫が見つけてくれるだろう、という謎の信頼感もあり、クリスは落ち着いているのだ。
「しかし、母上。どうしましょうか。この街の権力者に情報提供を求めましょうか?」
「あら、ダメよ。私達の国であればできますが、今の場では、身分証の無いならず者と変わりがないと理解しなければいけませんことよ。」
「そうですね。元の世界に帰れるかも不明ですし…」
「帰れますわ。お母様が着いています。保証しますわ。」
「…はい。非常に心強いです。」
アクセルは苦笑いを浮かべつつも、母がいて本当に良かったと実感した。
「まずは、お金を作らなければいけませんわね。宿の事もそれから考えましょう。」
「はい!分かりました!」
こうして、見知らぬ土地に飛ばされた母子の、貴族な冒険が始まろうとしていたのだった。
「あらあら、まぁまぁ。アクセルさんったら。私も知りたいくらいよぉ。」
なんて事の無い只の街の小道に、非常に貴族然とした若い女と少年が、二人で立っていた。
若い女は、クリスティーナ(長いのでクリスと省略する)と言い、少年と非常に似通った顔立ちをしている。
地位は公爵、夫は宰相、クリス自身も夫の手伝いで外交に赴いたり、王妃と内政について話をしたりする立場の女官でもある。長身で長い髪を後ろで結い上げ、煌びやかな髪飾りで留めている。万人が美しいと評する顔立ちだ。
少年はアクセルと言い、クリスの息子に当たる。
まだ変声期前の齢13にて、年子の兄がいるため跡取りではなく、将来は騎士を目指している真っ直ぐな心根を持つ少年だ。クリスの息子なだけあり、非常に整った顔立ちの美少年である。
クリス自身の年齢は不詳だが、二人並ぶと姉弟にしか見えない。
この二人、先ほどまで城下の貴族御用達の聖宝石店で、護身用のアクセサリーを購入していたところだったのだ。
なお余談だが、聖宝石とは特殊な力を宿した宝石で、紅いルビーは炎の力を、透明なダイヤは癒しや結界などの力を宿している。
クリスとアクセル以外の家族も一緒におり、また護衛も共にいた筈なのに、気がついたら二人で見知らぬ小道に立っていたという状況である。
普通ならば焦りそうなものだが、二人とも困った顔は浮かべているが、どこか冷静だった。
「あらまぁ。あのお店に転移トラップなんて感じなかったけど、どういう事かしら」
「母上、城下にはこの様な街の後景は見た事がありません。」
「とりあえず、アクセルさん。護身用の剣は持っていますわよね?」
「はい。母上も聖宝石は身につけておられますか?」
「先程購入したのも含めて、沢山身につけてるわ。ギラギラのキラキラよ。」
「…豪華ですね。さすが母上。」
街の小道だが、人通りは少なく、突然現れた二人を目撃した人物がいなかったのが幸いか。
母子はまず、どうすべきかを話し合った。
「護衛もいない事ですし、まずは情報を集めないといけないですわね。」
「僕たちの格好、お忍び用の落ち着いた服装ですが、やはり一般的には豪華に見えるのでは無いでしょうか?」
「そうねぇ。でも脱ぐわけにもいかないし、そこは諦め無いといけないわね。」
二人は歩き、まずは街の様子を伺う。
明らかに貴族な二人が街をお忍びで歩いている様子にしか見えず、街の人は二人が通ると自然と道を避け、お辞儀をする始末だ。
「やっぱり目立ちますね。母上。」
「致し方ありませんわ。…どうやら、言語は同じようですわね。」
「はい。聞こえてくる声、街中の文字共に我々の知る物と同様のものです。国内の離れた場所でしょうか?」
「いえ、この街の建築物は私たちの国とは違う様式ですわ。柱や装飾に、私達の国には見慣れないレリーフが彫られているもの。」
街中の建築物はレンガや石膏で基本作られており、クリスの国と文化レベル的には変わりが無いように感じた。
クリスの国は多神教であるが柱や壁に掘られるのは、国の守り神である獅子が主となっている。
しかし、現在街中で見える柱などの装飾は、美しい女性に蛇が纏わり付いている物、羽の生えた馬にまたがる裸の少年など、様々な物語性を持って街中を彩っている。
「私達の国とは別の国…ですか。」
「そうねぇ。唐突に転移した事を考えると、物語でも出てくる、裏世界かもしれませんわね。」
「裏世界転移…という、あの物語劇でよくあるものですか。」
「可能性はありますわ。私も、同言語の国はほぼ回ったと自負しておりますの。でも、この様な建築様式の国は見た事が有りませんわ。見る限り大きい国のようですしね。」
「…そうですか。…母上、それにしては冷静ですね。」
「あら、アクセルさんだって、まだ子供なのにすごい冷静じゃない。」
「もう子供ではありません!冷静なのは、母上が落ち着いているからですよ。」
「あらまぁ、可愛い子ね。」
なでなで、とクリスはアクセルの頭を撫でる。
クリスとアクセルの身長は、アクセルがやや小柄かつ、クリスが女性としては長身の部類に入るため、クリスの目の高さにアクセルの頭がある状態だ。
クリスとしては、息子が大きくなるのはあっという間で、この様に撫でれるのもあと少しという気持ちだが、アクセルとしては撫でられるのは嬉しいが、恥ずかしくまた子供扱いされているようで複雑な気持ちになる。
考えないといけないことは沢山あるが、二人とも、まずは一人だけで転移をしていたら、もっと取り乱していたかもしれない。
また、声には出さないが、宰相である夫や、嫡男である長子が転移に巻き込まれなくてよかった、と実際にこの二人は考えていた。
術式に詳しい夫の前で突然、伴侶と息子が消えたのだ。きっと元の世界で騒ぎになっているだろう。
しかし、原因の究明と元に戻る方法も、夫が見つけてくれるだろう、という謎の信頼感もあり、クリスは落ち着いているのだ。
「しかし、母上。どうしましょうか。この街の権力者に情報提供を求めましょうか?」
「あら、ダメよ。私達の国であればできますが、今の場では、身分証の無いならず者と変わりがないと理解しなければいけませんことよ。」
「そうですね。元の世界に帰れるかも不明ですし…」
「帰れますわ。お母様が着いています。保証しますわ。」
「…はい。非常に心強いです。」
アクセルは苦笑いを浮かべつつも、母がいて本当に良かったと実感した。
「まずは、お金を作らなければいけませんわね。宿の事もそれから考えましょう。」
「はい!分かりました!」
こうして、見知らぬ土地に飛ばされた母子の、貴族な冒険が始まろうとしていたのだった。
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